【第149話】新兵
レイズ様の話をまとめると、いや、レイズ様の言外の意図までまとめると、つまりこういうことだ。
ロズヴェルは先日の演習でレイズ様のお眼鏡にかない、晴れて第10騎士団の門戸が開かれることとなった。
入隊の決まった兵の中でも目立っていたロズヴェル。レイズ様は僕の時と同じように、ロズヴェルを呼び出して話を聞こうとした。
そして意気揚々とやってきたロズヴェルは開口一番「本日部隊長に任命してもらって構いません!」とのたまったそう。それはなかなか、強心臓と言わざるを得ない。相手はあのレイズ様である。
そう、相手はレイズ様なのだ。
ロズヴェルの言葉を面白がったレイズ様は「ならば、5つの試験を行おう。そうだな、、いずれも3回勝負。一つでも勝ち越せたのなら、部隊長に任命しよう」と言った。
そうして僕らが呼び出される。
試験の内容は「騎乗しての槍戦」「剣技」「力比べ」「弓比べ」「盤上戦」の5つ。僕らにとってはおあつらえ向きというか、レイズ様が僕らのために選んだのは間違いない。
そこまでお膳立てしたレイズ様のやりようや、この場にグランツ様もラピリア様も同席していながら僕らが呼び出されたということは、僕が面倒を見ろということか。
先に提案された5戦、別にグランツ様の部隊でもラピリア様の部隊でも、問題なくあしらえるはずだから。
僕の部隊に編入する意図までは分からないけれど、とりあえずやるしかないよなぁ。
「用件はわかりました。けれど、ロズヴェル一人に対して、こちらは5人というのは少し不公平だと思いますよ?」
僕の言葉に反応したのはレイズ様ではなくロズヴェル。
「ご安心ください! そのくらいなら一人で十分です!」だって。おおう、強気。ただ、そうは言ってもだ。無理なものは無理。
「いや、自信はあるかもしれないけれど、部下に任せられない人間に部隊長を任せられないんじゃない?」
僕に指摘されてハッとするロズヴェル。それから少し考えて、
「なら少し時間をもらっていいですか! 集めてきます!」と言って、こちらの返事も聞かずにどこかへ走り去ってしまう。
司令室にはしばしの静寂。
「えーと、、、、」僕がなんと言っていいのか悩んでいると、レイズ様が先に口を開いた。
「どうだ? 面白いだろう?」
「面白い、、、ですかね? 確かに演習の時は長柄槍を面白い使い方しているなぁとは思いましたが」
「ああ。ああいうおかしな発想のやつは、指揮官も変わり者がいいだろう」
、、、、ん? それは僕が変わり者だと?
レイズ様に反論しようとした時には、「お待たせしました!」とロズヴェルが駆け込んでくる。早いな。その辺にいる兵士を連れてきたのかな?
見ればロズヴェルに連れてこられた兵士は、全員見慣れない顔だった。
緊張と少しおどおどとした感じから、今回編入された新兵だと分かる。そこで僕はピンときた。
「もしかして、ロズヴェルと一緒に突撃していた新兵?」
「あ! よく分かりましたね! 俺の最初の部下達です!」と胸を張るロズヴェル。
部下と呼ばれた新兵達は少し不満そうであるが、この場の雰囲気に気圧されて口をつぐんでいる。
つまり、演習の時の突撃もこんなふうにロズヴェルが強引に巻き込んで突撃したってことか。まあいいや。これで人数的な不公平を訴えられることは無くなったし。存分にやらせてもらおう。
「それじゃあ、僕らの方は各試験ともに同じ人間が出るよ。君たちの方は同じ人間が何度出てもいいし、交代しても構わない。それでいい?」
「あ、それならどの試験も5回戦にしてもらっていいですか! 疲れさせた方が勝てる気がしますから」
「僕は構わないけれど、、、」レイズ様に視線を移せば、「構わぬ」との返事。
まぁ、考え方は悪くない。5戦程度で僕らの方が疲れることはないという点を除けば。
なるほど、少し分かってきた。ロズヴェルは着眼点は悪くない。ただ思いついた策に対する肉付けが甘いのか。
同じように条件を出すなら、僕なら「全部で25戦して、どれかで3勝すれば良いですか?」と聞く。
許可がもらえればこっちのものだ。それぞれの対戦相手を1回ずつ試してみて、一番勝てそうな相手と残り20戦を全て行う。これなら本当に相手が疲れるかもしれないし、勝ち目という部分を重視するなら効率が良いように思う。
もちろん教えないけれど。
「ならそれで決まり。じゃあ、早速始めようか」と僕らはゾロゾロと第10騎士団の訓練場へ。
最初は騎乗しての対決。こちらはリュゼルが出る。
多分、馬に乗り慣れていない新兵にとって、今回の試験の中で一番勝ち越しが難しい。僕なら一番最初に切り捨てる戦いだ。
案の定、ほとんど戦いらしい戦いにならずに決着がつく。唯一、背の高い新兵が少し善戦をした。他の新兵に比べればだけど。
次は剣技。こちらはフレイン。
貴族で努力家のフレインは幼い頃から様々な武術を学んでいる。剣技も槍術も弓術もこなすオールラウンダーだ。本人に言わせれば「どれも極められなかった中途半端な人間だ」などと言っていたけれど、素直に凄いと思う。
こちらも決着にさした時間はかからなかった。一人だけ型が様になっていた新兵は、貴族関係者なのかもしれない。
そして力くらべ。これはもちろんディック。
「面倒だから、まとめてでもいいぞぉ」そんな風に言うディックに、新兵の5人は一斉に飛びかかる。そしてまとめて投げ飛ばされていた。
弓の勝負に関しては語るまでもない。
何せ相手は大陸の十指に数えられる蒼弓ウィックハルトである。
そして盤上戦。ゼランド王子にちょっとしたトラウマを植え付けた例のアレだ。
対戦するのは僕。
ま、無難に勝った。ロズヴェルが奇をてらった戦法を使ってきたけれど、それほど問題なかった。
と言うわけで25戦した僕らは25勝という少々大人気ない結果で終わる。
これで自信を失ったらどうしようと少し不安だったけれど、余計な心配だったようだ。
「すげえ、、、これが第10騎士団、、、、レイズ様! 俺、ロアさんの下で色々学びたいです!」と大変素直でやる気な返事が返ってきた。
「そうか、そこまで言うなら私は止めないが、ロア、どうだ?」
どうだも何も、ロズヴェルの性格をある程度把握した上で、結果が分かっていたレイズ様の言葉に、僕は反論の言葉を持ち合わせない。
結局僕は、ロズヴェルどころか、今回参加した5人の新兵の面倒をまとめてみることになったのである。




