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【第116話】帝国騒動③ 王の判断


 ダスさんの持ち込んだ話。それは流石に王といえど独断すべき内容ではなかった。そのため日を改めて王都に在する主だった者を集めて話し合いが行われたのである。


 いつもの謁見の場ではなく、ひときわ厳粛な一室へと通された僕ら。そこには一見しただけで高そうな椅子があり、そこに8人の人間が座っている。


 正面中央にゼウラシア王が鎮座し、そのすぐ右には第一騎士団長、ルシファル=ベラス。左の空いていた席には僕と一緒に入ってきたレイズ様が座った。


 なお、王の背後にはネルフィアが目立たぬように静かに佇んでいる。


 僕とダスさんは入口付近に立ったままだ。レイズ様が座ったのを確認すると、ゼウラシア王が口を開く。


「ダス殿には少々礼を失する形になって申し訳ないが、事が事だ。しばし立ったままで御勘弁願いたい。レイズから話は聞いているが、もう一度この場で説明を願えるだろうか?」


「無論でございます」


 右手を胸に、左手を開いてゼウラシア王に礼をするダスさん。大仰にも見える仕草は、やっぱり外交官よりも商人を思わせる。


 咳払いをしたダスさんは、先日僕らに話してくれた内容を淡々と説明する。一度話したことによって、より理路整然としており、隣で聞いている僕にもより分かりやすくなっていた。


「、、、、、、というわけで、僭越ながら私が帝国の使者の真似事をさせていただいている次第でございます」


 ダスさんが話し終えると室内を沈黙が包む。


「、、、、さて、何か意見のある者はいるか? 、、、、いや、今回は先に私の気持ちを話しておこう。私はこの話、受けても良いと思っている。だが、反対意見に頷けるところがあれば、翻すことはやぶさかではない」


 ゼウラシア王の言葉を聞いても、しばし誰からも意見は飛び出さない。


 ルシファルに先入観のある僕は、ついルシファルあたりから反対意見が出るのではと思ってしまうけれど、そのルシファルも難しい顔をしたままだ。


 そのうち、椅子に座る一人が手を上げた。


 ルデクの外交官を束ねているサイファ様だ。


「、、、、個人の心情はともかく、王がおっしゃる通り受けるべきでしょうな。ただし、許可するかはその、第四皇子の対応による。というのが宜しいかと。先方があまり高圧的に出るのであれば、その時は断られることを進言いたします」


「うむ。サイファの言うことは尤もだ。私も帝国が最低限の礼を持って来るのであれば、という前提に成り立った話だと思っておる。無礼を働くのであれば論外であろう」


「そのようにお考えであれば、私は何も言うことはありませぬ」


「了解した。他に何かあるか?」


 再びの王の問いかけに、みんな渋々ではあるが、話くらいは聞いても良いと言うスタンスの発言が少しずつ上がってきた。


 現状を考えれば、しばらくは帝国とは無理をしたくない。これはルデクの首脳部の共通認識と考えて良さそうだ。



「よし、では、一度会おう」


 ゼウラシア王が決断。僕の隣でダスさんが密かに安堵のため息を吐いた。ダスさんからすれば自国の姫にも関わる話だ。どんな結論がでるか気が気ではなかっただろうな。



「それでは、どのような段取りで?」ルシファルの問いに、王は僕に視線を向ける。


「ロアよ、元はお前の手紙でこの話が持ち上がったと言うことだったな?」


「いえ、僕の手紙が、と言う訳ではなく、たまたま機会が合致しただけですが、、、」


「しかし、漂流船の騒動で、第四皇子の妻より気に入られているのは事実か?」


「、、、恐らくは」


「どうだ? ダス殿?」


「そうですな。ルルリア様が北の大陸で信頼を置いている数少ない人物であると」


 ダスさんの言葉を聞いて、ゼウラシア王は満足げに頷く。


「ならば、ロア隊がヨーロース回廊まで迎えに行け。異論はあるか?」


 誰からも発言はない。


「宜しい。ではダス殿、何度もすまぬが、もう一度帝国にゆき日程を調整してほしい。こちらの提示できる日取りに関しては後ほど書記官より案内させていただく。ネルフィア、良いな?」


「承りました」


「よし。では本日はここまでとする! 皆のもの、ご苦労であった!」



 こうして帝国の第四皇子がルデク王都に使者としてやって来るという、前代未聞の事態が本格的に動き始めたのである。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ロア隊だけでは人数的に不安だ。もう数部隊連れてゆけ」


 ダスさんの尽力によって日程も決まり、ついに出迎えにゆくことになった頃、レイズ様がそんな風に言った。


 気持ちはわかる。僕は信じているけれど、万が一帝国の罠だった場合2000程度の部隊では心許ない、そう言いたいのだろう。


 その横ではラピリア様が「私を連れて行きなさいよ」と言う視線を僕に向けてくる。確かにラピリア様がついてきてくれるのなら安心だけど。何か目的があるのだろうか? いや、ひとつ思い当たらなくもない。


 、、、、まあいいか。


「それならラピリア様に手伝っていただいても良いですか?」


「、、、よかろう。ラピリア、どうだ?」


「レイズ様のご命令でしたら」



 と言う訳で、ロア隊以外にラピリア隊を加えて出発することになった。




 そして出発当日。




 案の定、ラピリア様の馬の背には、ルファがちょこんと座っていたのである。




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― 新着の感想 ―
[良い点] この小説、所々に可愛い場面がピンポイントにあるな(^◇^)
[一言] ラピリア様が一緒なら一安心……! と思ってたら、ルファもいたー!
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