【第198話】ルシファルとニーズホック
ひろしたよだか、なろう作家として満二年となりました。
よろしければ今後とも何卒、よろしくお願い申し上げます。
お昼に2周年記念で外伝SSも更新いたします。SSは読まなくても本編には特に影響ありません。
「15日ほどですね」
別れ際、ゾディアは僕にそう言った。
王都から帝都までの移動時間だとすれば異常な速度だ。馬車で普通に移動すれば、どれだけ急いでも倍はかかる。けれどこれこそ、僕がゾディアに期待した事。
いかなる国境であろうと、旅一座は咎めなく通過することができる。もちろん、相応に国境の兵士たちに顔が利かなくてはならないけれど。
さらに知られた旅一座は野盗に襲われる心配がほとんどない。というのも、野盗もまた旅一座の”顧客”であるのだ。
野盗は単に遊興の一環として旅一座を偶する訳ではない。彼らにとっては命綱である、近隣の警備の情報を横流ししてもらう。
縄張りで野盗狩りがあると聞けば、蜘蛛の子散らすように逃げ、ほとぼりが冷めた頃に帰ってくる。
野盗に情報を流すことが正しいかどうかは、ここで判じることではない。旅一座にとっては、相手が王であろうが、野盗であろうが大差はないのだから。
ゆえに野盗の中でも旅一座と顔見知りが多いやつは、頭角を現しやすい。
旅一座との関係を分かっていない奴が頭を担う野盗は、大抵長生きできない。過去には旅一座を襲ったことで、旅一座から敵視された野盗集団がいた。
そいつらは旅一座達から偽情報を掴まされ、貴族の馬車を襲った上に失敗し、潜伏場所も兵士に流されて壊滅したという話を聞かせてもらったことがある。
あれは確か、、、ゴルベルでの出来事だったと記憶している。
ゆえによほどのことがない限り、野盗が旅一座を襲う事はない。
さらに言えばゾディアの率いるル・プ・ゼアは、ルデクや帝国でも知られた一座だ。極端な話、どれだけ危険な地帯であっても、彼女達は顔パスと言っても大袈裟ではないだろう。
けれど、それにしたって早すぎる。そう思って出発前にゾディアに聞いたら、彼女達は馬車の中で交代で休みながら昼夜を問わず進むことで、大幅な時間短縮を目論むのだそう。
馴染みの町村が各所にあって、簡単に補給もできるゾディア達だからできる荒技と言えた。
「とにかく急いで欲しいのでしょう? でしたら、15日で」
ゾディアの言葉を頼もしく感じながら、移動のための馬と資金を手渡して出立を見送ると、その数日後には僕らも急ぎ準備を調え王都を発った。
ゾディア達に同行できれば一番手っ取り早いかもしれないけれど、それは無理。
まず旅一座の他の人々が嫌がるし、僕はともかく他の仲間は武の気配が濃すぎる。どう見ても旅一座の一員には見えない。
王都を出た僕ら7人が目指すのは南。
船に乗り、帝国へと回り込む。
目的地は、友人夫妻が治める場所だ。
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「なんのつもりだ?」
ルシファルに詰問されているニーズホックは、飄々とした雰囲気を崩そうとしない。
ルシファルの周辺にいる側近達も、ニーズホックに鋭い視線を向けており、部屋には剣呑な空気が充満していた。
「何のつもり? 質問の意味が分からないけれど?」
ニーズホックが質問を質問で返すと、ルシファルではなくベリアルが口を挟む。
「貴殿は我々に協力すると約束したはずだ。にもかかわらず、第10騎士団を足止めするでもなく、追い返されてすごすごと、、、それも無駄に時間をかけて戻ってくるとは、一体どういうつもりなのかと聞いているのだ」
「ああ、なら、そう言ってもらわないとねぇ」
ふふふと笑うニーズホックに、「ぬう!」と色めき立つベリアル。
「ま、そんなにカッカしない方がいいわよ? 質問の答えは簡単。アタシ、第10騎士団の足止めは頼まれていないもの」
「戯言を申すな! 協力すると、、、、」
「戯言? 今までも十分に協力しているじゃないかしら? 貴方達がアタシの持ち場で好き勝手に謀略を巡らせることができたのは、一体なぜかしら?」
「ふざけるな!」
激昂するベリアルを止めたのはルシファルだ。
「まあいい。それよりもニーズホック、レイズ=シュタインの生死は確認したか?」
ニーズホックは首を振る。
「いいえ。会いたいと伝えたけれど、すげなく断られたわね。アタシのことをレイズとロアが怪しんだから、そんなふうにロアが言っていたわね」
「そうか、、、、本当に生死は確認していないのだな?」
「そんな事、嘘をつく必要はないわ」
「、、、、、分かった」
「他に何かあるかしら? なければアタシ、もう休むわね。疲れちゃったのよ」
言いながら部屋を出ようとするニーズホックに、再びルシファルが声をかける。
「もう一つだけ。次の出陣では私と一緒に出てもらう。もちろん、ルデクとの戦闘に参加してもらうという意味だ」
「、、、、それを貴方が望むのなら」と言い残して今度こそ退出してゆく。
扉が閉まってもベリアルはまだ悪態をつきながら、ルシファルへと進言する。
「やはりあのようなものは信用なりません。いっそ始末しては?」
そんなベリアルをゆっくりと手で制したルシファル。
「一度ルデクと刃を交えさせれば、どの道奴らに逃げ道はない。私の下で働くしかないのだから大目に見てやれ」
鷹揚に見えるその姿に、ほんの僅かに焦りのような揺らぎを感じたのは、側近の中でもヒーノフただ一人であった。




