【第262話】ゴルベル使節団② ロアの宿題
ゴルベルへの出立に際して、僕には王から宿題が課された。それは、「ゴルベルをルデクの経済圏に巻き込みたい」というもの。
領土が大きく減じ、厳しい状況にあるゴルベルに対して、ルデクの傘下にあれば今までより暮らし向きが良くなると思わせたいのだ。
うまくやればゴルベルは必然的にルデクに依存してゆくし、逆に、できなければゴルベル内の不満が確実に積もってゆく。
王から出された要望は、「できれば一方的な支援という形にはしたくない」「ただ、ルデクに恩を感じられる方法が良い」「帝国と三国で連動できるようなものであれば、同盟をより強固にできて理想的である」と、なかなかに難題である。
ゴルベルへ送った来訪打診の使者が戻る前に、何か考えないといけなくなった僕。
執務室でうんうん唸ったり、ひとけのない第10騎士団の詰所をうろうろしてみたり、気分転換に一人踊っているところをラピリアに見られて「何してるの?」と少し呆れられたりしながら、どうにか草案を作り上げる。
「、、、、、なるほど。悪くない。その方向で進めよ。必要な通達があれば私が御璽を押そう」
無事ゼウラシア王から許可をもらい、各方面への手配を済ませた頃、ゴルベルから受け入れ準備が調った旨知らせが来た。
使者の人には申し訳ないのだけど、陸路で訪問する予定だった当初のルートを少々変更したい旨伝える。
申し訳ないなと思いながらも、急遽再びゴルベルへと向かう使者の姿を見送ると、僕らは一路ゲードランドヘ。
海軍司令ノースヴェル様に用があったためだ。
ちなみに帰りは少し遠回りになるけれど、ゼッタ平原を通って帰ってくる計画。せっかくなのでグランツ様と面会して、ルブラルの様子も確認しておきたい。
今回の使節団には僕、ゼランド王子以外に、ウィックハルトにラピリア、双子、ネルフィア、サザビーのお馴染みの面々である。加えて警備兵として第六騎士団から50名ほど兵士を借り受けている。
王都ルデクトラドとゲードランドを繋ぐ、とても綺麗に舗装された道を興味深く見るゼランド王子。
「本当に進みやすくなりましたね」と感心しきりのゼランドが不意に、「この街道をゴルベルまで繋いではいかがですか?」と提案してきた。
悪くない考えだと思う。ちゃんとした街道ができれば、人の出入りも物の出入りも活性化する。将来の話としてゴルベル王に話しても問題ない。戻ったらゼウラシア王に提案すれば関心を持つと伝えると、嬉しそうな顔をした。
ゼランド王子も、なかなか良い感じに成長しているなぁ。
ゲードランドまでは実に順調であり、ノースヴェル様との話し合いもすぐに終わった。ノースヴェル様は少しだけ難色を示したけれど、「俺も新港で忙しいけどな、まあ良いだろう」と許可をもらう。
そうして船は一路ゴルベルへ。
上陸地点はかつて、フランクルトが亡命を打診してきた小さな港だ。行きの用は済んだので、寄港する場所は別にどこでも良い。単純にルデクから一番近いゴルベルの港がここだった。
僕らが乗り合わせてきた3隻の大型軍用船が停泊しただけでも、もう他の船が止まる隙間がないような港に降り立つ。
早々に「お待ちしておりました」と声をかけられて振り向いて見れば、そこにいたのはゴルベルの若き王、シーベルト。
「シーベルト王!? どうしてこの場に!?」
僕が驚いて声を上げると「大切な客人のお出迎えですから、私がやってくるのも当然かと」との返答。
「いや、けれど今回は急に旅程も変えてしまいましたし、、、、」
「何、お気になさらないでください。それよりもまずは、ゼランド王子、この度は当国のためにお骨折りいただきありがとうございます」とシーベルトはゼランド王子に向き直り、丁寧に頭を下げた。
「い、いえ! こちらこそお世話になります。よろしくお願いします!」と、ゼランド王子も緊張しながら返礼する。
そんな姿を微笑ましく見たシーベルトは、再び僕の方を向いて、「早速ですが行きましょうか。道中、今回の来訪について、少々相談したいこともありますので」と言う。
ああ、なるほど、それが本題か。何か問題があったのかな?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「催し、ですか?」
ゴルベルの王都に向かう道中でシーベルトから相談されたのは、何か催しを行えないかという話だった。
「ええ。お恥ずかしい話ですが、現在我が国の雰囲気はあまり良くありません。民も今回の決断に懐疑的です。なので、何か民の心を晴れさせるような催しはないか、と」
本当は事前に計画できれば良かったのだけど、政権の立て直しに忙しく、そこまで手が回らなかったらしい。ギリギリになって思い立ったため、こうして僕らの出迎えついでに相談に来たと言うわけだ。
「うーん、、、、催しですか」
確かに事前に知らせてもらえれば、何かしら用意はできたかも、、、うーん、すぐには思いつかないなぁ。
「聞くところによれば、帝国はウィックハルト殿と剛弓ルアープの十弓対決を行ったそうですね。我が国も同じような事ができれば良いのですが、、、、」
シーベルトはそんな風にいうが、それは無理な話だ。
大陸十弓などと謳われてはいるが、そのうち7人は専制16国にいる。
あの国が専制16国と呼ばれるに至るまでの、大きな混乱の中で、大陸十弓は起こった。
とある国が他国を出し抜くために大金で弓上手を集めようとして、それに周辺が対抗したのがそもそもの始まりなのだ。
弓が巧ければ、儲かる。噂が噂を呼び、当時は大陸中の自称弓の達人たる有象無象が、専制16国に集まっていたような状況だったらしい。
その後専制16国が専制16国として落ち着いた頃に、自他ともに認める真の弓の猛者として残ったのが大陸十弓なのである。
以降大陸では、専制16国といえば”弓”という認識が広く認知され、結果的にかの国にはさまざまな流派の弓の道場が乱立することとになった。
かような歴史から、大陸十弓は専制16国に集中している。強大な帝国にも十弓が一人しかいないのも、このような事情のためだ。
ウィックハルトも蒼弓と呼ばれるようになったのはここ5年ほどのこと。ゴルベルとの戦いで名を売ったことで、自然と呼ばれるようになった。
というわけでゴルベルに十弓はいないのである。もちろん弓上手はいるだろうけれど、派手さと言う点において十弓対決には劣る。
「催しかぁ、、、」
僕が同じ言葉を口にして、何かないかと空を仰いでいると、双子が口を挟んできた。
「祭りの準備か?」
「なら出番だな」
と、何やらやる気の双子。。。試しに任せてみるか?
「、、、、あんまり乱暴なことしない?」
念の為僕が釘を刺すと
「心外だな」
「私たちをなんだと思っているのだ」
と言う。。。。。うん、騒ぎが好きな二人だ。危ないことをしないなら、任せても良いかもしれない。
「シーベルト王、この二人に何か考えがあるようですが如何でしょうか?」
「どのようなお考えですか?」
「まだ秘密だ」
「できるかどうか、場所を確認しないといけないからな」
などともったいぶる双子。困惑するシーベルト。
「まあ、あんまりな考えだったら僕が止めますので、、、、、」
そんな風になんとなく取りなして、僕らはゴルベル王都へと進んでゆくのだった。




