【第345話】真実② 会談
僕の大切な友人の一人に、ルファ=ローデルという女の子がいる。
彼女の美しく青く輝く髪は、南の大陸の一地域に生きる、サルシャ人の大きな特徴だ。
この髪色は純血のサルシャにしか現れない。サルシャ人とサルシャ人以外の父母からは、不思議と、赤い髪や茶色い髪色の子が産まれるのだ。
そしてもう一つ、ほかにはないサルシャ人の大きな違い。
それが、神秘的な赤みの掛かった瞳の色、である。
僕の目の前に立つサクリ、そしてムナールは揃って赤い目をしている。さらにムナールは赤い髪をしているのだから、ほぼ間違いなくサルシャの血が混じっていると断じて良い。
「、、、、あなた達は、サルシャの血を引くのか?」
僕の問いに、サクリは頷く。
「左様。だが、それは此度の話には関係のないこと」
サクリは早々に話題を転じようとしてくる。あまり触れてほしくないみたいだ。まあいい。サクリの言う通り、重要なのはサクリが何を言ってくるか、だ。
僕は軽く咳払いをすると「では、何をしにここにきたのか、改めて聞こう」とサクリへ強い視線を向ける。
一方のサクリは、赤い瞳になんの感情も込めぬまま「それよりまず伺いたい。貴殿がロア=シュタインか?」と聞いてきた。
そういえば名乗っていなかったか。
「ああ。私が、ロア=シュタインだ」
僕の返事に、サクリはしみじみと僕を見つめ、それから「若いな、、、これほどまでに若い相手であったか」と呟く。
僕も感慨深い。思い返せば、エレンの廃坑から始まり、これまでの戦いの背後には、いつだってこの老人の影が付き纏ってきた。小柄な老体から、あれほど多彩な策謀を講じてきたのか。
「サクリ殿、それで、ご用件は?」
僕らの間にしばし流れた奇妙な沈黙。それを破ったのはウィックハルト。サクリも少しハッとして、居住まいを正す。
「この度の戦いの落とし所を話に来た。単刀直入に聞こう。我々は降伏する。条件を伺いたい」
まあ、だろうな。さて、どう答えるか。こちらの希望としては、教皇の引き渡し。それに内容次第では純聖会の保護。
アレックスは約束通り全ての情報をルデクに流した。ゆえに、可能な範囲で約束は守るつもりでいる。
けれど、素直にそのまま条件を伝えれば、そこから新しい要望をねじ込んでくるかもしれないな。僕は基本的に純聖会以外のリフレアの神官を生かしてやるつもりはない。なら、まずは。
「こちらの希望を伝える前に、貴殿の要望を聞こう。無論、無条件に聞き入れるつもりはない。相応の対価を払うのであれば、そのようにお考えいただく」と伝える。
「では、まずはこちらの要望を申し上げる。とある人物を2人、助命頂きたい」
「2人? 誰と誰か?」
「一人は教皇、リンデランデ。これは貴殿らにとっても悪い話ではあるまい。貴殿らがリフレアを支配するのであれば、教皇は使い道のある駒だ」
、、、自国の教皇を呼び捨て、、、それどころか、駒扱いか。
「、、、、それで、もう一人は?」
「、、、、、、、」
帰ってきたのは沈黙。なぜここで黙るんだ? 先に名前を明かしたら、僕が絶対に了承しないような相手なのかな? サクリ自身という可能性もあるな。
「、、、答える気がないのか?」
「、、、、、」
「おい」ラピリアが苛立ち気味に一歩足を踏み出したけれど、僕が止める。
「なら、先に対価を聞こう。貴殿は何をもたらす?」
「、、、、ルデクの被害を最小限に、本山を落として見せよう」
「どのように?」
「、、、、、」
これも答えたくないか。どうするかな? 、、、いいか。許可しても。サクリの希望を聞いてみたい。
もう一人がどんな人物かわからないけれど、僕が納得のできる相手でなければ、生涯獄に繋ぐという選択肢もある。自由にさせる様な真似はしない。そこは譲るつもりはない。
「、、、、、分かった。サクリ殿の言葉が真実なら、そのもう一人の助命も認めよう。だが、条件がある」
「条件とは?」
「我々が待つのは、、、、そうだな。貴殿がこの陣幕を出てから二刻まで。期限を過ぎた場合は総攻撃をかけるし、保護した2人も首を落とす」
「、、、、それで構わぬ」
「それと、こちらからも条件がある」
「何か?」
「純聖会に所属する者で、この地を離れる覚悟があるものは、教皇と共に投降せよ。無論、純聖会以外の者が混じれば、その時は純聖会の者も含めて首を落とす。承知の上で人を選べと伝えよ」
僕の言葉で、サクリは納得がいったと言う顔をした。
「なるほど、純聖会の者を手に入れていたのか、、、ゆえに、聖永会の名前が出たのか」
それで思い出した。僕はついでに聞いてみる。
「ヒューメット=トラドはどうした? 本山にいるのか?」
サクリは笑う。お前がそれを聞くのかと言っているように見えた。
「ヒューメット=トラドは死んだ。どこぞの策士の虚報に踊らされて憤死だ。あの者にふさわしい最期だったわ」
「そうか」
そうか、、、、ヒューメット=トラドは死んだのか。特になんの気持ちも湧き上がらないなぁ。
「聞きたいことはそれだけか? では、こちらのもう一人を伝える。ここにいるムナール、この者の助命を希望する。此奴は命令されてこの場にいるだけだ。できれば、助命後は解放し、この者の思うがままに生きてほしい」
「なっ!?」
一番驚いたのはムナール本人。
先ほどまでずっと無表情だったその顔が、困惑と驚愕の入り混じったものに変わり、口を開いたままサクリを見つめるのだった。




