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【第265話】ゴルベル使節団⑤ 双子の催し

今回のお話、構成上、時系列が前後してすみません。

 催し物開催の当日の朝を迎え、僕らは指定の場所へ集まり、開会の時を待つ。


 昨日、双子の考えた催しの内容をシーベルトに伝えたところ、すこぶる乗り気で無事開催が決定。午後は急遽、総出で開催準備に追われる事となった。


 大騒ぎで何やら準備をしている兵士たちに、ヴァジェッタの住民も何事かと目を丸くする。そんな市民へは、兵達が口頭で「こんなことをする」と宣伝して回った。


 とにかく全てが大急ぎで動き、どうにかこうにか形になったのである。


 王都をぐるりと囲むように設えられた観覧席には、朝から既に多くの市民が訪れていた。


 まだ全ての観覧席は開放されておらず、人々が集められた王都の正門付近は足の踏み場もないような状況だ。


 人々を正門から見下ろす城壁の上に、ゴルベルの王シーベルト及び、ルデクの王子、ゼランドが並び立つと、銅鑼が鳴り人々の視線を集める。


 本来であれば広場で行う予定であった演説を、この城壁の上で執り行うのだ。


「皆の者! 聞くが良い!!」


 よく通るシーベルトの声に、先程までのざわめきが少し収まり、人々が耳を傾ける体勢となる。


「先だって我々がルデクに庇護を求めたことで、今後どうなるか不安に思っていた民達も多かろう! だが、安心して欲しい、ルデクはゴルベルを粗略に扱わぬことを約束してくれた! 元はといえば我らが始めた戦いも水に流し、早急に工芸品に必要な部材も仕入れられるように、そして南の大陸でも捌けるように手配してくれる!」


 おお! という声が様々な場所から上がる。多くの市民にとっては死活問題だった件だ。ほっとした人も多いだろう。


「それだけではない!!」


 ざわついた人々が再び王に注目する。


「ルデクは、我々に新たな産業を与えてくれるという! それは、まだ世にも出ていないような新しい船の造船である! 今後、造船業が軌道に乗れば、我が国に大きな利益をもたらすことは間違いない! もとより我らは、この手で美しきものを作り出すことができる民である! 南の大陸にも轟くような美しい船を造り、この国を豊かにしようではないか!!」


「おおお」

「王よ万歳!」

「ルデク万歳!」

「ゴルベル万歳!」


 今度こそ民達から万雷の歓声が上がる。人々の表情が明るくなるのは、ルデクでなくても良いものだ。


 歓声が少し落ち着いてから、今一度シーベルトがゆっくりと口を開く。


「それではルデクから吉報をもたらしてくれた、ゼランド王子からも一言いただこう」


 シーベルトに紹介されたゼランド王子が一歩前に出た。


「ヴァジェッタの皆様! 初めまして、私はルデク王ゼウラシアの第一子息、ゼランドです! 本日は、ルデクとゴルベルの友好のために参りました! シーベルト王からお話があった通り、ルデクは頼ってきた貴国を軽んじるつもりはありません! 両国、そして帝国とも手を取り合って、皆で豊かになりましょう!!」



 うん、やっぱり心配することなかった。堂々としたものだ。ゼランド王子、もしかして本番に強いタイプかな?


 僕が微笑ましく見ている横で、ゼランド王子の演説は続く。


「本日は、皆様に楽しんでいただきたく、”競い馬”という催しを準備いたしました! どうぞ皆様! 観覧席にて、達人達の見事な騎乗をお楽しみください! 1着を当てた方には賞品も用意してあります!!」


 人々の大歓声と共に、ゼランド王子から競い馬の開会が宣言された。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ーーー競い馬の前日、双子がやって来た後の事ーーー



「競い馬って、なんですか?」



「知らんのか」

「仕方ない、教えてやろう」


 聞きなれぬ言葉に首を傾げるシーベルトに、自慢げに勿体ぶる双子。


 それ、多分ほとんどの人が知らないからね。僕も同じこと聞いたでしょ? あとその人、ゴルベル王ね。敬意、敬意。


 シーベルトに限らず、ほとんどの人間がピンときていない中、「ああ、あれですか。確かに面白いかもしれません」と言ったのはウィックハルトだ。


「あれ? ウィックハルトは知っているの?」


「ええ、以前たまたま。第二騎士団が行っている馬の競争のことでしょう?」


 双子とウィックハルトの説明によれば、元々は第二騎士団の訓練の一環なのだという。第二騎士団が拠点にしていた砦の周りを馬で数周回って、速さを競うのが基本ルール。


 次第にゲーム性が磨かれていくと同時に、兵士たちが賭け事として遊ぶ遊戯に変わっていったらしい。


「え? 賭けてたの?」騎士団全体での賭け事などあまり聞いたことがないけれど。


「もちろん王には内緒だ」

「だが、賭けた方が盛り上がるだろ?」


「それは、今言っちゃダメでしょ、、、、」


 そんな僕らの会話に苦笑しながら、


「いや、賭けるというのも面白いかもしれませんね」と参加してきたのは、意外なことにシーベルトだ。


「しかし王よ、崇高な儀式で賭け事というのはいささか、、、、」と苦言を呈するクオーター。


「いや、クオーター、民が直接金を掛けるのではなく、当たったら王から賞品が出るとすればどうだ? 盛り上がるのではないか?」


「なるほど、それは面白いですね、、、しかし、肝心の賞品はどうされますか? 時間がありませんが」


「いや、その場で手渡す必要はない。当てた者には引換券を渡して、品を準備してから渡せば良い」


 、、なるほど、面白いこと考えるな、シーベルト王。それなら、、、


「せっかく、ルデクとの友好の催しですので、ルデクから何か賞品を出しましょう」と、僕も提案。


「いや、それでは申し訳ない。数がどれだけ必要かわかりませんし」


 しばし僕とシーベルトの間でやり取りをした結果、賞品はルデクの物で、費用は折半と決まり、僕らは準備を急ぐのだった。


 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「それでは、ルールを説明します!」とゼランド王子に変わって声を張りあげるウィックハルト。


 こうしてゴルベル史上初めてとなる、競い馬大会が始まったのである。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] そのうち、流鏑馬なんかも出てきそうですよね(笑)
[一言] >崇高な儀式で賭け事というのはいささか、、、、」と苦言を呈するクオーター。 いやいや、胴元って絶対儲かるんですよ? 下手に放置してアングラにもぐられるより 公営化して手綱(りけん)を握る方が…
[一言] 催し物…駒を人にして将棋やらチェスをする事があったけどそれかな?と思いきやあの双子がそんな地味な事をする訳がないか………
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