【第251話】疑惑(上)
きっかけはシャリスの報告だった。
第九騎士団の拠点だった、デンバー周辺の制圧に向かっていたシャリス。その経過報告に僕は首を傾げる。
「、、、、どういうことだろう?」
読み終えた報告書をウィックハルトやラピリアに渡して、僕はオークルの砦の一室で天井を仰ぐと、ふと、頭の片隅にあった疑問が首をもたげてきた。
「、、、、んん? 、、、いや、、、まさか、、、」
「何? 何か気がついたの?」
僕に報告書を戻しながら聞いてくるラピリア。
「うーん、、、、ちょっと、自分でもありえない思いつきというか、、、、やっぱり実際に確認しに行ったほうがいいかなぁ、、、」
「出掛けるのは賛成ですね。ここのところずっと部屋に篭ってばかりでしたから、気分転換も必要ですよ」
と、賛意を示してくれるウィックハルト。
そうなのだ、オークルの砦に到着してから、僕はひたすら書類と戦いながら、空も見上げない日々が続いていた。
仕方がないと言えば仕方がない。あまりに急速な旧領回復の影響だ。
各部隊の派兵指示はもちろん、取り戻した町村で発生していた様々な問題に対して解決策を示す作業も、僕が中心となって処理していた。
各地で大なり小なり問題が発生しており、積み重なれば相当量になってくる。
ようやくある程度処理が終わり、やれやれと肩を揉んでいたところへ舞い込んできた報告。確かにここらで外に出るのも良いかもしれない。
「、、、そうだね。それじゃあ視察も兼ねて、デンバーの街へ行ってみようか。オークルの砦はフレインに任せよう。フレインが帰ってきたら、入れ替わりで出るから準備しておいて」
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フレインがオークルの砦に戻ってきた翌日。簡単に引き継ぎを終えた僕らは久々に砦の外に出る。
僕に同行するのはラピリアとウィックハルト、ネルフィア、サザビー、双子のお馴染みの面々に加え、今回はルファとレニーも一緒。双子以外は僕の書類仕事を散々手伝ってくれた人たちだ。
双子はどこから聞きつけたのか、
「連れてけー」
「連れてけー」
とやってきた。双子は本当に内政関係はからっきしのため、砦に残してフレインが苦労するくらいならと考え、連れて行くことに決めた。
「デンバーか、楽しみだな」
あ、もう一人忘れてた。長髪メガネこと、リヴォーテ=リアンも同行する。
もう戦いも決着がついたのだから王都に帰って大人しくしていれば良いのに、なぜかオークルの砦でダラダラしているリヴォーテ。
一度やんわりとその旨を伝えたら、「なんだ、文句あるのか? 俺はお前を監視しているのだ。お前は帝国にとって危険だからな」などと言っていたけれど、やっていることといえば双子としょうもない悪戯をして怒られてるだけなので、帰ったらエンダランド翁に言いつけようと思っている。
ちなみにディックは双子の部隊の面倒を見るために留守番。何か美味しいものでもお土産に持って帰ってあげよう。
ともかく、そんな面々でデンバーへと向かったのである。
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「ここがデンバーですが、、、思ったよりも普通の街ですね」
初めてデンバーを訪れたというウィックハルトの第一声だ。
ウィックハルトが言う通り、街の規模はそれなりだけど、騎士団の拠点としては少々防衛が心許ない。居並ぶ街並みが立派なのもあって、チグハグな印象を受ける。
「騎士団の拠点というより、貴族の拠点って意味合いが強いのかもしれないわね」
ラピリアは少し気に食わないといった風に、つまらなそうに街を見る。なるほど、言い得て妙かもしれない。
シャリスの報告にあった通り、デンバーの街は大きな反乱があったとは思えないほど落ち着いている。
まあ、第九騎士団の大半が裏切って、そのまま拠点として使っていたのなら影響がなくても当たり前か。
「ロア殿!!」
デンバーの大通りを進んでゆくと、大きな館の前でシャリスとグリーズさん、それにトール将軍が待っていてくれた。
「シャリス、グリーズさん。お疲れ様、出迎えありがとう。トール将軍も忙しいのにすみません」
そんな僕の言葉にトール将軍は「何、またロアがおかしなことを思いついたかもしれないと聞いてな。私も興味がある」などと口にする。
シャリス、君そんな風に言ってたの?
僕の視線を受けて、慌てて違いますよと否定するシャリス。
「その、、、先触れの使者が、、、、」
先触れの使者を手配したのはラピリアだ。僕がラピリアに視線を移すと、ふいっと顔を逸らした。むう。
「まあいいや、、、この辺りの状況はどう?」
「はい。概ね問題なく接収しています。大きな反乱が起きたことすら知らない村もありました。話を聞いてびっくりしたような有様で、、、」
「やっぱりこの地域だけは他と様子が少し違うね」
「おかげでまた私たちは、ほとんど仕事らしい仕事をしておらんよ」
シャリスと僕の会話に加わってくるトール将軍に、「いえ、説明して状況を見回るだけでも大変でしょう。お疲れ様です」と返しておく。
当たり障りのない挨拶が終わると、僕は3人が待っていた館を見た。
「それで、ここが例の?」
僕は建物を見上げる。
それはかつて、第九騎士団の本部だった場所であった。




