【第134話】王家の儀式③ 不安な騎士団長
デンタクルスと僕のやりとりについて、ゼランド王子の口からゼウラシア王やレイズ様に説明した結果、僕はお咎めなしとなった。
何事もなかったかのように人ごみへ消えてゆくゼウラシア王やレイズ様。一人残ったラピリア様が僕に近づいてきて、僕の額を指で弾いた。
「痛いですよ、ラピリア様」
僕が抗議すると、ラピリア様は豪奢な宴衣装を身に纏っているのに、足を広げて片手を腰に当てたまま僕を睨む。
「王は何も仰らなかったけど、、ちょっとやりすぎよ。アンタ、後ろからデンタクルスに刺されても文句言えないわよ?」
そのようにいうラピリア様。僕に反論の余地はない。少なからず僕も言いすぎたとは思っていた。ただ、それでも。
「ゼランド王子にあの態度は許せませんよ。なので、言いすぎたとは思っていません」と少しだけ強がって見せる。
主な目的はルファとはいえ、ゼランド王子はちょくちょく僕の部屋に遊びにくる友人の一人だ。あのような物言いでゼランド王子を傷つけることは許さない。
「ロア殿、、、」ゼランド王子が僕を感動の眼差しで見つめてくる。王子は王子なので立場的には雲の上だけれど、僕としてはなんとなく懐いている弟のような気分で扱っているところがある。
「それは分かるけど、、、、というか、ロア、アンタよくあのべローザ家の馬鹿息子に、あれだけ堂々と啖呵切ったわね。その辺の貴族でもべローザ家相手なら躊躇するわよ?」
そんなこと言われても、レイズ様やザックハート様をはじめ、”本物”をさんざん見てきた後に、あの程度の小物に威圧されてもなぁ。
とはいえ、そのまま口にするのも憚られたので「そうですかね?」とだけ答えておく。
すると、ラピリア様は怒り顔を解いて微笑んだ。
「ま、べローザ家相手に一歩も引かなかったのは、なかなかカッコいいじゃない。見直したわ」
宴衣装を纏ったラピリア様がそんな風に笑うとすごく魅力的で、僕は密かにどきりとするのだった。
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僕とデンタクルスのやりとりは、その場にいたほぼ全員が目撃することになった。なので第九騎士団から僕は敵視されたかなと思ったけれど、案外そうでもなかった。
騒動の後程なくして、デンタクルスが数十人の取り巻きを連れて早々に退出すると、なんだか僕に対する好意的な視線が増えた気がしたのだ。
現にデンタクルスが退出した後、ポツリポツリと第九騎士団の兵士が僕に挨拶をしてきたのである。誰も彼もみなまでは言わないが、言外に「よくぞ言ってくれた」という雰囲気を醸し出している。あれが部隊長では、色々鬱憤が溜まっているんだろうなぁ。
中でも印象的だったのは、デンタクルスと同じ部隊長のグリーズさんだ。
グリーズさんは第九騎士団の中でも数少ない、貴族ではない部隊長。つまり部隊長として相応の実力を兼ね備えた人物ということだ。
ほとんど活躍の記録のない第九騎士団の部隊長なので、申し訳ないけれどよく知らない。ただ、デンタクルスがいなくなって早々に僕に近づいてくると、開口一番「うちの愚か者が申し訳ない」と言いながら頭を下げてきた。
ラピリア様の言葉を借りれば、べローザ家というのはかなりの家柄だ。そこの子息を悪し様に言うのは、他の部隊に所属する僕よりも不味い気がするのだけど、グリーズさんは全く気にしていなかった。そして、残っていた第九騎士団の兵も、誰一人としてグリーズさんを咎めようとしない。
これはあれかな? 第九騎士団の今回の実質的な指揮官はグリーズさんなのかな?
ただ、さすがに表立った所ではデンタクルスが指揮を取るだろう。もしもデンタクルス達が何か企んでいるとしたら、どこまでの人が知っているのだろうか?
グリーズさんの僕への対応が演技なら、大したものだけど、、、、
そんなわけで、出発の宴はちょっとした波乱もありつつも、幕を下ろしたのである。
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翌朝、予定通り出立した僕ら。
道中、デンタクルスが「王子の護衛は俺たちを中心にしろ」とでも言ってくるかと思ったのだけど、意外に大人しいというか、むしろ王子や第10騎士団からは少し離れて後からついてきている。
正直大人しすぎて逆に怪しい。
「それにしても、王家の儀式なのに第九騎士団の騎士団長は来ないんだね」
単純に疑問を口にする僕に答えてくれたのはネルフィア。
「ヒューメット様はご高齢でいらっしゃるので」
それは騎士団長としてどうかと思う。噂通り、当時の反対勢力の受け皿として用意された騎士団なのかもしれない。それなら騎士団長はお飾りなのかな?
ちなみに今回、ネルフィアに加えてサザビーも従軍している。
サザビーは僕の部下として、ネルフィアは王の書記官として参加しているらしい。僕には違いがわからないけれど、それぞれ役割が異なるそうだ。
「ヒューメット様は動くのも困難なの?」
「いえ、そこまでではないのですが、最近はあまり表に出たり、部下に口出しをされないようですね」
「、、、、それは大丈夫なの?」
「、、、どうでしょう?」
ネルフィアの言葉から第九騎士団の行く末に不安を覚えながら、僕らは粛々と歩みを進めるのだった。




