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【第259話】困惑のノースヴェル


 海軍司令ノースヴェル様は、長らく東方諸島に出掛けていた。


 ノースヴェル様の不在中に起こったことをざっと羅列すると、ルシファルとリフレアが共謀してルデクに攻め込み、第一騎士団と第九騎士団が裏切って、レイズ様が亡くなった。


 それから帝国と同盟して、帝国にルデクの金と技術で新しい港を造ることになった。さらにゴルベルの王様が代わって、ルデクに従属を打診してきた。


 まだある。僕は第10騎士団の副団長となり、第10騎士団の人事が大きく変わったし、各騎士団の持ち場にも大きな変化があった。海軍の本拠であるゲードランドは長く第三騎士団が守護してきたけれど、今後は第五騎士団がその役を担う。


 、、、、、こんなところかな?


 こうして振り返ってみると、訳がわからないな。ノースヴェル様からすれば、帰ってきたら別の国だった位の衝撃だろう。


 さて、どこから説明しようか。とにかく帝国の新港の説得をしなくてはならない。王の許可は得ているとはいえ、ノースヴェル様の協力なくして物事は進まない。


 ノースヴェル様が僕の執務室に乗り込んできたのも、その一点が主題だろう。自分の知らないうちに好き勝手されたのだ。一発くらいぶん殴られても文句は言えない。


 と言っても、あの岩みたいなノースヴェル様から本当に一発もらったら僕は気絶する自信がある。早急にウィックハルトかラピリア、呼ばないとなぁ。


 そんな事を考えながら「今、説明します。支度してくるから少し待ってください」と一度引っ込み再び顔を出すと、そこにはウィックハルトもラピリアもいた。騒ぎを聞きつけてやってきたようだ。僕の側近は本当に有能である。


 僕が自分の机に向かうよりも早く、ノースヴェル様が詰め寄ってくる。


「ノースヴェル様、勝手に話を進めて悪いとは思っていますが、まずは、、、、」


 落ち着かせようとする僕の鼻先に「これはなんだ!」と突きつける一枚の紙。


 、、、、これ、設計図? ドリューに書いてもらった帆船の。


「こんな技術、聞いたことがねえぞ! どこから聞いてきやがった!」


 ええ〜、喰いついてるの、そこなの?



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あ? ルシファルの馬鹿のことや、帝国の港の話はもういろんなやつから聞いている。王の御璽の入った命令書も届いたしな。わざわざ王都までやってきて、お前に聞くことじゃねえだろ。知りたきゃ王に聞くわ!」


 それもそうか。そもそもこの人、意外に細やかな性格の人だ。帰還してすぐに一通りの情報を集めて把握したそうだ。流石である。


「だがな、コレ(設計図)だけは分からねえ。なんだこれは? 確かに帆を使う船の研究は進めていた。しかしこの帆の配置や船の形状、見たことねえぞ! 職人の話じゃ完璧だと大騒ぎだ! こんなもの見せられて放っておけねえ。どこで知った?」


 厳密には、設計図を引いたのはドリューだ。僕は絵図面で説明しただけである。ドリューに押し付けちゃおうかとも思ったけれど、「全部ロアから聞いた」とでも言いそうだから意味はないか。


 さてとどうしよう。帆船に食いつく人がいるとは思っていなかった。いや、考えれば船乗りは気になるよなぁ。失敗した。全く言い訳を考えていない。


 ルルリアから聞いたことに、、、いや、ダメだ。南の大陸なら僕よりノースヴェル様の方が詳しい。


 何かの書物で読んだ? なんのためにそんな本を読んだのか。他にどんな内容が書かれていたのか聞かれたら、すぐに答える自信はない。船は本来、僕の専門外だ。


「もう、ロア、意地悪しないで教えてあげたら? レイズ様が考えていたことだ、って」


 そう、助け舟を出してくれたのはラピリア。


「あ、うん。実は、、、レイズ様が生前仰っていたんです。こんな帆船があったらより効率が良いのではないかと。僕はその話を絵にしただけで、実際に形にしたのはドリューですよ」


 僕をギロリと睨むノースヴェル様。


「レイズが? 、、、事実か?」


「少なくとも私も一緒に聞いています」とラピリアが言うと、ノースヴェル様はむむむと腕を組む。


「レイズが船を? いや、あの男なら有り得なくもねえか、、、」


 ぶつぶつと自分の考えに耽るノースヴェル様を確認して、僕はラピリアに密かにありがとうと目配せ。


 本当に助かった。事情を知っている仲間の存在に感謝する。


 しばらくしてノースヴェル様は大きく息をはく。


「、、、、レイズの思い付きじゃ仕方ねえな。もう聞くわけにはいかん、、、お、すまん。今のはお前らの前じゃ少々不謹慎だった」


「いえ、気にしません」


「そうか、それじゃあ邪魔したな。朝っぱらから騒がせた」


 そう言って早々に部屋を出てゆくノースヴェル様。


 僕らがそっとため息を吐いて、ラピリアに改めてお礼を言いそうになったところで再び扉が開き、びっくりする僕ら。


「すまんすまん! 本題を忘れて帰るところだった!」


 と再び入ってきたノースヴェル様が言う。


「本題?」


 首を傾げる僕らに、「おいおい、忘れてんじゃないだろうな?」と言う。けれど、ノースヴェル様自身も忘れるような用件なら大したことじゃないのでは?


「頼まれていたもの、持ってきたぜ。表に積んである。見にいくぞ」


 そこまで言われて僕は「あっ」と思い出す。


 そうだ、海を越えて”アレ”がやってきたのか。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 大半の兵士がオークルに出払っており、人気のない第10騎士団の詰所の外に、12を数える木箱が積み上がっていた。


「こんなに持ってきてくれたんですか!?」


 驚く僕に


「まあ、たいして金がかかるものでもねえからな」と返してくる。


「これが、話していた、、、」


 ウィックハルトが木箱の一つに手を置いた。


「うん。開けてみてくれる?」


 僕の頼みでウィックハルトが木蓋を開けると、中には無数の芋が入っていた。



 うん。状態は良さそうだ。



「期待以上ですよ、ノースヴェル様。ありがとうございます」と僕は素直にお礼を伝える。



 対するノースヴェル様は「だが、こんなもの本当になんに使うんだ?」と、首を傾げた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 帝国との同盟交渉のときにも思いましたけど、この時代って帆船が一般的でなかったのですね。魔法がないから海軍って言ったら大きな帆船に大砲積んだ軍艦を想像してました。(もしかしてこの時点で火薬もな…
[気になる点] 芋、寒さに強い芋。 ジャガイモ? 芋、荒れ地に強く寒さにはあまり強くない芋。 サツマイモ? 芋、とりあえず放置しておけば増えてしまう特定外来種な芋。 アピオス?
[一言] ノースヴェル様、ずっと海外だったんですよね。 流石海の男、帆船に食いつくとは。直接的に関係あることですし、ある意味当然なことですね。しかし、レイズ様が思いついたことにするとは。 みんな納得し…
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