【第202話】皇帝とロア④ 4人の皇子
順番は前後してしまったけれど、僕らはルデクの現状について、ようやくツェツィーとルルリアに伝えることとなった。
「第一騎士団ですが、、、ゼウラシア王に謁見した時に姿を拝見をしましたが、あの方がこのような、それにリフレア、、、確かにルデクは未曾有の危機の中にあるのですね」
「それを聞いたら御義父様は勇んで兵を起こしそうね」
夫妻の感想を聞きながら、逆に僕は皇帝の性格やロカビル皇子についての質問を重ねた。
二人の話をまとめると、皇帝ドラクは大体僕の想定通りの性格をしているみたいだ。
問題はツェツィーの兄、ロカビル皇子の方。
こちらに関しては僕にもあまり情報がない。僕の知る歴史では、ツェツィーは第二皇子とともにすでにこの世にはおらず、皇帝は第一皇子が承継をした。
第一皇子にはドラクほどの器量はなかったけれど、無能でもなかった。皇帝が健在なうちは常に前線にいたけれど、皇位を継承してからは、どちらかと言えば内政に手腕を発揮している印象がある。
本来の歴史であれば、瓶詰めを一般大衆まで広めたのは、この第一皇子の功績になるはずだったのだ。
第三皇子ロカビルはあの時どうしていたのだろう?
大きな戦に従軍して活躍していたのなら、僕の知るところだと思うのだけど記憶にない。ということは戦場で功績を残した人物ではないのだろう。
同時に第三皇子が無能という話を聞いた記憶がない。なら、補佐官向きの人材だったのだろうか?
ツェツィーたちの話を聞く限り、やはり裏方で実力発揮するタイプのようだ。ツァナデフォルとの戦いにおいても、前線に出てゆくのは皇帝と第一皇子。第三皇子は後方支援で手腕を発揮していた。
ちなみに、第二皇子と第四皇子ツェツィーが対ルデクを担当していた。そのためツェツィーの側近であるガフォル将軍が、レイズ様と度々干戈を交える事となったのである。
これも初めて聞いたのだけど、皇帝はどうもルデク攻略にはそれほど力を入れていなかったらしい。
理由としては、当面警戒しなければならないのは、向こうからも攻め込んでくるツァナデフォルであることが一つ。それからルデクとの連絡経路の少なさから、統治後の手間に難色を示した。
そのため第二皇子を大将に据えて任せ、加えて、治めている地域がヨーロース回廊に近かったツェツィーを補佐に付けた。
攻略がうまく行けばそれはそれで良し。切り取った分だけ第二皇子の所領とする。ダメでもツァナデフォルと決着がつくまでに、少なからずルデクを弱らせておけ、と。
ツェツィーは将としてはあまり期待されていなかったから、勝っても負けても第二皇子フィレマスの実績になる予定だった。
いや、実際フィレマスの実績になったのだ。残念ながら、レイズ様に散々蹴散らされたという不名誉な結果が積み重なったのである。
もしかしたらフィレマスが反旗を翻したのは、対ルデクの失態によって立場の低下を恐れてのものだったのかもしれない。
本人はすでにこの世にいないので、真相は永遠に分からないけれど。
フィレマスのことはともかく、ロカビルがルデク侵攻を皇帝に進言した経緯は、残念ながらツェツィーはあまり詳しく知らないらしい。
ツェツィーは良くも悪くも人畜無害と目されていたので、帝都で開戦が決まった時も、穏やかに領地の運営に励んでいたのだ。
「役に立たずにすみません」と申し訳なさそうなツェツィーだったけれど、とんでもない。今聞いている話でさえ初めて知ることばかりだ。
とにかくロカビルの提案に皇帝は乗った。できればロカビルが当時提案したという、ルデク侵攻の利について知っておきたいなぁ。なんとかならないかな?
「調べれば分からんでもない。帝都についてからでもそれくらいなら問題なかろう」そのように言ってくれるのはガフォル将軍。
思えばガフォル将軍はレイズ様から散々煮湯を飲まされてきた張本人だ。にも関わらずルデクとの同盟について声高に反対することもなく、淡々とこの場で話を聞いてくれている。
僕が素直に礼を伝えると、少し不快そうに眉根を寄せて「別に貴様らのためではない。ツェツェドラ様のためだ」とそっぽを向いた。
いろいろな話が一段落ついたところで、「夕食までには少し時間があります、一度休憩としましょうか」というツェツィーの提案。
待ってましたとばかりに立ち上がったのは双子だ。
「おい大剣の」
「少々手合わせ願おうか」
とガフォル将軍を挑発。元気なことで。。。とはいえ流石に帝国領の真っ只中でこれはまずいだろうなぁ。そう考えて止めようとしたけれど早々にガフォル将軍が応じてしまう。
「ほお、そこそこやりそうな雰囲気であったが、その威勢は買おう。宜しいですかな、皇子」
許可を求められた皇子は僕に視線を走らせる。
僕は君の方が良ければと、苦笑で返す。
「大切な客人だ。互いに怪我しないように、禍根は残さないこと、いいね」
「ユイメイもあまり迷惑をかけないように」
僕らの許可を得た3人は、意気揚々と部屋を出てゆく。どうも話し合いに飽きたっぽい。
それからなんとなく席を立ち始めるみんなを見て、僕はもう一つだけ考えていることがあって、その場に留まってもらう。
「どうしたの? 何か話し忘れ?」ラピリアの言葉を制して、僕はツェツィーに一度席を外してもらえないかなと伝える。
「あら、私も?」
「うん。ルルリアも。ほんの数分でいいんだ」
僕の希望を聞いて、一度部屋を出る夫妻。
「どうされたのですか?」ネルフィアも不思議そうだ。
僕はラピリア、ウィックハルト、ネルフィア、サザビーを見渡してから
「ツェツィーとルルリアに、レイズ様のことを話そうと思うのだけど、良いかな?」と問うた。
まだ国内でも極秘にされている一件だ。軽々に話して良い事柄ではない。
「理由を聞いても?」とウィックハルト。
「信頼、かな?」
ツェツィーとルルリアは、僕らの事情も聞かずに協力を約束してくれた。きっと帝都でも僕らの側に立って説得してくれるだろう。
そんな2人だから、僕もちゃんと誠意を見せておきたいと思った。
いざ皇帝との謁見時に、僕らとツェツィーたちの話に齟齬が出るのを避けるため、というのもある。
僕の説明を聞いたみんなはしばし沈黙。
それから「良いんじゃないの」と言ったのはラピリア。
「もともとレイズ様の策はロアとレイズ様の物よ。ロアがそう判断するなら、そうすればいいわ」
ラピリアの言葉に反論はなく、僕はみんなに黙って頭を下げると、外で待つ二人を呼び寄せるのだった。




