【第263話】ゴルベル使節団③ シーベルトの側近
ゴルベルの王都はヴァジェッタと言う。
現在ゴルベルが保有する領土の、ちょうど中央辺りにある街だ。
ヴァジェッタは街の真ん中に城を置き、その周りを囲むように建物が並ぶ。
配置だけなら帝都に近いけれど、ヴァジェッタの場合は四角い城壁で囲んだ、古式ゆかしき大陸様式だ。
帝都やルデクトラドに比べ、規模はやはり一枚落ちるかなといった印象がある。
入り口までやってきたところで
「よし。それじゃあちょっと調べるか」
「ロア、私たちはここで別行動するぞ!」
と、早々に双子が離脱しようとする。ちょっと待ちなさい君たち。なんのためにやってきたか分かってる?
僕が流石に止めようとしたところでシーベルト王が「まあまあ」と取りなしてきた。
「私もあの方達が何をするのか、少し楽しみになってきました。ここは、自由になされてください」と言う。この国の王から許可が下りた以上、僕もこれ以上は憚られる。
「その辺の物、壊したりしないように!」
子供に注意するような内容だけ伝えて、双子を置いた僕らは大通りへ。
一応僕らを見に人々が出てきている。だけど、、、
「活気に乏しいわね、、、」ラピリアが耳打ちしてくる。
ラピリアの言葉の通り、まさに敗戦国という雰囲気が充満していた。僕らへ視線を向ける人々も、どこかおどおどしているのが感じ取れた。
従属によってどんな無茶を命令されるのか、そんな不安が伝わってくるようだった。
なるほどなぁ。これは空気が重い。シーベルトが王自ら迎えにきて、催し物の相談をしたいといった気持ちも良く分かった。
さて、双子は何をしようとしているのか、、、、
とんでもない内容だったらどうしよう? そもそも事前に僕に教える気はあるのだろうか?
ま、双子のことで悩んでも仕方ないということは、僕も散々学んでいる。とりあえずしばらくは放っておこう。
双子も最低限の空気は読むので、そこまで突飛な事にならない、、、と信じたい。
それはそれとして、双子とは別に少し気になる事がある。
「シーベルト王、閉まっている細工の店が多いようですが、何かあったのですか?」
ゴルベルといえば様々な細工物が有名だ。これといった資源を持たず、地理的な優位性も少ないゴルベルが見出した外貨を稼ぐ方法、それが様々な木工細工や刺繍、染め物であった。
大通りにもそういった店が連なっているのだが、どうも閉まっている店が目立つ。もしかして僕らの見物にきているのかと思ったけれど、そういうわけでもなさそうだ。
問われたシーベルトは少し困った顔をする。
「少々事情がありまして、、、詳しくは、城で」
そんな言葉を聞きながら、僕らは引き続き微妙な視線を浴びつつ城へと入って行った。
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今日は到着したばかりということもあり、予定されているのは歓迎の祝宴くらいだ。
本格的な話は明日から。明日は今後のゴルベルとの関係について話し合い。翌々日が市民に向けた日となり、ゼランド王子もこの日、人々の前で演説を行う。
ゼランド王子が緊張しているのは、大衆を前にした演説があるからだ。
といっても僕はそれほど心配していない。ゼランド王子はかつて、王家の祠で立派に演説をしたことがある。
他国で失敗は許されないという気負いはあるのだろうけれど、そこまで緊張するほどのことではないと思う。
そして会食の夜。
懸念材料のひとつであった、ゴルベルの将官と新王の間に大きな不協和音は感じず、僕はひそかに胸を撫で下ろす。
確か、前王を強引に引退させたにも関わらず、大半の官僚がシーベルトを支持したんだっけ。思った以上にまとまっている印象だな。
もちろん、不満のあるような人物をこの会食には出していないだろうけれど、どの将官もシーベルトに対する視線に期待が込められている。
うん。シーベルト王。若いけれどかなり優秀みたいだ。
「ロア殿、少し宜しいですか」
そんな風に声をかけてきたシーベルトの左右には、見慣れぬ官が2人立っていた。
「モンスールと、クオーターです。この2人のことはご存知で?」
そんな風に聞かれて少し首を傾げながら、どこかで会っただろうかと記憶を探るけれど、やっぱり記憶にない。
「すみません、どこかでお会いしたことが?」
「ああ、いえいえ、私の伺い方が悪かったです。フランクルトから聞いておりませんか、と言えばよかった」
そう言われてハッとする。
「、、、、もしかして、フランクルトが手紙を送った方々ですか?」
僕の問いにモンスールと紹介された方が「左様です」と答え、クオーターと呼ばれた方が「貴殿には是非一度会ってみたかった。来訪、歓迎いたします」と手を差し出してきた。
差し出された手を握り返しながら、「僕のことを知っているのですか?」と言うと、クオーターが「手紙の内容をご存知ないのですか?」と逆に聞いてくる。
「内容に関しては聞いていましたけれど、、、、」
噛み合わない会話に、今度はモンスールが「ああ、クオーター、もしかしてロア殿は2枚目の手紙に関しては聞き及んでいないのでは?」と口にした。
「2枚目、ですか?」なんのことだろう。
「やはり。フランクルトの手紙は2枚ありました。2枚目は私信とありましたが、内容はロア殿を絶賛するものだったのですよ」
「ええ!? 聞いていないのですが、、、、」ちょ、フランクルト、何を書いたの!?
そんな僕の反応が楽しかったのか、みんなが少し楽しげに笑う。特にウィックハルトがすごい忍び笑いしてる。。。。ウィックハルト、、、知ってたな。むう。
ひとしきり笑って場が緩んだところで、シーベルトが表情を改め、「この2人とファイスが私を王に押し上げたようなものです。私が最も頼りにしている3人ですので、今後とも、どうぞよろしくお願いします」と言った。
なるほど、僕におけるウィックハルトや、ラピリアや、ネルフィアや、サザビーや、双子や、ルファや、リュゼルや、フレインや、ディックみたいなものか。
そんな風に考えながら、浮かんできた名前を数えて、僕にはたくさんの頼りになる人たちがいるなぁと、しみじみ思うのだった。




