【第292話】騒がしい三人(中) 僕の目的
絶品のポージュによる食事を済ませると、騒がしい3人の打ち合わせが再開した。
「それじゃあ僕らはまた夜にでも」
そう言ってやんわり戦略的撤退を企んだ僕であったけれど、その目論見はあえなく失敗。他の同行者が観光に出かける中、僕とサザビーだけは打ち合わせの場に連行される。
「なんで俺まで、、、、」
嫌々付いてくるサザビー。
「しょうがないじゃないか、ネルフィアは完全休養だし、リュゼルやフレインも休ませてあげたい。僕を警護する人がいないと、後で怒られるし。。。シャリスも気分転換に連れてきたのに、こんなことに巻き込まれるのは可哀想じゃない?」と僕がいうと、「俺もそれなりに休みなく働いていますけれど!?」と大いに抗議してくる。
「それになんでリヴォーテ殿まで観光に行っているんですか?」
「それは僕の管轄外だよ」
そう、リヴォーテはルルリアに付き従うでもなく、詳しい話は夜にとだけ約束すると、早々に遊びに出掛けて行った。
そうして連れて行かれた僕らだけれど、3人が話し合っている内容はほとんど分からない。港作りなど完全に専門外だ。
時折、、、というか、頻繁に揉めるので、その都度間を取り持つのが僕の主な仕事である。
いや、分かっていたけれど、個性が強すぎる3人である。
ただ、それぞれ三者三様に優秀なので、話し合い自体はものすごい速度で進む。何か決まるたびに部下が飛び出したり駆け込んだりするので、活気で溢れかえっている。
参加せずに見ている分には、ある種面白い見せ物かもしれない。。。。巻き込まれた僕はたまったものではないけれど。
侃々諤々の半日が終わり、みんなが戻ってきたところで今日の打ち合わせはここまでとなった。
首をバキバキと回しながら大きく息を吐いたノースヴェル様が「そういえば、ロアは俺に用があるんだったな? 今日はこの後色々指示を出さねえといけねえ、話を聞くのは明日でいいか?」と聞いてくる。
そう、僕はルルリアがやってくるのに合わせて、ちょっと大切な用を持ってきた。ただ、別に今日中に伝えなければならない話ではない。
「構いませんよ。それに、僕の話にはルルリアやスキットさんも同席して欲しいので、お二人の予定も確認したいのですが」
「私は構わないわよ。ノースヴェル様がロアに取られるのなら、どのみち話は進まないし」
ルルリアは快諾したけれど、スキットさんは難色を示す。
「俺もか? また妙なこと、企んでるんじゃねえだろうな」
非常に懐疑的なスキットさんだけど、心外である。僕がスキットさんの前でおかしなことを企んだ覚えは、、、、いや、あったな。
「一応結構重要な話ですし、スキットさんの”面倒を見たい”人たちにも無関係とは言えないのです」
「ああん?」
いよいよ胡散臭そうに僕を見るスキットさん。けれど、スキットさんが面倒を見ている、帝国のあぶれ者にも影響があると聞いて、少し考えてから「仕方ねえな。今日は俺、この街の酒を楽しむつもりだからな。明日集まるなら昼過ぎにしろや」と承諾。
そんなスキットさんの提案で、時間は昼過ぎに決まる。僕の話のあと、3人はそのまま本日の話し合いの続きをする、という事でまとまった。
こうしてそれぞれ立ち上がると、ノースヴェル様が手を広げながら「夕食は一応用意してある。まあ、形ばかりの歓迎の宴だ。おいスキット、外で酒を楽しむ前に、少しつら、出せや」と言い、
「めんどくせえな。良い酒は出るんだろうな?」
「あたりまえだ」
「なら文句はねえよ」
などと言いあいながらも、並んで部屋を出てゆく。なんだかんだ仲良いな。
僕は後から席を立ったルルリアに近づくと、「後で時間取れる?」と耳打ち。ルルリアは目を瞬いてからすぐになにか察したようで「どこにいけば良い?」との返答だ。
「サザビー、どこか用意できる?」
「わかりました。手配しておきますよ」
そんな短いやり取りで、僕らは夜、再度集まることに決まった。
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サザビーの手配した部屋には、僕、ルルリア、サザビーと、ネルフィアがいた。ネルフィアとサザビーは僕が何を話すか知っている。
なのでネルフィアが無理して参加する必要はないのだけど、「立ち会っていたほうが精神的に落ち着きます」との事で同席。お仕事中毒ですなぁ。
ルルリアと一緒にやってきた護衛の人には、申し訳ないけれど少し席を外してもらっている。
幸いなことに、ツェツィーの所の兵士さんからは、僕はそれなりに信頼されているので、食い下がることなく聞き入れてくれた。
「、、、この人選。つまり”貴方が一度見た”ことに関することなのかしら?」
ご名答だ。だから僕が未来を知っていることを知っている3人しか、この場にいない。
「そうなんだ。どのみち明日になればノースヴェル様にも協力は仰ぐのだけど、色々ぼかした説明になる。だから、ルルリアに突っ込まれる前に話しておこうと思って」
「あら、私だって場の雰囲気は読むわよ? けれど先に教えてもらえるのは正直ありがたいわね。それで、何が起きるの」
身を乗り出して話を聞く体勢になったルルリア。
僕は少しためて、一言。
「雨が降らないんだ、それに、気温が上がらない」
「雨? 確かに良い天気だけど?」
「帝国では今年になってからどの位雨が降った?」
「そうね、、、、言われてみれば、今年は雨が少ないし、少し涼しい気がする」
「このまま収穫期までいったら、どうなると思う?」
僕の言葉に、ルルリアの顔色が変わる。
「まさか!」
「1000年に一度の凶作が起こるよ。乗り越えるための準備を始めたい。協力して欲しい」
これから、北の大陸では大凶作が起こる。
かつて僕の知る未来で、「ルデクの呪い」と呼ばれた、未曾有の混乱の足音は、ひたひたと近づいてきていた。




