【第146話】騎士団合同演習⑤ 6騎士団合同演習
両軍が俄に動き出す。
旗印からするに、東軍の大将役はザックハート様。まあ、順当なところだろう。
残りの3騎士団のうち第六騎士団が中央を担い、左右に第五騎士団と第七騎士団というのは少し意外だ。
四つの騎士団の中では、まだまだ再建の途上にある第六騎士団は戦力的に少し劣る。
僕は一瞬首を傾げたけれど、すぐに「あ、そうか」と思いあたった。今回参加している新兵はおよそ2400人。そのうちの多くが多数の欠員の出た第六騎士団か第四騎士団に編入される。そして一部が第10騎士団入りとなる。
他の騎士団を貶したいわけではなく、事実としての話だけど、王直属の第10騎士団に編入されるのは、ここにいる新兵の中でも実力のある者のみだ。
重ねて失礼な物言いになるけれど、本会演習で第10騎士団に配属された兵は即戦力。残りは各騎士団で経験を重ね、希望すれば第10騎士団への門戸が開かれるということになる。
第10騎士団とはそういう存在なのである。
レイズ様が今回の模擬戦に参加しないのは、今回は第10騎士団へ受け入れる新兵が比較的多いという理由もあるからかもしれない。
外から見て、欲しい人材を選りすぐっているのだろう。
それはともかく。
どうやら東軍は配属された後の事を考えて、第六騎士団に新兵を全て預けるようだ。
今回の戦いには2つの決め事がある。一つは各騎士団への十騎士弓の貸与数。これは一律で200。弩に関しては数に余裕があるので各騎士団の希望数を貸与している。
もう一つが新兵は必ず前線に出る、である。
まあこれは当然の話で、新兵の試練を兼ねているので本陣に置きっぱなしという選択はない。なので前線にでるのなら、どの部隊に編成するも自由だ。
僕ら西軍も新兵は全てグランツ様に任せて、前線へ押し出してゆく。
同時にラピリア隊と双子、そして”ロア隊”も出陣。
もちろん最低限の本陣の守備は残してある。かつてレイズ様に指摘されたことだ。
ラピリア隊は北側、第五騎士団と相対するように進む。
双子とロア隊は南側、第七騎士団とぶつかる流れだ。
双子とロア隊は全て騎兵のため、機動力における親和性は高い。月に燕の旗が、双子の旗と共に第七騎士団目指して疾駆して行く。
最初に激突したのはグランツ隊と第六騎士団。ここは予定調和。両側の各騎士団は速度を抑えて新兵を待っていた。
両軍ともに新兵は長柄槍持ちだ。それぞれ射程圏内に入ると一斉に槍を振り下ろし始める。バチバチと槍同士がぶつかる音とともに悲鳴が聞こえる。頭に直撃してのたうつ姿も見えた。槍に刃先はなく、兜をしているとはいえ、あれは痛そうだ。
幾度かの叩き合いの後、少しずつ振り下ろされる長柄槍の数がまばらになってゆく。振り下ろすという作業は単純ながら、体力を使う。そうして徐々に押され始めたのはグランツ隊の新兵の方。
それはそうだ。新兵の数が違う。東軍に配備された新兵は1600。対してこちらは800。倍の差は大きい。
ここから中央は乱戦になることを予想していたけれど、少し面白いことが起こった。
グランツ隊に組み込まれていた新兵の中から20名ほどが、第六騎士団の新兵の振り下ろしの間隙を縫って突撃を開始したのである。
慌てて突出した兵士を叩こうとする第六騎士団の新兵だったけれど、疲労から厚みのある攻撃にはならない。長柄槍の攻撃は、まとまった振り下ろしにおいて真価を発揮する。
飛び出した新兵の中で、数名は第六騎士団の抵抗ではね除けられたけれど、攻撃を避けた兵士たちがそのまま第六騎士団にたどり着いた。
抜け出した新兵たちは長柄槍を振り上げるのではなく、水平に保ったまま第六騎士団に突き入る。
、、、、なるほど、長柄槍の長さを活かした突撃か。人数が少ないから大きな効果は得られていないけれど、これもある程度まとまった数なら面白いかもしれない。
僕は本陣から突撃した新兵を見ながら感心する。隣で同じ場面を見ていたウィックハルトも「面白い使い方ですね」と興味深そうに口にしていた。
けれど残念ながら、如何せん少数だ。突撃した一瞬はうまくいったけれど、早々に第六騎士団の波に飲まれて見えなくなった。
ただ、後で突撃した兵士の名前を聞こう、そう思えるような戦い方ではあった。
新兵同士の戦いにひと段落つき、グランツ隊と第六騎士団が本格的にぶつかり合う。こうなれば中央はしばらく一進一退の状況になるはずだ。
戦いは次の段階へ。
勝負を決めるのは南北に展開する部隊次第。
僕らにとって、今回の戦いの鍵になるのは南に進軍した双子とロア隊の連合部隊。ラピリア隊は第五騎士団を留めてくれれば良い。
こうして演習は佳境へ入っていったのである。




