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【第179話】レイズ=シュタインの一手20 砦とサザビー



「さて、ロア殿は上手くやったかな、と」


 誰に言うでもなく一人呟いたサザビー。


 サザビーとネルフィアは、ロアがニーズホックと話し合いを持つよりずっと前、レイズ様を模した人形を馬車に運び込む頃には第10騎士団の元を離れていた。


 ネルフィアは単身王都へ戻り、事の次第を伝えるためにゼッタ平原を疾駆しているはずだ。


 さらにロアの言葉通りであるならば、攻め寄せてくる第一騎士団に対抗するためにロアが準備したという策の下準備にも奔走しなければならない。


 ロアより何人か補助をつけようかと提案があったけれど、ネルフィアは断った。「単身の方が目立たなくて良い」と。


 確かにネルフィアであればなんの問題もないだろうけれど、サザビーとしてはせめて「サザビーが一緒なら心強い」くらいのことを言ってもらいたかったところではある。


 まあ、絶対にそんなことを言わないのがネルフィアではあることは承知の上だが。


 それにしてもロアはどこまで筋書きを読んでいたのか。


 一応レイズ様とも相談した様なことを言ってはいたが、近くで見てきた限り、あの男が提案したおかしな物が、それがここにきて急に意味を成しているように見えてならない。


 一体何者なのか。


 田舎の漁村で生まれて、両親を亡くしたきっかけで王都へやってきて、運よく王宮の下級文官に合格した特徴のない男であることは、既に分かっている。


 何か特別な訓練を受けたとか、入れ知恵をする様な背後がいない事を徹底的に調べた上の結論だ。


 それだけに余計に興味深い。もはや意味がわからなさすぎて多少気味が悪い。


 尤も、もしかすると本当の意味でロアという人間を知るのは、これからかもしれない。


 レイズ=シュタイン。言い方は悪いが、ロアが隠れ蓑にしていた傑物が死んだ。レイズ様の亡くなった後、ロアの顔つきが明らかに変わった。


 今まではどこか遠慮がちで、目立たぬ様にしている様にも見えたが、、、、




 ガチャ!ガチャ!



 ぼんやり考え事をしていると、近くで鎧が擦れる音がしてサザビーは息を潜める。


「、、、、、」


 しばらくすると気配が遠ざかっていった。


 サザビーは今、少々拍子抜けしている。



 第八騎士団の中でも”潜入”という技術において、サザビーが五指に入るのは自他ともに認めるところだ。なにせネルフィア直伝である。


 砦、と言うのは戦闘中でもなければ意外に人の出入りがあるものだ。現に日参で商売に通い詰める住民がいる砦も珍しくはない。


 サザビーにかかれば、侵入する手だてなどいくらでもある。


 それにしても、だ。


 ゴルベルにおける最前線の砦が、こんな状況だとは、、、


 ルデクの兵がゴルベル北部に侵入してきたことは当然伝わっているはず。にも関わらず、この程度の警戒度合いなのは、ヒースの砦に差し迫った危機が近づいてきていないと指揮官が判断していると思わざるを得ない。


 現状を考えれば、およそゴルベル北方最大の砦の指揮官が下していい判断ではない。優秀な指揮官を配置していない証だろう。いや、優秀な指揮官を手配できないが正しいか。


 ーーーゴルベルは本当にもうダメかもしれないなーーー


 砦に忍び込んでみて、肌でゴルベルの衰退を感じるに至る。



 順調であれば、明日にも第10騎士団がやってくるだろう。



 それから慌てても、もう遅いのである。



 サザビーは右手に握る小さな銀の筒に視線を送る。



 火種はすでにサザビーの手により、ヒースの砦の各所でその時を待っていた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 僕らがヒースの砦に到着したのは、予定より一日早い夕刻のことだった。


「サザビー、、、準備できてるかな?」


 予定より早く着いたからと言って、ここでのんびりしている暇はない。ヒースの砦も僕らの姿を見て戦闘体制に入るはずだ。


 ヒースの砦攻略にあたっては、フランクルトの情報と、サザビーの潜入の技術が策のキモ。フランクルトにヒースの砦内の要所を書き出してもらい、その図面と共に圧気発火具をサザビーに託した。


 上手くすれば此方の合図で、砦内のあちこちから火の手が上がることになる。ヒースの砦は内部から崩壊、、、、そうなって欲しいものだけど、さて。



「予定より早いけれど、始めるの?」


 僕の元にラピリアがやって来て聞く。


「うん。サザビーの準備が完全に調ってなくても、それなりにはやってくれるはずだ。始めよう」


「随分と信用しているのね」


 一流の諜報だから、とは言えない。一応守秘義務があるからね。


「うん。チャラっぽいけど、結構やるよ、サザビーは」


「そう、ロアが信用しているならそれでいいわ。じゃあ持ち場に就くわね」


「よろしく。気をつけて」


「誰に向かって言っているの? サザビーよりも私を信用しておきなさい」


 ほんの少しだけ微笑んで、ラピリアは僕から離れてゆく。


 まだ、ラピリアの目元にはクマがあった。人知れず涙を流していたのは容易に想像できる。それでも少しずつ、レイズ様の死を受け入れようとしているのは伝わってきた。


 あれだけの啖呵を切った以上、ラピリアをガッカリさせるわけにはいかないよなぁ。



 頼むよ、サザビー。



 僕は多分砦の中で暗躍してくれているサザビーに心の中で期待を込めて



「砦攻めの合図を!」と命を下した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 日暮れと共に始まった第10騎士団の攻撃と同時に、砦内の各所から炎が上がったヒースの砦は大混乱に陥った。




 驚くべきことに、北部最大の砦の攻防は翌朝には決着を見る。




 後に、レイズ=シュタインの大遠征における最大の成果にして、あまりにも鮮やかな占領劇と謳われたヒース砦の攻防戦は、第10騎士団の圧勝という結果を歴史に刻んだのである。




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― 新着の感想 ―
[一言] サザビー、本当に有能。 彼の下準備のおかげで砦攻めは完勝だったのですね。 ロア君、今までのほんわかしたものから引き締まった雰囲気になって、まさに山場な感じがします。 もとの歴史ではこのあと…
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