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【第96話】ゼッタの大戦11 2日目 毒

時間が前後して少し分かりにくくてすみません。

 時間は少し遡り、攻防戦2日目の朝の軍義。


「仲違いをさせる? ローデライトと、ゼーガベインを? どうやって?」


 僕が提案した策に対する最初の反応だ。


「こちらから内通者を用意します。その内通者からローデライトがルデクに通じていると、ゼーガベインに伝えてもらうんです」


「口で言うのは簡単だが、、、、」ある部隊長が言外に机上の空論であると告げるも、「まあ、待て。最後まで聞こう」ボルドラス様の言葉で、場が少しだけ真剣な空気になる。


 僕は全員の顔を見渡してから、「まず大前提ですが、ローデライトとゼーガベインは仲が良いと思いますか?」と聞いた。


 みんな怪訝な顔のまま返事がない。僕は続ける。


「言い方を変えましょう。例えばですが、今回の戦いで第10騎士団が最後に美味しいところだけかっさらったり、王都で「第10騎士団の活躍で勝った」と喧伝された時、あなた方はどう思いますか?」


 これで僕の言いたいことは伝わった。


 ローデライトという将は一言で言えば”宣伝上手”なのだ。もちろん戦も上手いのだろう、けれど、後世あれだけ意見が分かれるということは、民衆以外からの評判が芳しくないのが要因だろう。


 現にレイズ様にせよ、ホックさんにせよ、ボルドラス様にせよ、ローデライトの将としての評価は微妙なところがある。特に戦略や大局観に難があるようだ。


 とすれば、まるで常勝将軍のように振る舞っているが、その陰で割を食っている武将や部隊があってもおかしくない。


 今回の戦いでもゼーガベインが大将であるはずなのに、ローデライトは指示を無視したのは間違いない。そうでなければ、初日の戦い方に説明がつかないのだ。


 初日、ローデライトは東門を請け負ったにも関わらず、ほぼ攻めることなく静観して夜襲に備えた。


 これが最初から夜襲ありきでの戦略であれば、ローデライトを温存しておけば良いのだ。結果的に夜襲は効果を発揮しただけに、方針を変えたようだけど、ゼーガベインが苦虫を噛み潰した場面は想像できる。


 ローデライトとゼーガベイン、というよりも、ローデライトとその他の将とでは温度差があるのではないか。ならば、そこをつけばどうか、というのが基本的な考えだ。


「しかし、仮に貴殿の言う通りローデライトが嫌われていたとしても、こちらが用意する内通者の言葉を、ゼーガベインがそう簡単に信じるとは思えぬが?」ボルドラス様の言葉に、他の将も頷く。


「ある程度の立場の者でないとダメでしょうね。実情はともかく、現状に大きな不満があり、かつ、影響力があると相手に思わせる人物」


「そんな者がいるか?」顔を合わせながらざわつく将官。


 一人、いるのだ。


 笑ってしまうほどに適任者が一人。ただ、この策、ローデライトとゼーガベインが不仲である。少なくともゼーガベインはローデライトを快く思っていないと言う前提に成り立っている。


 僕は未来に見た評価も踏まえて、ある程度可能性は高いと踏んでいるけれど、では、ローデライトとゼーガベインは不仲であったと言う記述を見たかといえば、答えは見ていない、だ。


 つまり前提が崩れた場合、内通者役はその場で拘束されて斬られる恐れすらある。


 だから僕はギリギリまで迷っていたのだ。




「なるほど、、、私の役割という訳ですね」



 穏やかな表情で僕を見つめるウィックハルト。


 対外的に見れば第六騎士団長を追われ、第10騎士団でもレイズ様の側近どころか名も知らぬ将の下に置かれている蒼弓。


 僕がゴルベルの将で調略をかけるなら、まず真っ先にウィックハルトを候補に上げるだろう。


「、、、、、僕の見立てが間違っていなければ、だけど。外れていたらなすすべもなく殺されるかもしれないよ?」


「かもしれませんが、どの道このままでは砦ごと全滅の可能性が高いのでしょう? どうせ死ぬなら我が弓を捧げた主人の命で」


 僕が周囲を見渡せば、他の将官は固唾を呑んで僕らのやりとりを見守っている。



 一瞬、ライマルさんの顔が頭をよぎった。


 胸が少し苦しくなる。



 僕はまた、同じような失敗をするかもしれない。



 けど。



「頼む。ウィックハルト。ゼーガベインを調略してくれ。君の肩に僕らの運命を託すよ」


「はっ!!」



 こうして僕の策は静かに動き始めたのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 攻防戦2日目の夜、ゴルベルの本陣。


「、、、、、なるほど、貴殿が不遇をかこっているのは私の耳にも届いておる。しかし、そう簡単に信用するわけにはいかぬな」



 ゼーガベインの陣幕の中、ウィックハルトは首に刃を当てられたまま穏やかに座っている。


「ゼーガベイン様の懸念はもっともです。私も手土産なしで降ろうとは思っておりません」


「ほう? では何を用意するのだ」


「明日、、、、いえ、明後日までに西門を内側から開けて見せましょう」


「明後日? 明日では無理か?」


「そうですね。確実を期するのであればやはり明後日。明後日ならば砦の中の兵士の疲労も極限でしょう。そこを私と志を共にしている兵で」


 そこで少しゼーガベインは難色を示す。


「しかし、明日にもキツァルの砦は陥落するかもしれぬ。その時になって勝ち馬に乗られても困る」


「その時は私に武運なしと判じ、せめて砦の兵士の首を一つでもあげて忠誠を見せるしかありません」


 何かを覚悟したような、涼やかにも感じるウィックハルトの顔を見ながら、ゼーガベインは考える。


 罠の可能性は十分にある。だが、罠だった場合にゴルベルが被る被害は何か?


 明後日、仮に西門が開かなかった場合、、、、、正直に言えば、こちらはそこまで困らないように思う。明日の攻勢でも押し切れる可能性もあったし、このまま4日目となればこちらの勝利は揺るぎないと感じている。


 しかし、ウィックハルトが西門を開けるのであれば、預かっている兵士をより温存できるのではないか? しかもだ、あの蒼弓を降すという結果は悪くない。


 罠であったとしても、予定通りの攻めで勝つ。ならば問題ない。


 保険として試してみても良いかもしれんな。信用は全くできぬが。


 ゼーガベインがそのように判じ「では、逐次砦内部の状況を報告するように」と言い、ウィックハルトを刃先から解放する。


「畏まりました。それから、恐れ多い話ですのであくまでここだけの話にしていただきたいのですが、、、、」


 その場にとどまり、何やら言い淀むウィックハルトに「なんだ? 早く言え」と命じるゼーガベイン。


「ローデライト様のことで、少々、、、、」





 毒は静かに、垂らされた。





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― 新着の感想 ―
[一言] ライマルさんがスパイダーマンの叔父さんのように主人公の心に響く言葉でも残してたらよかったなぁ 書籍版に期待っ!
[一言] じわじわと染み渡る毒、こういうのが一番怖いんですよね。 やはり情報戦は大事!
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