【第111話】ホグベック領⑥ 双子から目を離してはいけません。
「ああ、来たか。まずは今年もよろしく、だな」
トール様に出迎えられた僕らは、ひとまず新年の挨拶を交わすと、そのまま昼食を共にすることになった。
トール様は、第四騎士団長のボルドラス様同様に、中央やゼッタ平原の話を聞きたがった。やはり砦に籠っていると情報が入って来にくいと言うのは共通の悩みのようだ。
現に第一騎士団とリフレアの謀略が成功した時も、各騎士団は状況を把握することができないままに、各個撃破されている。
僕らはしばらくトール様への情報提供に専念する。トール様が概ね満足したところで今度はこちらが質問する番だ。
「先日のハクシャで会ったときは、何をされていたんですか?」
僕の言葉にトール様は少し困った顔をする。
「先日思わせぶりのことを言っておいてすまないのだが、実は今は話せないのだ」
「何かあったんですか?」
「実はな、あの時ゴルベルに潜入している密偵から、急な知らせがあったのだ。あれは密偵から報告書を受け取った後だったと言うわけだ。せっかく来たから祈りを捧げておこうと思ったら、貴殿らがいた、と」
「はい」
「ところが、戻って来てからその報告を確認したのだが、内容が私では判断つきかねる物であったのだ。そのため王都へ伺いの使者を立てた。ゆえに、返答があるまで私も安易に口にするわけにはいかない、そう言うわけだ。すまないな」
「なるほど、気になるけれどそれは仕方ないですね」
「ああ。どうしても気になるようなら、王都に戻った時にレイズ殿にでも聞いてくれ。あの御仁の耳には入っているはずだから、問題なければ話してくれるだろう」
「分かりました。そうします」
その後、リーゼ周辺のゴルベル軍の動きも聞いてみるも、第六騎士団と交代してからは、拍子抜けするほど静かだったらしい。
ゴルベルはゼッタ平原に兵力を集中させていたから、大方予想通りの答えだ。
「そんなわけで、せっかく来てもらったのに大した土産話はないのだ。こちらに足を運ぶ必要はないと伝えようと思ったら、ラピリアが変わった娘を連れてやって来たので、知らせる機会を失ってしまったが」
「その辺りはお気になさらず。どの道ユイメイがリーゼの砦を見たいと言っていたので、立ち寄らせてもらう予定でしたから」
「そうだ、そちらが第四騎士団の双子騎士か。噂には聞いていたが」
トール様が双子に視線を向けると、双子は待ってましたとばかりに口を開く。
「どうも」
「ちょっと勝負しましょう」
と、いきなりとんでもないことを言い始めた。
「ええ、何言っているの!?」僕が驚いている横で、ウィックハルトは「なるほど、それが目的でしたか」と納得し、フレインは「まぁ、そんなところだろうとは思っていた」と言う。
いや、トール様がルデクでも有数の槍使い。それも槍の両側に刃がついている珍しい武器、双頭槍の使い手なのは知っているよ? 有名な話だから。
けれど、いくらトール様が使い手だとしても、流石に突然そんなことを言い出すとは思わなかった。今回の休暇中、双子は思いのほか大人しかったから完全に気を抜いていた。大丈夫かな、これ!?
けれど僕の心配をよそに、トール様は不敵に双子を値踏みし始める。
「ほお、確か、貴殿らはモーニングスター使いだったな? モーニングスターの使い手と戦ったことはないから、興味はある、、、、が」
「なんだ、そこまで言って臆するのか?」
「興醒めだな」
言葉を止めたトール様に対して挑発する双子。トール様は激することもなく「いや、貴重な第四騎士団の騎士に怪我をさせるのもどうかと思うのでな」と挑発で返す。本当にやめてほしい。
そうだ、ラピリア様ならと視線を走らせるも、ラピリア様は止める様子も見せずやりとりを見つめていた。ちょっとぼんやりしている気がするけれど、、、、もしかして、眠たいのか?
ラピリア様の真意はわからないが、止めないと、と「あの!」と声をかけようとしたけれど、時すでに遅し。
「流石に双頭槍でお相手するわけにはいかないからな、代わりに二人一緒に相手をしてやろう。君らは二人で動いて初めて実力を示すのだろう? それでどうかな?」
「面白いことを言う」
「ならこちらは槍で相手をしてやろう。そういえばトール殿は槍が得意だったっけな?」
バチっと火花が散ったかと思うと、3人揃って「はははははは」と笑う。目が笑ってなくて怖いよ!
そうして僕が止める間もなく、あれよあれよと言う間に訓練場へと場所が移されてゆく。
砦に残っていた第七騎士団の将兵達も、騒ぎを聞きつけてなんだなんだと集まってくる。
しかも季節柄、非番の兵士は既にお酒が入っている者も少なくなかったため、3人を囃し立て始めた。
そこへ商機と見た砦内の食堂の親父が酒とつまみを持ち出して売り始め、将の一人が賭けを始めてお金が飛び交い始めると、ちょっとしたお祭りのようになってきた。
この時期だから許される。というか、この時期以外は絶対に許されない馬鹿騒ぎの中、観客の中央にはトール様とユイメイが訓練用の刃のない槍を持って構え、纏った空気が変わる。
互いが臨戦体勢に入ると、なぜか審判役を買って出たフレインが「では、始め!!」と声をあげ、一際大きな歓声が上がり、戦いが始まった。
そんな騒ぎの中、僕の隣でラピリア様はスピスピと寝ていた。




