【第253話】帰都と報告
「、、、というわけで一旦王都に戻ることにするのだけど、、、、フレイン、しばらくこの砦と第10騎士団を頼めるかい?」
事情を話し、オークルの砦をしばらく任せたい旨を伝えると、フレインは額に手を当ててため息をつく。
「お前、副団長としてもう少し落ち着きをなぁ、、、いや、今回は仕方ないか、、、」
「まあまあ、俺も手伝おう」と一緒に聞いていたリュゼルが、フレインの肩に手を置きながらフォローしてくれる。
今回の帰途、戻るのなら第二騎士団も一度引き連れていかなくてはならない。どういう形であれ、王からの沙汰を受けなければならないから。
さらにトール将軍と第七騎士団も一旦戻る。北部の陣容をちゃんと決めないといけないし、リーゼの砦もずっとは放置して置けない。
それに対ゴルベルや対帝国を担っていた第七騎士団や第五騎士団を、いつまでも同じ場所に縛り付けておくのも効率が悪い。
2つの騎士団を失ったルデクは深刻な人手不足なので、同盟国相手の警戒を手厚くしている余裕はないし、そもそも相手国への印象も悪い。ゆえにこの辺りの差配も必要だ。
リフレアがすぐ反転攻勢してくるとは思えないけれど、第10騎士団は当面この辺りの守備として残す。そのために信頼できる誰かに指揮を任せる必要があるのだ。
ラピリアとウィックハルトは当然のように一緒に帰都する。そうなると、僕が他に信頼できる人物といえば、何をおいてもフレインとリュゼルしかない。
「いや、中隊長になった以上は、こう言ったことも慣れていかないとならないか、、、」
などとぶつぶつ言っているフレイン。生真面目な性格なので、大きな部隊の指揮官として責任を負うことで急速に成長している気がする。いずれはどこかの騎士団長だってやれそうだ。
「ビックヒルトさんも助力をお願いします」
僕が頭を下げたのは、フレインの爺やさんであるビックヒルトさん。中隊長に抜擢された時は「坊っちゃん、、、立派になられて、、、」と涙を流していた。
「もちろんでございます。この老骨の命をかけて!」
いや、無理しない程度でお願いします。いのちだいじに。
ともあれフレインに当面の守備を託して、僕らは一度王都へ戻ることになった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「凱旋だからな! 派手な出迎えだろうな!」
「みんな私たちに釘付けだな!」
ご機嫌な双子を先頭に、王都を目指すは今回もお馴染みの僕、ウィックハルト、ラピリア、サザビー、ネルフィアのいつもの面々。
それからトール様と第七騎士団。ホックさんを始めとした第二騎士団。さらにルデクの監視というよりも、もはや僕の監視に専念している感のあるリヴォーテも一緒。
「凱旋はともかく、人の往来は回復し始めているみたいね」ラピリアが言う通り、道中で北へ向かう人々をよく見かけるようになった。
特に商人の一団を確認できたと言うことは、国内でもルデク北東部の治安が落ち着いてきたことが広く認知され始めたのだろう。
僕らが胸を撫で下ろす中、先頭で愉快な歌を歌う双子の背中を見ながら、サザビーが困ったように「その、、、凱旋ですが、多分、ユイメイの思った通りにならないんじゃないですかね」と口にする。
「どう言うこと?」
「人が増えたってことは、王都で大々的に安全が発表されたと言うことですよね」
「うん」
「大々的に発表されたってことは、つまり、凱旋の儀式はもう済んだのだと思うんですよ」
「、、、、あ、そうか、第六騎士団か」
「でしょうね。いずれ改めて第10騎士団や第七騎士団への儀式はあるとは思いますが、今回ではないと思います」
つまり、凱旋という名のお祭りはすでに第六騎士団が行なって、市民は盛り上がった後。
第10騎士団や第七騎士団の凱旋式をやるなら、後日ちゃんと準備してから。現在の王都は平常運行であると。
「凱旋式をフォガード様が先にやったと知ったら、、、」サザビーが遠い目をする。
、、、、、うん。しばらくフォガードさんと双子は引き合わせないようにしようかな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「第10騎士団ロア=シュタイン以下、ただいま帰還いたしました!」
「此度の仕儀、全て聞き及んでおる! 素晴らしい活躍であった!」
謁見の間で出迎えたゼウラシア王。労いの言葉もそこそこに、今後の話し合いに移行する。
「本来なれば、貴殿等の勇姿を民に大いに見せてやりたいところだが、当面はそうも言ってられぬ。すまんな」
「いえ。それで取り敢えずどこから手をつけますか?」
「やはり第二騎士団の処遇であろう」
第二騎士団は現在、ルデクトラドの郊外に待機させてある。流石に一度裏切った騎士団を、処遇を決める前に王都へ入れることはできない。
「、、、予定通りで構わぬか?」
「はい」
「よし、ではまずは本人の言い分を聞く。ニーズホックと、報告にあったレゾールと言う将を連れて参れ」
しばらくしてやってきたホックさんとレゾールさん。
御前で跪くと、ただ黙って王の声を待つ。
居並ぶ僕ら以外の将官の視線も厳しい。当然だろう。
「ニーズホック」
王が重々しくホックさんを呼ぶ。
「はい」ホックさんが跪いたまま顔を上げた。
「申し開きはあるか?」
ホックさんはただ穏やかに微笑んで「何もありません。すべての責任はアタシに」と言い切った。




