表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
347/379

【第329話】フェマスの大戦15 壁の先に。


 フェマスの北西の山中に、密かに作られた砦の中。


 中央砦を使用できない代わりに、本陣として据えられた建物だ。サクリはそこで戦況報告を受けていた。ここにはサクリ以外に、聖騎士団のショルツの部隊も詰めている。


「中央と東は概ね予測通りになった、西は、、、少しこちらが押され始めたか、、、やはりの、、」


 サクリの呟きにショルツが首を傾げる。


「やはりとは? 兵数も、布陣もこちらの方が圧倒できる状況に思いますが?」


 サクリはショルツをチラリと見ると、小さく首を振った。


「ショルツ殿、聖騎士団の方には申し上げにくいが、それでも話して宜しいか?」


「、、、ここで話を切られるよりは、マシですね」


「左様か。ならば端的に申し上げれば、この差は兵の地力の差と言えますな」


 本当に端的すぎて、流石にショルツも顔を顰めて抗議する。


「サクリ殿、聖騎士団は決して弱くはありませんぞ?」


「分かっております。聖騎士団は弱くない」


 予想外の返答で、面食らったままのショルツに、サクリは続ける。


「聖騎士が弱いのではなく、ルデクの騎士団が強いのです。練度が、、、いや、経験値といった方が良いか。兵たちの経験値が違う。ルデクはおよそ10年、ゴルベル、帝国と戦い続けてきた、訓練では得られぬ経験を、兵一人一人が体験し、生き抜いてきたのです。その差が今こうして現れておるのです」


「、、、、なるほど。我々は実戦経験に乏しい。それが劣勢の原因か、、、」


 納得したショルツであったが、こればかりは訓練ではどうしようもない事だ。しかし、ルデク兵を精強たらしめた原因が、己を含めた自分達の国にあるのだから、とんだ因果である。


 それにもう一つ。兵糧の不足は隠せない状況になっている。兵士たちが不安を感じ、そしてそれは、士気に小さくない影響を与えてきた。



ーーツァナデフォルの兵がおればーーー



 サクリは密かに唇を噛んだ。今回の準備は、ツァナデフォルの兵士を投入することで完成する策であった。西はツァナデフォルを中心に戦いを展開すれば、現在のような状況にはなっていない。


 本来であれば、今頃は中央に続いて西部のルデク兵も甚大な損害を被っていたはずである。


 そうなれば、勝ち。


 そう考えていただけに、ツァナデフォルがこの場にいないのは痛い。援軍を約束したツァナデフォルであったが、深刻な兵糧不足を理由に参戦を渋っていた。


 こちらが兵糧を負担すると持ち掛けても動こうとしない。ルデクか、帝国が何かしらツァナデフォルに仕掛けたか?


 今も交渉は続いているため、まだツァナデフォルが参戦する可能性が潰えたわけではないが、期待は薄い。


 ツァナデフォルが使えぬのであれば、臭水(くそうず)を使って西側も燃やしてしまった方が良いのだが、これ以上臭水を使うことはできなかった。


 臭水の余剰はまだある。だが味方を焼いてしまうのが問題だ。中央は使い捨ての第一騎士団であったから、この方法が許可されたのである。他の場所で火計を使用して聖騎士団に被害があれば、首脳陣は黙ってはいないだろう。


 そのため、少なくともこの戦場において臭水の出番はほとんど終わっていた。


「私が出ようか?」ショルツが聞いてくる。


「、、、、いえ、将軍はこのままで」


 ショルツの部隊は”壁のこちら側”の状況を見てから動かしたい。今はとにかく西側に関しては耐えてもらう他ない。


 様々な想定を繰り返し、地図を睨み険しい顔をしているサクリの元に、新しい報告が届く。


「ルデクの部隊が東側から壁のこちらへ進軍を開始! 旗印から第10騎士団の者どもと思われます!」


「ようやく、動いたか」


 サクリは一転、先ほどまでの険しい顔を緩めて、報告に来た兵士を労うと、


「機会を間違えるな、と、伝えよ」と言って伝令を送り出す。


「ショルツ将軍、おそらく出番はもうすぐございますよ」


 そのように言ったサクリの顔には、今度は不敵な笑みが広がっていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「くれぐれも気をつけて。劣勢であればすぐにこちらへ撤退するように」


「もう、子供のお使いじゃないのよ」


 と、僕の足を軽く蹴るラピリア。


 進軍の準備は調った。最初にラピリア隊とカプリア隊が中央砦と東の壁の間を抜けて、壁の向こうの状況を確認。問題なければ、橋頭堡を確保したのち、第二騎士団を合流させる。


 僕とフレイン隊は第三騎士団の再編を待って、ザックハート様と合流した後、壁の向こうへ進軍というのが基本路線だ。


「ラピリア中隊、出るぞ!!」


 凛々しく宣言するラピリアを見送る僕の肩を、フレインが軽く叩いた。


「そんな顔をしていると、兵士が不安がる。キリッとしていろ」と。


「うん。ごめん」フレインに注意された僕は、気持ちを切り替え、表情を改める。


 実際のところ、東側だけでも壁の向こうでの戦闘に移行すれば、ルデクはかなり優位に戦況を進められるはずだ。


 一進一退の戦いを続けている西側、第七騎士団のほうの敵も、戦場が北部へ移ったとなれば北へ退き始める可能性がある。


 ここが一つの分水嶺になるかもしれない。


 そうして先行部隊が壁の横を抜けて行った直後のことだ。青空の下、落雷のような異様な音が戦場に轟いた。



「ああっ!! 崩れるぞ!!」



 誰かが悲鳴のように叫ぶ!


 声と視線の先には、中央の砦。否、今は瓦礫の山になっている場所。そこから次々と瓦礫が崩れ、つい先ほどラピリアたちが駆け抜けた通路に積み重なってゆく。



「道が遮断される!!」


 また別の誰かが叫んだ。


 僕らの目の前で、道だった場所が見る間に瓦礫の山へと変貌してゆくが、止める術がない。。



 やられた! 中央砦の瓦礫は砦に進めなくするためのものではなかった! このために、瓦礫を積んでいたのだ!!




「ラピリア!!!」




 なおも崩れ続ける瓦礫、ラピリア、カプリア両隊が壁の向こうに完全に分断される中、僕の叫びは空虚に響いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] う~む、戦術的にはサクリが上手か
[一言] あぁぁぁ、ラピリアが! ここにショルツが投下されるのかな。 サクリの言う、練度の高い兵士たちを連れたラピリア隊・カプリア隊が、壁の向こうを蹴散らしてくれることを期待します……! なによりラ…
[一言] ラピリア〜‼︎ 私の叫びも空虚に響く ラピリア〜‼︎
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ