【第258話】7つの騎士団
リフレアに宣戦を布告したルデクだけど、じゃあ戦争だ! 攻め込め! という状況ではない。
諸々片付けなければならない問題があり、本来であれば、宣戦布告はもう少し後にしたかったところだ。
けれど、リフレアの使者が思ったよりも早くやってきたことと、リフレアの提案が想定よりも遥かに残念であったことから、その場で王が決断してしまった。
結果的にリフレアにも明確な敵対という形で、準備期間を与えてしまうことになった。けれど、こうなってしまった以上は仕方がない。
ならば最優先でやらねばならない事は、リフレアの動きに釘を刺す事である。
三国同盟の公表。
これほどリフレアに衝撃を与える事柄もないだろう。使者であったベローぺはどんな顔をするだろうか。
対リフレアだけの話ではない。友好国となったゴルベルの懸念事項である、隣国ルブラルへの牽制の意味も持つ。
三国同盟の発布に伴い、ルデクからゴルベルへ正式な友好の使者を送らなければならないので、人選も急がないといけない。
何せ主だった外交官は帝国にかかりきり。かといって従属を申し出た相手に下手な使者では、ゴルベルの扱いを軽んじていると取られてしまう。
帝国の方は問題ない。こちらの日程に合わせて同時発表となる。帝国ではあの十弓対決が活きた。皇帝は「あの催しこそがルデクとの友好の証であり、ルデクの使者の歓待であった」とするらしい。皇帝はこの辺りも計算していたみたい。流石に一枚上手だ。
そうは言っても、帝国との関係ものんびりとはしていられない。同盟発表後は新港建設の動きが本格化する。あれこれと考えねばならないことが多い。
同盟以外では、国内の貴族の調査も必要だ。特にヒューメット派を中心に。何が出てくるか分からないだけに、気の抜けない案件ではある。
まあ、貴族に関してはネルフィア以下、第八騎士団が暗躍してくれるだろうから、ひとまずはネルフィア任せだな。
まずは、今日のうちに騎士団の持ち場を決めないとなぁ。
、、、、何か忘れている気がする。。。。なんだっけ。思い出せないということはそんなに重要じゃないかな。ま、ここのところ本当に色々と忙しかったし。状況が落ち着けば思い出すだろ。
リフレアの使者が帰ったところで、再び持ち場の話し合いに戻る。リフレアの使者がきてくれたお陰で、北部戦線を手厚くする必要性がはっきりした。
さらに、先ほどの話し合いでは寡黙だった、、、というか常に寡黙であるベクシュタット様が、手紙を差し出してきた。先ほどの話し合いの後に書いていたらしい。
内容は「王には少々話したが、帝国の脅威が減り持ち場で兵を遊ばせることは無駄と考えている。また先ほどの話の中でリフレアの脅威については大いに同意するところだ。私としても北部で戦いたいのは山々だが、皆がこぞって北へ行くのはよろしくない。そもそも今回王都にやってきたのは、ルデクの重要拠点であるゲードランドの守備が手薄なのを懸念したためだ。ザックハート様が王都を守るのであれば、我ら第五騎士団がゲードランドに駐屯してはどうかと提案するためであった。ゆえに、リフレアとの戦いに決着がつくまでは、第五騎士団がゲードランドおよび、ルデク南部の守備を一手に担おうかと思うが、いかがか」と記されている。
帝国と度々干戈を交え、戦闘経験豊富な第五騎士団が南部を守ってくれるのはありがたい。
また、対帝国を担っていた第五騎士団は総兵力が8000と通常の騎士団より多く、一連の第一騎士団との戦いの影響も受けていないため、南部を一手に任せるには適任であった。
次に王都の守備は第六騎士団に任せる。
「今後、王都の守護は定期的に入れ替えようと思う」という王の考えもあり、ひとまずの処置だ。持ち回り制は貴族との癒着を避けるためとなる。
実際問題として、第10騎士団が存在する今、第一騎士団のような親衛隊は必要ないのだ。その第10騎士団も王の行事がない時は、遊軍として入れ替わり立ち替わり年中各地を飛び回るので、貴族と暇を潰すような機会はほとんどない。
ちなみに第六騎士団は、中々進んでいなかった新兵の訓練も担う。
第三騎士団と第七騎士団は希望通りの北部配備。加えて第二騎士団も北部へ向かう。代わって第10騎士団は一旦王都へ帰還。一度休息を取るとともに、リフレアとの戦いを前に、市民に第10騎士団の凱旋パレードを行って強いルデクを知らしめる。
そうか、この凱旋パレードもあった。これも準備しなくては。
オークルの砦には第三騎士団と第二騎士団が入って、リフレアを睨む。
第七騎士団は一度リーゼの砦に戻って、兵士の編成などを行う。そのため一足遅れて北へ向かい、デンバーに駐屯すると決まる。
リフレア攻略戦は準備を調え、第10騎士団が北へ向かった時が始まりだ。第二騎士団、第三騎士団、第七騎士団と合同の大規模な侵攻戦になる予定。
そうして兵士の人数調整など、細かい話を進めてようやく決まったのは深夜。
第10騎士団の編成の時のように、書記官として立ち会ったネルフィアが筆記具を走らせる。
・第10騎士団…総兵数約14,000(ホッケハルンでの旧第九騎士団の投降兵の仮配置を含む15,000から1000を転籍)、遊軍およびリフレア侵攻戦本隊
・第二騎士団…総兵数約3700、オークルの砦配属
・第三騎士団…総兵数約4500(現状の5000から500を第四騎士団に転籍)、オークルの砦配属
・第四騎士団…総兵数約10000(現状の8000より、各部隊から2000の兵を補充)、ルデク北西部および、旧ゴルベル領の統治。隣接するルブラルへの備え。
・第五騎士団…総兵数約8000、ゲードランドを本拠として、ルデク南部の警護を担当
・第六騎士団…総兵数約6000(訓練中の新兵込み)、王都の守備
・第七騎士団…総兵数約4000(現状の4500から500を転籍)、デンバーに配属
こうして漸く準備が調い、やれやれと部屋に帰って泥のように眠った僕。
翌朝、
「ロア! 一体どうなってんだ!!!!」
という怒鳴り声とともに、僕の執務室に飛び込んできた胴間声に飛び起きる。
目をこすりながら執務室に顔を覗かせると、海軍司令のノースヴェル様が仁王立ちしていた。
あ、ノースヴェル様のことだ。忘れてたの。




