【第148話】騎士団合同演習⑦ 収穫
3日目の合同演習は結局、決着付かずという結果になった。
僕の策が上手くハマって、序盤は僕ら西軍有利で進んだものの、突如として本気を出したザックハート様の個の武によって戦況を押し戻された。
各部隊の人数は多くない。ザックハート様のような規格外が本気で動けば、苦戦は必至。というか、演習でそこまで本気を出すのは少々大人気ない。突然何があったのか。
そうこうしている間に、両軍の新兵が全員やられたので戦いはここまでとなり、結果的に引き分けであった。
「あのジジイ急にやる気出してきた!」
「なんだあのジジイ、ただの娘にヘラヘラしているやつじゃなかった!」
戻ってきた双子が興奮冷めやらぬままに捲し立てる。
あのジジイって、、、ザックハート様だよ? 君たちの認識ってルファにデレデレしているおじいちゃんなの?
「そうだな。噂には聞いていたが、実際に見たのはデレデレじいさんのそれだ」
「ああ。実際に見た結果として、ただのおじいちゃんだと思ってた」
こんなところにも、騎士団の情報共有不足の弊害が!
ともかく本日の演習は無事に終了。4日目、5日目も大きな問題は起こらず、合同演習は無事に全ての予定を消化。各騎士団とも相応の収穫を得て、帰路へとついていった。
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「、、、、漸く、王都に厳粛な空気が戻ってまいりましたな」
苦々しく口にしたのはルシファルの側近だ。ここは第一騎士団の司令室。合同演習が終わったことに対する皮肉であった。
「まあ良い。今回は各騎士団が望んだのだろう、なら放っておけ。それよりもシャリスの手続きは終わったのか?」
ルシファルは懐刀であるヒーノフに視線を走らせる。
若くして第一騎士団の部隊長にまで駆け登ってきたシャリスであるが、些か性格に難があった。真っ直ぐで、正義感のある若者であった。
それは、もうルシファルが備えることのない、そして必要のないものだ。
ゆえにシャリスは第九騎士団へ送ることにした。使い道は考えてある。建前上は若き俊英を第九騎士団で学ばせるため、だ。
シャリスは相応の家の出であったので、第一騎士団から出向となれば、第九騎士団のプライドもそれなりに満足する人材である。
「そうか、ならば良い。”先日の件”もあるからな。第九騎士団とは連携をとっておかねば」
ルシファルの言葉にヒーノフはわずかに顔を歪ませた。王家の祠の一件はヒーノフにしては痛恨の失態だ。
本来の予定であれば、あの一件はもう少し長引き、もう少し尾を引くはずであった。王や第10騎士団の目が王家の祠の方へ向いていれば、こちらは色々と王都でやりやすくなる。
だが、デンタクルス=べローザというべローザの次期家長は、ヒーノフの想像の斜め上をゆく愚かさであった。一応騎士団に所属しているのだから、それなりであろうという想定を軽々と飛び越えるほどに。
ヒーノフにも言い分がないわけではない。今回はルシファルの思いつきで動いたのだ。言い訳と言われればそれまでだが、調査期間は短く、調査対象はべローザ家の現当主にとどまったのである。
しかしヒーノフはただ黙って頭を下げる。
どうあれ、王家の祠の一件はヒーノフの失態。先ほどの表情の変化は、自身に対する不甲斐無さから来たものだ。
ルシファルもそれはよく分かっている。故にそれ以上は追及することもなく、話題を変える。
「さて、我が主よりお言葉が届いた。皆で共有しておこうと思う」
その主が今、王都にいる人物でないことは、その場にいる全ての人間が理解していた。
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合同演習が終わり、裏方としてもなんだかんだと動き回った僕は、少し気が抜けていた。そんなある日。
「レイズ様がロア殿をお呼びです」
前の伝令の人が怪我したことで、最近ちょくちょくやってくる新しい伝令さんが僕を呼び出しにやってくる。
「できればウィックハルト殿、ディック殿、リュゼル殿、フレイン殿も一緒に、とのことです」
、、、、何か面倒ごとかな?
とにかく揃ってゾロゾロとレイズ様の部屋へと向かう。
ディックが一緒に呼ばれることは少し珍しい。ディックも少々緊張の面持ちだ。
そうしてレイズ様の部屋へ入室すると、そこには見慣れぬ人物が一人。随分と若い。
「来たか。早速だが紹介しよう、この者はロズヴェルという。ロア達には先日の演習で長柄槍を持って飛び出した新兵、といえば分かり易いか?」
ああ、いたね。そんな兵が。面白いことをするなぁと印象には残っている。名前を確認しようと思ってそのままだった。ここにいるということは、レイズ様のお眼鏡にかなったということか。
紹介されたロズヴェルは新兵らしい敬礼で僕らへ挨拶。
「ロズヴェルです! よろしくお願いします!」
元気だなぁ。そして初々しい素直さだ。
「さて、お前達を呼んだのは少々頼み事があってのことだ」
まぁ、そうでしょうね。
「なんでしょう?」
「このロズヴェルと力比べをしてもらいたい」
ん?
「俺はすぐに部隊長になれる才能だと思います! どうぞよろしくお願いします!」
元気よく頭を下げるロズヴェル。
、、、、うん。面倒ごとだった。




