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【第350話】史書「ルデク動乱記」

皆様、いつも本作にお付き合いいただき本当にありがとうございます。

ブクマ、感想、レビュー、いいね、誤字報告も大変感謝しております。


完結までもう少し、という段階ですが、おかげさまで350話まで書き進むことが叶いました。

感謝の気持ちを込めて、本日はお昼にSSもUPいたします。よろしければお楽しみくださいませ。

 後にルデク動乱と呼ばれる、ルデクを中心とした一連の出来事。


 後世において、この動乱について記されたものはそれこそ星の数ほどにある。


 単なる私見から、荒唐無稽な物語まで含めるときりがない。ルデク動乱の書物だけを集める蒐集家が存在する程だ。


 それらの書物の中で、情報量、そして正確性ともに一級品の記録として重宝され、聖典扱いされている物が3つ。


 通称、「シャンダル記」「ツェツェドラ記」「レアリー記」と呼ばれる三記である。


 人によってはここに「リヴォーテ記」を入れて、動乱四記とする者もいる。


 ただ、リヴォーテ記は他の三記とかなり毛色が異なる。


 当時の時世よりも食に関するものや、ルデクを漫遊したと思われる記録が多いためだ。


 そのためリヴォーテ記を聖典に入れるかは、専門家の意見の分かれるところであった。


 なお、リヴォーテ記のみ本人の日記そのものである。当時の考えや風土を知る上では、極上の資料であることは間違いない。


 日記を見るに、リヴォーテはかなりの長期に亘り帝国の使者としてルデクに滞在していたようだ。他国の使者の視点から見たルデクや、当時の将軍達に対する客観的な感想、若き頃のルファ王妃との交流など、日々感じた事や出来事がつらつらと記されている。


 他の三記は、いずれもきちんとした編纂がなされ、原本は各国の書庫へと納められている。現在においては国宝として悠久の時を刻んでいる代物である。


 シャンダル記とは、後のゴルベル王となるシャンダル=アベイルの少年期の手記および記憶を元に、臣下にまとめさせたもの。


 シャンダル王はゴルベルがルデクの傘下に降った際に、人質としてルデクへ送られ、その後8年間の時をルデクの王都で過ごした。


 時はまさに動乱の終盤とも言える時期であり、多感な年頃であったシャンダル王は実に様々なものを見聞きし、学んだのだという。


 王がゴルベルを代表する名君と呼ばれるに至るには、この8年間の経験が非常に大きい。そのように本人が語り、次代へ自らの経験を伝えるために臣下に命じて、実に3年の時をかけて編纂された。


 ゴルベルでは現在においても、王位継承時にはシャンダル記を読み、理解しなければ王を名乗れぬ決まりである。



 ツェツェドラ記は当時の皇帝ドラク=デラッサの第四子、ツェツェドラ=デラッサの記録だ。


 こちらは帝国国内の視点で、動乱の顛末が記されている。また、当時の最新技術を駆使した巨大港、ドラーゲン建築の過程なども詳細に書き残されていた。


 特筆すべきは、ロア=シュタインと個人的に親しかったツェツェドラ公ゆえに、ロア=シュタインの直筆の手紙が数多く残されていたこと。


 それらの私信は最終的にツェツェドラの記録とともに、後の皇帝の指示でまとめられ、現在に至っている。



 最後の一つにして、最も深く動乱の詳細を記しているのがレアリー記だ。



 著者はロア=シュタインの妻、ラピリア=シュタインの実妹である。彼女は本人達から聞き出した情報を元に、ひとつの長大な物語として、一連の騒動を書き上げた。


 その内容の大半が当時の関係者の証言を元にしているため、物語でありながら、本件における世界で最も正確な史記となったのだ。


 現在様々な形で出回っているルデク動乱を元とした物語は、ほぼレアリー記を元としていると言っても過言ではない。


 弓の名手ウィックハルトや、鬼神の如き猛将であったザックハートを主人公に据えた英雄譚は、今も少年たちの憧れであり、ルファ王妃やラピリアの恋物語は少女たちの心を掴んで離さない。



 しかし、やはり主役はロア=シュタインであろう。



 三記、或いは四記において、いずれの記録であっても最も頁が割かれている伝説の軍師。ルデクの英雄、黒衣の宰相、ルデクの怪物。その肩書きには事欠かない人物だ。



 だが、ロア=シュタインを呼ぶのなら、やはりこの肩書きが一番しっくりくる。



 当時の君主、ゼウラシア王が最初にその言葉を贈ったとされ、北の大陸においてこの呼称はすなわち、ロア=シュタインの事を指すのが常識である。




 “大軍師ロア=シュタイン”



 彼の名は永久に、この大陸に語り継がれてゆくのだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ハクション!!」

 

 僕の大きなくしゃみに、ラピリアとウィックハルトは目を丸くする。


「風邪ですか? 今日は早めに休まれては?」


 心配するウィックハルトと、


「また誰かにしょうもない噂をされているんじゃないの?」


 と、全く心配していないラピリア。


 まあ、ラピリアが正解な気がする。特に具合が悪い感じではない。


「平気だけど、そろそろ休みは欲しいよね」


 僕が愚痴を漏らすように、ここのところずっと忙しい。


 旧リフレア領の統治は、ホックさんとザックハート様を中心に行われることとなった。


 ホックさんは隣国となったツァナデフォルとの関係を慮り、ザックハート様は今までゲードランドをまとめてきた手腕や、圧倒的な経験を買われての事だ。



 僕らはそんな2人と王都の繋ぎ役として、ルデクと旧リフレア領を行ったり来たりしながら調整に走り回っている。



 その甲斐あって漸く状況は落ち着きつつある。食料面で一番厳しいと想定されていた冬、そして春を大過なく過ごすことができたのも大きい。



 もう、凶作に関しては山場を越えただろう。



 というわけでそろそろ一旦まとまった休みを取るべきだなと思った。僕だけではなく、第10騎士団の主だった面々は似たり寄ったりだ。



 今度王都に戻ったら、ゼウラシア王に相談しようかなと思ったところで、ホックさんから知らせが。



「リヴォーテがロアに用があって、王都から向かっているらしいわよ」と。



 なんだかまだまだ休めなさそうな雰囲気に、僕は小さくため息を吐くのだった。





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― 新着の感想 ―
後世での記録は軍記物の醍醐味……最高ですね。 終わったかと思いきや、まだロアは休めそうにないの笑いました(多分これからも)
[良い点] もう素晴らしいの一言。
[一言] セーフ忘れてた!!
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