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【第215話】皇帝とロア17 ロアの剣


 翌朝、示し合わせて早く起きた僕とラピリアは、食堂でみんなが起きてくるのを待っていた。


 ぽつりぽつりとやってくる仲間たちは、僕とラピリアの間にある雰囲気を見て、ホッとした顔をする。やっぱり少なからずみんなに心配をかけてしまった。


 みんなが揃ったところで、僕は「食事が終わったら、少し時間が欲しい」と伝える。


 僕の希望に対して「構いませんが、そろそろ何時父上から呼び出されてもおかしくないかと。謁見への打ち合わせもしておいたほうが良いかもしれません」と、ツェツィーからも提案があった。


 ツェツィーの言葉も尤もだ。色々あって昨日はそれどころではなかったし、僕の用事が終わったらそのまま打ち合わせの時間と決まる。


「どこか、それなりに立派な部屋を借りたいのですけど」


 家主であるポンモールさんにお願いすると「では、一番大事な商談をする時の応接室を」と、一見して大変豪華な場所を貸してもらった。


 家主に許可をもらい、深紅の絨毯に鎮座する家具を動かして中央に空間を作る。


 何が始まるのかと見ていたみんなの前、僕は応接室の中央に立つ。


 僕の前に進み出たラピリアが、僕の前で跪くと、両の手に愛剣を乗せて僕へと差し出した。


「まさか」


 ネルフィアの囁くような独り言が、部屋に妙に響く。



 耳が痛くなるくらいの静寂の中で、ラピリアがゆっくりと口を開いた。



「ラピリア=ゾディアックは貴方にこの剣を捧げ、常に貴方の傍にあり身命を賭して忠誠を誓う。お許しいただけるだろうか」



「ーーーーー許す」



 いつか、ウィックハルトにも捧げられた、誓い。



「、、、、神聖な儀式を汚すつもりはないが、いいのか?」

「お前はレイズ様の剣だろう?」



 神妙な顔の双子に、立ち上がったラピリアは穏やかな表情で微笑む。


「私はレイズ様に剣を捧げた身だ。レイズ様を失った今、この先、真の意味で誰かに仕えることはないと思っていた。けれど私は、いえ、レイズ様も含めた私たちはまだ、道半ば。これは私の覚悟。ルデクの平和を掴み取るまで、私はロアと共にあると決めた」



「、、、、そうか」

「なら、いい」



 双子も珍しく、とても穏やかな微笑みを返す。双子も容姿だけはどこかの淑女たるやであるので、何やら幻想的な光景に見える。


 ラピリアは双子から視線をウィックハルトに移すと「そういう訳だから、同じ側近として宜しく」と手を差し出した。


 差し出された手をしっかりと握り返しながら「こちらこそ」と返すウィックハルト。



「騎士の儀式、、、、初めて見ました」と楽しそうなツェツィー。


「あら、ガフォルはツェツィーに剣を捧げていないのかしら」ルルリアは人差し指を唇に当てて、首を傾げながらガフォルを見る。


 いや、ルルリア、これは強要するようなモノじゃないんだよ?


 けれどルルリアから問われたガフォル将軍は、優しげな眼差しをツェツィーへ向けると、「皇子の成長を私は待っております。すでに覚悟は決めているのですぞ」と言った。


 ツェツィーは「責任重大だ。ロア殿ほどの人物にならないといけないのか」と苦笑いだ。


 大丈夫だよ。ツェツィーは統治者としては僕と比べ物にならないくらい優秀だもの。ポージュを囲んだ領主たちの顔を見れば信頼はよく伝わってきたからね。


 ゾディアは「貴重なものを拝見しました。ロア様の近くにいると、こんなに色々面白いことが起きるのですね」と満足げ。


 頭を抱えたのはネルフィアとサザビー。


「どうしたの?」


「いえ、ユイメイさんが言う通り、神聖な儀式に水を差すつもりはありませんが、、、、戻ったら大変ですよ? 第10騎士団は大規模な編成を行うことになると思います」


「まぁ、そうだよね。そうか、王に報告したり、ロア隊とラピリア隊の兼ね合いとか、王の秘書官としては仕事が増えるのか、ごめんね」


 そんな僕の言葉に呆れたのはサザビーだ。


「ロア殿は何にもわかってないですよ。良いですか、一番大変なのはロア殿自身です」


「え? そうなの?」


「やっぱり理解してませんでしたか、、、、」ネルフィアも呆れ顔だ。何だかすみません。


「ロア様、この同盟が成立してルデクに戻れば、おそらく、貴方は実質第10騎士団を率いる立場になります」ネルフィアが断言する。


「え? ゼウラシア王が指揮を取るんじゃないの?」


 レイズ様亡き今、リフレアとの戦いが落ち着くまでは王が先頭に立つのだと思っていたのだけれど。


 もっと言えば、ゼウラシア王以外なら、長く第10騎士団で戦ってきた歴戦の部隊長が指揮官になると思っていた。ラピリアでなければ、ヴィオラさんのような。いずれにせよ新参者の僕の役割ではない、と。


「いいえ。第10騎士団はその柔軟性が大きな武器です。持ち場を持たず、自由に戦場を渡り歩く特殊な騎士団。王都から動かない王は、レイズ様のような副団長を任じることになります」


 、、、、それは、分かる。



「レイズ様の盾であったグランツ様は、自ら移籍を望み第10騎士団におりません。そしてラピリア様はロア様に剣を捧げたため、候補から外れます。さらに、帝国との同盟を成功させた立役者で、ゼランド王子の最側近。先だっては、実質的な指揮官として第九騎士団を撃破して見せたのが貴方様です。むしろ、貴方様以外適任者がおりませんけれど?」


 僕はラピリアに視線を移す。


 ラピリアは、今更? とこちらも呆れ顔。


 剣を捧げられた直後に呆れられてしまった。



「ま、まあ、まずは皇帝を説得できなければ、話は始まらないよ! さあ、集めてもらった情報の精査を始めようか!」




 無理やり話題を変えた僕に、みんな揃ってやれやれという顔をするのだった。




と言うわけで、今年最後の更新は少し締まらないロアと共にお送りいたしました。

本作の更新開始は今年(2022年)の6月1日。本日でちょうど満7ヶ月でございます。


7か月間、応援やいいね、ブクマ、感想、レビューに誤字報告本当にありがとうございました。更新の大きな励みとなっておりますので、この場を借りてご挨拶申し上げます。


本年も大変お世話になりました。来年もどうぞ、本作を宜しくお願いいたします。

来年は全ての読者様にとって良い一年になりますように。


年が変わっても、元日からあいも変わらず毎日更新してまいります。お正月休みの暇つぶしになれば嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 許す、のセリフは十二国記を思い出させる。 とても面白く読ませてもらってます。まだ最新話に追いつけてないけど、ここからも楽しく読ませてもらいます。
[一言] ラピリアがロア君に剣を……! ロア君以外には第10騎士団を率いる適任者はないですよね。 身体は若くとも、実際は60年以上は生きてるはずのロア君、知識と知恵とで第10騎士団を見事率いてくれるは…
[一言] 応援しておりますぞ。 来る年ものびのびとご創作くださいませ!!!
感想一覧
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