【第106話】ホグベック領① もう一人の同行者
奇人と、変人を引き合わせたらとんでもない事が起こるのでは、という懸念は果たして、取り越し苦労であった、、、、今のところは。
と言うのも組み立て式の長柄槍によって、ドリューがいよいよ”螺旋”という新しいおもちゃに夢中になっており、あまり双子を相手にしていないのが大きい。
一方の双子の方は、変わり者同士何か思うところがあるのか、こう、例えるなら野生動物が縄張りを主張するように、ドリューの回りをぐるぐると回って警戒する動きを見せた。
ともあれ少々変わった組み合わせで、僕らはウィックハルトの実家へと出発する。
「、、、、それで、ラピリア様はなんでいるんですか?」
「何? 文句でもあるの?」
「いや、全然ないですけど、実家に帰りたがらない事情は前に聞きましたが、流石に年末まで帰らなくていいんですか?」
ラピリア様は縁談の話を煩わしがり、あまり実家に帰りたがらない。親族が集まるこの時期は余計だろう。実際にフレインもそれで帰らない訳だし。けれどフレインは親族が集まる時期を避けているだけで、普段普通に帰省している。
「近しい人たちにはもう顔を見せてきたわよ」
ラピリア様は一足先にお休みをもらって、密かに帰省していたらしい。曰く、その年によって帰省タイミングをずらすことで親族の手をかわしているのだそうだ。そのため毎年ラピリア様と親族の間で壮絶な心理戦が繰り広げられている、と。
「だから私は遊びに行くんじゃなくて、仕事なの。貴方達のお目付役と、周辺の視察ね」
「お目付役ですか?」
「ええ。もし双子が暴走したら、ロア、アンタじゃ止められないでしょ?」
「まあ。それは確かに」
現実問題としてラピリア様が言った事は大変助かる。
普段気安く接しているとはいえ、僕を含めて、ウィックハルトやフレインも別の騎士団の双子には遠慮がある。何かあった時に、強く出るのは難しいかもとは思っていたのだ。
ラピリア様、そういうの気にせずガツンと言いそうだもんな。
「アンタなんか今、失礼なこと考えなかった?」馬上から器用に僕の足を蹴ってくるラピリア様。
まぁ、そんなわけでウィックハルトの実家にお邪魔するのは、僕、フレイン、ユイメイの双子、ドリュー、ラピリア様の面子となったのである。
僕らは海沿いの街道を進む。ゼッタ平原ではしっかりと雪が積もっている頃だろうけれど、大陸でも一番南に位置するこの辺りはほとんど雪も降らない。
ただ、海風は十分に寒い。しっかりと着込んだモコモコの一団は、それほど急ぎもせずに歩を進めてゆく。
数日変わりゆく景色を楽しんでいると、僕はふと、既視感に見舞われ首を傾げた。
「、、、、この辺、なんか見た事があるような、、」心なしかアロウの足取りも軽く感じる。
「ウィックハルト、もしかしてお前の実家はハウワースの牧場の近くなのか?」フレインの言葉に僕は納得。そうか、あの牧場に向かうときに通った道だ。
「あ、ハウワースの牧場に行った事があるんですか?」
「行った事があるも何も、、、ロアの馬はそこで求めたんだぞ?」
「そうだったんですか。それはありがとうございます」
「ありがとうございます?」
「ええ。ハウワースは私の実家、ホグベック領内の牧場なので」
ウィックハルトの説明に、なんとも奇妙な縁を感じつつも、僕らはホグベック領に到着したのだった。
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「ああ、ウィックハルト! よくぞ無事で」
到着早々に両親からハグで迎えられるウィックハルト。
事情は事前に手紙で知らせてあるとはいえ、騎士団長を降ろされて、第10騎士団預かりとなり、さらに第10騎士団は先日のゼッタ平原で激戦を繰り広げたと聞けば、ご両親としても気が気ではなかっただろう。
再会をしばし暖かく見守る僕ら。双子も流石に空気を読んで大人しくしている。
「父さん、母さん、話は後で、それよりもお客さまを中へ、寒いからね」
「ああ、そうだったな。お待たせしてしまいすみません。中へどうぞ。滞在中は自宅と思ってお寛ぎください」
「分かった!」
「ただいま!」
順応性が高すぎるだろ、双子。
逆にドリューはというと、今日もブツブツ言いながら意識は遠くに行っている。たまに僕がルファに怒られる時はこんな感じなんだろうか。確かに騎乗中にこれは危ない。気をつけよう。
「良いお家ですね」
「ラピリア様ですね? 貴方様のような大貴族の邸宅からすればお恥ずかしい大きさですが」
「とんでもない。大きければ良いという物ではありませんわ。今は冬なので残念ですが、お庭もよく手入れされているみたいですし、素敵です。こちらは奥様が?」
「ええ、流石ラピリア様ですわね。今度は暖かい時にいらして頂きたいわ」
「是非、お招きくださいませ」
ラピリア様はウィックハルトのお母さんとちゃんと貴族っぽい会話をしている。貴族っぽいこともできるんだな。その向こうではフレインがウィックハルトのお父さんと談笑していた。
「さあ、皆さん、中へ!」ウィックハルトの言葉に促されて邸宅へ。
中では2人の女性が暖炉の前でおしゃべりをしていた。
「オーパ! 来ていたのか」
「ええ。ウィックハルト様。せっかくのご両親との再会を邪魔してはと思い、こちらでお待ちしておりました」
そんな風に言うたおやかな女性。ウィックハルトが手をとるとゆっくりと立ち上がって、こちらへ頭を下げる。サラサラな長い髪が頬を伝って流れた。
「ロア殿、皆さん、ご紹介します。私の婚約者、オーパです」
婚約者。。。。ウィックハルトは普段、色々と僕らに説明が足りないんじゃないかな、と僕は思った。




