表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
277/379

【第263話】ゴルベル使節団③ シーベルトの側近

 ゴルベルの王都はヴァジェッタと言う。


 現在ゴルベルが保有する領土の、ちょうど中央辺りにある街だ。


 ヴァジェッタは街の真ん中に城を置き、その周りを囲むように建物が並ぶ。


 配置だけなら帝都に近いけれど、ヴァジェッタの場合は四角い城壁で囲んだ、古式ゆかしき大陸様式だ。


 帝都やルデクトラドに比べ、規模はやはり一枚落ちるかなといった印象がある。


 入り口までやってきたところで


「よし。それじゃあちょっと調べるか」

「ロア、私たちはここで別行動するぞ!」


 と、早々に双子が離脱しようとする。ちょっと待ちなさい君たち。なんのためにやってきたか分かってる?


 僕が流石に止めようとしたところでシーベルト王が「まあまあ」と取りなしてきた。


「私もあの方達が何をするのか、少し楽しみになってきました。ここは、自由になされてください」と言う。この国の王から許可が下りた以上、僕もこれ以上は憚られる。


「その辺の物、壊したりしないように!」


 子供に注意するような内容だけ伝えて、双子を置いた僕らは大通りへ。



 一応僕らを見に人々が出てきている。だけど、、、



「活気に乏しいわね、、、」ラピリアが耳打ちしてくる。


 ラピリアの言葉の通り、まさに敗戦国という雰囲気が充満していた。僕らへ視線を向ける人々も、どこかおどおどしているのが感じ取れた。


 従属によってどんな無茶を命令されるのか、そんな不安が伝わってくるようだった。


 なるほどなぁ。これは空気が重い。シーベルトが王自ら迎えにきて、催し物の相談をしたいといった気持ちも良く分かった。


 さて、双子は何をしようとしているのか、、、、


 とんでもない内容だったらどうしよう? そもそも事前に僕に教える気はあるのだろうか?


 ま、双子のことで悩んでも仕方ないということは、僕も散々学んでいる。とりあえずしばらくは放っておこう。


 双子も最低限の空気は読むので、そこまで突飛な事にならない、、、と信じたい。


 それはそれとして、双子とは別に少し気になる事がある。


「シーベルト王、閉まっている細工の店が多いようですが、何かあったのですか?」


 ゴルベルといえば様々な細工物が有名だ。これといった資源を持たず、地理的な優位性も少ないゴルベルが見出した外貨を稼ぐ方法、それが様々な木工細工や刺繍、染め物であった。


 大通りにもそういった店が連なっているのだが、どうも閉まっている店が目立つ。もしかして僕らの見物にきているのかと思ったけれど、そういうわけでもなさそうだ。


 問われたシーベルトは少し困った顔をする。


「少々事情がありまして、、、詳しくは、城で」


 そんな言葉を聞きながら、僕らは引き続き微妙な視線を浴びつつ城へと入って行った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 今日は到着したばかりということもあり、予定されているのは歓迎の祝宴くらいだ。


 本格的な話は明日から。明日は今後のゴルベルとの関係について話し合い。翌々日が市民に向けた日となり、ゼランド王子もこの日、人々の前で演説を行う。


 ゼランド王子が緊張しているのは、大衆を前にした演説があるからだ。


 といっても僕はそれほど心配していない。ゼランド王子はかつて、王家の祠で立派に演説をしたことがある。


 他国で失敗は許されないという気負いはあるのだろうけれど、そこまで緊張するほどのことではないと思う。




 そして会食の夜。


 懸念材料のひとつであった、ゴルベルの将官と新王の間に大きな不協和音は感じず、僕はひそかに胸を撫で下ろす。


 確か、前王を強引に引退させたにも関わらず、大半の官僚がシーベルトを支持したんだっけ。思った以上にまとまっている印象だな。


 もちろん、不満のあるような人物をこの会食には出していないだろうけれど、どの将官もシーベルトに対する視線に期待が込められている。


 うん。シーベルト王。若いけれどかなり優秀みたいだ。



「ロア殿、少し宜しいですか」


 そんな風に声をかけてきたシーベルトの左右には、見慣れぬ官が2人立っていた。


「モンスールと、クオーターです。この2人のことはご存知で?」


 そんな風に聞かれて少し首を傾げながら、どこかで会っただろうかと記憶を探るけれど、やっぱり記憶にない。


「すみません、どこかでお会いしたことが?」


「ああ、いえいえ、私の伺い方が悪かったです。フランクルトから聞いておりませんか、と言えばよかった」


 そう言われてハッとする。


「、、、、もしかして、フランクルトが手紙を送った方々ですか?」


 僕の問いにモンスールと紹介された方が「左様です」と答え、クオーターと呼ばれた方が「貴殿には是非一度会ってみたかった。来訪、歓迎いたします」と手を差し出してきた。


 差し出された手を握り返しながら、「僕のことを知っているのですか?」と言うと、クオーターが「手紙の内容をご存知ないのですか?」と逆に聞いてくる。


「内容に関しては聞いていましたけれど、、、、」


 噛み合わない会話に、今度はモンスールが「ああ、クオーター、もしかしてロア殿は2枚目の手紙に関しては聞き及んでいないのでは?」と口にした。


「2枚目、ですか?」なんのことだろう。


「やはり。フランクルトの手紙は2枚ありました。2枚目は私信とありましたが、内容はロア殿を絶賛するものだったのですよ」


「ええ!? 聞いていないのですが、、、、」ちょ、フランクルト、何を書いたの!?


 そんな僕の反応が楽しかったのか、みんなが少し楽しげに笑う。特にウィックハルトがすごい忍び笑いしてる。。。。ウィックハルト、、、知ってたな。むう。


 ひとしきり笑って場が緩んだところで、シーベルトが表情を改め、「この2人とファイスが私を王に押し上げたようなものです。私が最も頼りにしている3人ですので、今後とも、どうぞよろしくお願いします」と言った。


 なるほど、僕におけるウィックハルトや、ラピリアや、ネルフィアや、サザビーや、双子や、ルファや、リュゼルや、フレインや、ディックみたいなものか。



 そんな風に考えながら、浮かんできた名前を数えて、僕にはたくさんの頼りになる人たちがいるなぁと、しみじみ思うのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ