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【第272話】タークドムの貴族


 タークドムを治めているのはシビリアン家という貴族だ。当主のダーシャ=シビリアンは高齢ながら現役で、親王派の貴族としてよく知られている。


「ゼウラシア王の戴冠式では錫杖を渡す役目を賜ったような方ですからね」


 サザビーの説明を受けながら、僕らはタークドムの街へ向かっていた。任務はエンダランド翁の護衛である。


 通常ならば僕が出るべきかは微妙なところだけれど、エンダランド翁の言っていたことが看過できなかったので、ついてゆくことにした。


 サザビーに話した内容が事実であれば、エンダランド翁は反乱を企んでいる貴族が分かっているという。その上でダーシャ公のところに旧交を温めに行きたいとなれば、無関係とは思えない。


 ダーシャ公が何か知っているのだろうか? そもそもエンダランド翁はどうやって情報を掴んだのかも不明だ。


「本当に私が同行しても?」そんなふうに聞いてきたのはゾディア。


 エンダランド翁がやってきた日、僕らはゾディアと食事をする約束をしていた。凱旋式から色々と忙しく、中々落ち着いて話をする機会がなかったのだ。


 この日、ようやく話せると思っていたら、エンダランド翁もついてきた。


 確かに帝都に出入りするゾディアと、エンダランド翁には面識がある。けど、この日は遠慮して欲しかったのが正直なところ。


 僕としてもルデクに帰還してからの積もる話があったし、ゾディアにはそれを聞く権利があったのだから。


 僕の願いむなしく、結局遠慮することなく参加した食事の場で、エンダランド翁がゾディアに同行を願ったのである。「老人同士の話など、辛気臭くて敵わんから、綺麗どころがいた方が楽しかろう」と。


 ゾディアは少し考えてから、同行を決めた。何やら目を弓形にしていたので、ゾディアなりに興味を引くものがあったということか。


 というわけで今タークドムへ向かっているのは、僕とゾディア、エンダランド翁に加えて、エンダランド翁と仲良しの双子、お馴染みのウィックハルトとラピリア。そしてサザビーの8名。


 ちなみに、この流れなら必ず付いてきそうなネルフィアは仕事で王都にいなかった。


「良い天気じゃの」


 エンダランド翁とゾディアは馬車に揺られながら、空を見上げる。


 好天が続いている。空には小鳥が飛んでいた。


「そういえば、ロア殿、お主のそのマント、なんで三日月とつばめなのかの?」


「あ、それはですね、、、、」


 隊旗の由来を説明すると、「王子が関わっていたのですか?」とゾディアも喰いついてくる。


 この三日月つばめの漆黒のマント、凱旋式で人々にかなり好評で、僕らが大きな注目を集めるのに一役買った。


 その結果、反応を見たゼウラシア王から、第10騎士団で揃えようかという話が上がっている。


 元々第10騎士団には、騎士団の旗というものがない。


 王が騎士団長なので、強いてあげれば、王族の象徴である四つ目獅子になるのだけど、流石に四つ目獅子を使うのは憚られたためだ。


 表向きは臨時の騎士団という位置付けであった、第10騎士団ならではの問題だったのだけど、臨時だなんだと文句を言ってきた者達は今、淘汰されつつある。


 そこで、今回の凱旋式で人々の印象に残り、かつ、次代の王ゼランド王子がデザインに一枚噛んでいる三日月とつばめはどうか、という事になったのである。


 僕としてはそれなりに愛着はあるけれど、特に歴史がある物でもない。第10騎士団の象徴とするならどうぞご自由にという感想。


 一先ずは第10騎士団の中でも、位の高い将兵の分を揃えて、様子を見ながらの運用と決まっている。それでも1000以上のマントが必要となる。工房長のルジームさんが職人さんを総動員して大慌てで製造しているはずだ。



 ダラダラと雑談をしながら進み、タークドムへと到着。



「出迎えはないようですね、、、、エンダランド様の方でダーシャ公と連絡はとっていると聞きましたが、、、」ササビーが言うと、エンダランド翁は「あれは嘘じゃ」と当然のように言う。


「え!?」流石に面食らうサザビー。


「突然訪問した方がおもしろかろう」とニヤニヤするエンダランド翁に



「さすがじじい、分かっている」

「びっくりさせてこそだな」


 と妙に納得している双子。



 サザビーが何か言おうとして、一瞬僕を見て小さく首を振った。諦めたな。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「貴様! まさかエンダランドか!? まさか自分からノコノコやってくるとは! 誰か槍を持て! 長年の因縁にけりをつけてやるわ!」


 再会して早々に激昂するダーシャ公。これ、絶対に仲良しじゃないな。


「急にどうしたのですか父上!? 落ち着いてください!」とオロオロしているのはダーシャ公の息子、シャッハ様だ。


 いきりたつダーシャ公に対して、カカと笑いながら「元気そうであるが、お前も良い歳なのだから、もう少し落ち着きを持った方が良いぞ」などと焚き付けるようなことを言う。完全に揶揄っている。


「貴様が目の前にいなければ落ち着いておるわ! 何しにきた!」



 まだ興奮のおさまらないダーシャ公に、シャッハ様が水を持ってやってくる。



 ダーシャ公が乱暴に受け取って水を口に含んだ瞬間、「ダーシャよ、お前、貴族の内乱の取りまとめをしておるじゃろ?」と言い放つエンダランド翁。



 ダーシャ公が盛大に水を噴き出し、エンダランド翁と双子だけが楽しそうに笑っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界、女子だけじゃなくて、じー様たちも愉快な人が多いんですね(笑)
[一言] エンダランド翁とダーシャ公、友達だとばかり思っていたら、いきなりの暴露!! 楽しそうなのは翁と双子ばかり。 ド直球な質問ですが、ダーシャ公はなにを語るのでしょう。いきなり悪の総元締めをロア君…
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