【第264話】ゴルベル使節団④ ロアの構想
「ルブラルの荷止め、ですか?」
歓迎会の翌日。シーベルトから明かされた街に活気がない理由。それは、隣国ルブラルから素材が入ってこなくなった事が原因と聞かされる。
「完全に止める、、、と言うほどではないのですが、北部を失ってから極端に商人の人数が減りました。数少ないルブラルの商人に事情を聞いたところ、どうやらルブラル王より制限が入ったと、、、」
なるほど。シーベルトの話だと、ルブラルはゴルベルを狙っているような動きをしていたらしいから、その一環といったところかな?
とはいえ、、、
「なんというか、、、、すみません」
そもそもルデクが北部を奪い取ったから、ルブラルが色気を出してきたのである。無関係な話ではない。
僕の謝罪に対してシーベルトは「いえ」と、顔を上げるように言った。
「原因という意味であれば、我が父がルデクに戦いを仕掛けたのが大元です。それまでは主にルデクから素材を仕入れ、ルデクを介して南の大陸にも工芸品を輸出していたのに、それが父上のせいでできなくなってしまった。苦肉の策としてルブラルからの輸入量を増やしたのですが、、、やはり、足元を見られる結果になりました」
特にゴルベルでは採れない染料の仕入れが止まった事が致命的で、多くの工房が休業に追い込まれたという。
「事情は分かりました。染料を始め、素材の販売に関してはもちろん、南の大陸への窓口も、戦争前に戻しましょう。工房の皆様にもそのようにお伝えください」
このくらいは王に聞くまでもない。ゼランド王子と目配せをしあって、その場で決める。急ぎルデクトラドに使者を送って、準備を調えてもらおう。
「ああ、そうしていただけると助かります。これでだいぶ楽になるでしょう」
心の底からホッとした顔をするシーベルト、本当にかなり厳しい状況だったのだろう。
「ところで、シーベルト王、実は一つ提案があるのですが」
僕の言葉に、緩めた表情を引き締めるシーベルト。従属国である以上、どんな難題を出されるかと心配しているのだろう。
「船、造りませんか?」
「は?」
僕の提案にシーベルトは、いや、居並ぶゴルベルの将官はみんなきょとんとする。
「実はですね、今ルデクでは新しい船を造る計画が進んでいるのです。完成したら帝国にも提供する予定なのですが、その船、ゴルベルで作りませんか? もちろん、当面は必要なものをこちらで用意します。材料費は支払っていただきますが、完成した船はルデクや帝国が買い上げましょう。適正価格での購入となりますので貴国にも相応の利益が生まれると思います。あ、最初は造船所の建築が必要なので、予算的に厳しかったら遠慮なく言ってください。ルデクが貸し出します」
これが僕の考えた、ゴルベルをルデクの経済圏に取り込む方法だ。
造船所であれば、新港のようなバカみたいに大規模な造成工事は必要ない。安定して船が作られるようになれば、ゴルベルの財政も大きく改善されるし、何より雇用が生まれる。
出来上がった未来の船の性能を見れば、海を渡った国々からも引き合いがあるだろう、それらに売れば、間に立つルデクにも十分な利益が見込める。
年月はかかるだろうけれど、ゴルベルの船がブランドとなれば国の活気にも繋がるのではないか。
「それは願ってもないお話ですが、、、宜しいのですか?」
シーベルトの言葉に僕は頷く。
「既に我が王も承認済みの話です。シーベルト王の許可があれば、こちらもすぐに手配いたしましょう。我が国はゴルベルの民の手先の器用さを高く評価しています。簡素な船ではなく、より豪奢なものにしていただければ、船の価値も高まるかと思います」
「、、、、どうだ、ファイス、モンスール、クオーター? 何かあるか」
シーベルトが側近に問えば、ファイスが一歩前に。
「本当にありがたい提案だと思います。王の判断は間違っていなかったと」
次いでモンスールも賛同の意を示す。
「ルデクの期待に応えられる、素晴らしい船を作りましょう」
他の将官からも賛成の言葉しか出てこなかったのを確認したシーベルトは、僕らに向かい直り、笑顔を見せた。
「我が国への貴国の配慮、深く感謝いたします。どうかこの話、我々に請け負わさせていただきたく」
「わかりました。では、王に確かに伝えます」と答えたのはゼランド王子。
こうして会談は問題なく終わり、皆で昼食をと移動していた時、「あれはなんですか?」とゼランド王子が指さしたのは、城の一角にある塔のような建物だ。
その質問にシーベルトが「元々は立場のある人間を入れる牢なのですが、、、」と言い淀む。
なるほど、地下よりも逃げづらそうな場所だな。そして、言い淀んだということは、あの場所には、、、
僕がゼランド王子の肩を軽く叩く。
ゼランド王子も気付いたみたいだ。今はゴルベルの前王が幽閉されている場所だと。
「すみません、、、余計なことを」と謝罪するゼランド王子に「お気遣いなく」と返すシーベルト。
僅かに微妙な空気が漂ったところに、双子がやってきた。
双子は結局会談にも参加せずに、催し物の準備を進めていた。しかも連れてきたルデクの兵士も巻き込んで。
「おいロア、ちょっと人手が足りん」
「もう何人かこっちに回せ」
やって来て早々にそのようにのたまう。
なんとも言えない空気を払拭してくれたのは助かったけれど、そもそも連れてきた兵はゼランド王子の警護だ。流石にこれ以上は、、、
「それなら我々から人手を出しましょう。ファイス、大丈夫かい?」
「畏まりました」
と、僕らの会話を聞いていたシーベルトから、ありがたい申し出が。
とはいえ随分と大事になってきた。ここに至って、責任者が何をするのか知りませんというのは流石にまずい。
僕は双子を「ちょっとこっちへ」と離れた場所に連れ出すと「本当に何をするつもりだい?」と問い詰める。
「仕方ないな、まあ、そろそろ教えてやろう」
「聞いて驚け」
そんな風に前置きして双子が話し始めた内容。
なるほど、それは面白い試みだ。
僕は様子を窺っていたシーベルト達の元に戻ると、改めて人手を出してもらうことを頼むのであった。




