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【第151話】伝馬箱

本日ちょっと短めです


「あ、あった。あれじゃないかな?」


 僕らが最初に”それ”を目にしたのは、ゲードランドに行く際はお馴染みのルエルエの街の近くだった。


 見た感じをそのまま表現するなら、二階建ての小さな砦みたいな建物だ。しっかりしていて威圧感がある。周辺をうろつくごろつきを威嚇する意味合いでも、悪くないと思う。


 新しい街道を歩く人々は、街から外れたこんな場所に、これは一体なんの建物なのかと首を傾げつつ通り過ぎてゆく。


 しまったな、抑止力を考えるなら、建物の用途を建築中に告知した方が良さそうだ。立て看板を設置するだけでもそれなりに効果があるだろうから、帰ったらレイズ様に提案してみよう。



「ああ、こういう感じになるのか」


 先頭のリュゼルが馬を止め、興味深そうに建物を眺めながら馬から降りた。


 出発直前に聞いた話だと、二階は仮眠や食事を取るための生活スペースが確保されるはずだ。そして一階には10頭ほど馬を繋ぐことのできる厩と、伝馬箱に滞在する兵士たちの作業スペースがあつらえてある。


 正直、思った以上に良い出来だ。


 感心しながら眺めている僕らに、仕上げの作業をしている第六騎士団の兵士の一人が気づいて近寄ってきた。


「もしかして、、、、ロア隊の皆様でいらっしゃいますか?」


 僕からは覚えのない顔だったけれど、僕らを知っているみたいだ。


「そうですけど、よく分かりましたね」


「第六騎士団でロア隊を知らぬものはおりませんよ」と苦笑されて、僕も少し笑い返す。


「すごく良い出来ですね」


 僕が素直に賛辞を伝えると、その兵士は嬉しそうに胸を張った。


「自分達で言うのもなんですが、この短期間で作ったにしてはよくできていると思います」


 全くその通りだ。僕はもっと簡易的な、寝る場所と風雨を凌げる場所だけ確保した小屋をイメージしていたから、正直言って驚いている。


 各所にこんな建物ができるなら、周辺の治安にも大きな影響を与えるのは間違いないと思う。


「はー、俺たちここで過ごすんですか? 中を見てもいいですか!?」


 元気よく会話に参加してきたロズヴェルは第六騎士団の兵士に許可を取ると、他の新兵も連れて早々に建物内に駆けて行った。


「壊したら懲罰だから気をつけろ!」そんなリュゼルの言葉が新兵たちの背中を追う。





 ひとしきり伝馬箱を見学して、第六騎士団の人たちにお礼を伝え、先へと進む。今回もルエルエで一泊の予定。


 街道は快適で、明らかに行き交う人が増えている。特に商人とおぼしき人々の姿が目立つ。


「街道の整備、、、頭では分かっているつもりだったが、ここまではっきりと差が出るものなんだな」リュゼルが独り言のように呟いた。


「ですね。ロア殿は妙なことばかり考えつきますが、結果的には納得できるんですよね」とサザビーが混ぜっ返す。


「ここまではっきりと影響があるのなら、早々に新しい街道の整備も計画されるでしょう。ロア殿はどのような報酬を希望されるんですか?」


 そんなことをネルフィアに聞かれるけれど、僕は小さく首を振る。


「別に作ったのは僕じゃないよ。褒章が与えられるべきは、これだけのものを作った第六騎士団の人たちだと思うよ」


 僕の言葉を聞いたネルフィアは少し目を細める。


「なんとなくそのように仰りそうだなとは思いましたけれど、ロア殿らしいですね」


「あ、それなら俺が代わりに褒章を受け取ってもいいですか!?」サザビーが軽口を叩くので


「じゃあ、フォガード騎士団長にサザビーが分前をよこせって言っているって伝えておくよ」と返せば


「やだなぁ。俺だって第六騎士団が受け取るべきだと思っていますよ! もちろん!」と調子の良い言葉を吐く。いつにも増して浮かれた感じのサザビー。


 ご機嫌だね、と聞けば、実に一年ぶりのまとまった休みらしい。


 、、、、自称王の書記官、激務である。



 そうこうしている間に、ルエルエの街が見えてきた。


「ちょっと止まれ、何やら街の入り口が騒がしい」


 リュゼルの言葉に僕らは一度その場に停止。


「俺が先に様子を見に行ってくる。ロズヴェル、ノーキー、俺について来い」


 指名された新兵二人が慌ててリュゼルのあとに続いて馬を走らせてゆく。


 僕らはしばし、待機。


 さして待たずにリュゼル達が戻ってくる。表情からして深刻な話ではなさそうだ。


「どうだった?」


「問題ないな。祭りが行われているから人が集まっているらしい」


「祭り?」


「ああ、人気の旅一座が来ているようだ」


 僕とルファは思わず目を見合わせた。





 結果から言えば、僕らの予想は違えることはなかった。


 ルエルエの街では、歌姫が僕らとの再会を待っていたのである。




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