【第199話】皇帝とロア① 帝国へ!
いつも本作を一読いただきありがとうございます!
帝国編、開幕です!
「しかし、ロアの兄貴も豪快なことをしますね!」
全身に潮風を浴びながら、僕は船長のグルグッドさんに声をかけられていた。
ここはルデクから帝国へ向かう海上。
グルグッドさんとは、以前に離島で焚き火を囲んだ仲だ。
グルグッドさんの方が年上なのだけど、ノースヴェル様から認められた相手はグルグッドさんにとって全て「兄貴、姉御」になるらしい。
正直、ノースヴェル様の部下というよりも、子分、という表現がしっくり来る人だ。
そんなグルグッドさんではあるけれど、船乗りとしての腕は確か。
ノースヴェル様は東方諸島との貿易の途上にある。残った船乗りの中で一番腕のいい船長ということで、グルグッドさんが選ばれたのである。
「豪快というか、少しバカなのよ」
僕ではなくラピリアの答えに
「男は少しバカな方がモテますぜ!」
などと軽口を叩く。
実に穏やかな航海だ。選択肢を一つ間違えれば、これが最後の航海になるけれど。
僕らはゲードランドを出立し、南の海をぐるりと回って帝国領の港を目指している。目的地はフィッツジュレ。ツェツィーとルルリアが治める領地にある、小さな港町。
今回の来訪、当然ルルリアたちには伝わっていない。そんな余裕があれば正規ルートで動いている。つまり出たとこ勝負である。
最悪船を降りたところで拘束される恐れもあるが、そこまでは心配していない。その程度は何とかなると思っているし、何とかする。
「それにしてもいい天気だな」
空を見れば雲ひとつない。気持ちの良い風景を見ながら甲板に視線をやれば
「、、、、、、、あうう」
「、、、、、、、へうう」
ものの見事に船酔いで潰れた双子の姿。
よだれを垂らして尻を突き出したまま甲板に突っ伏している姿からは、戦場であれほど無双の働きをする雄姿は想像できない。
「、、、、ロア、、、騙したなぁ、、、、」
「、、許さんぞぉ、、、、、」
などと言っているけれど、八つ当たりも甚だしい。ちゃんと伝えたよ? 船で行くって。
上陸してから双子に絡まれそうだなぁ、、、、と思っている間にも、僕らを乗せた船は着々と帝国領へと進んでゆくのだった。
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突然登場したルデクの軍船に、フィッツジュレの港はちょっとした混乱に陥った。
慌てて駆け寄ってくる警備兵に、僕は「ツェツェドラ=デラッサ公と約束をしているので、ルデクのロアがやってきたと伝えてもらいたい」と伝える。
約束などしていないけど、僕の名前を聞けば何らかの行動は起こしてくれるはず。。。と信じたい。
僕の言葉に訝しげにした警備の責任者だったけれど、僕の両側に並ぶラピリア、ウィックハルト、双子(具合悪そう)、ネルフィア、サザビーの身なりを見て、只者ではないと判断してくれたようだ。
「公より確認が取れるまでは、しばし軟禁させてもらう事になりますがよろしいですか?」
「もちろん」
こうして僕らが連れてこられたのは、フィッツジュレの一角にある民家だ。
「、、、ルルリア様のことを思い出しますね」
ウィックハルトが口にするように、ルルリアがルデクの海域で漂流した時に、彼女を保護した状況によく似ている。
「そうだね、それなら、、、」
「”アレ”しかないですね」
この場では僕とウィックハルトしか分からない会話に、双子が小首を傾げた。
「、、、信じられない、、、、、本当にロアだったのね。随分と不躾な来訪だけど、どうしたの?」
夕刻、僕らの前に現れたのはルルリアだった。
「やあルルリア、待ってたよ」
「、、、とりあえず事情を聞いてもいいかしら?」
両手を腰に当てて言うルルリアに、
「ちょうどポージュが出来たところさ、食べながら話そうよ」
僕はトリットの香りが立ち上る鍋を指差した。




