99
「遅れてすみません! ちょっと手間取ってしまって……」
やってきたのは、犬の獣人の人。確か……ヴォッドさんだ。遅くまで残ってしまったときに、わたしを引き留めた人。獣人に戻ってから謝罪と自己紹介をしてくれたので、覚えている。
彼に言われて周りを見れば、逃げようとしている人が押しあっているのが見えた。スカートにボリュームを持たせている令嬢が多いから、普通の場合に比べて面積を取る。皆が皆、パニックになっているから、ここまで来るのに人混みをかきわけて来ないと行けなかったんだろう。
無理に押しやれば、誰かが倒れて、そのまま次々に……となりそうなことを考えると、強引に押しのけられなかったに違いない。
「これ、副団長ですよね」
その問いに、わたしはうなずく。
獣化は大体二か月に一度、と言っていたけれど、個人差があると言っていたし、このアルディさんと出会ったのは、一か月半と少し前。若干周期が早いと考えれば、そこまでおかしな話ではないだろう。
「今日の剣術大会は大丈夫だと思ったんですが――あ、オルテシア様、すみませんが制服を持って第二騎士団の方へ……」
「ぐるる」
アルディさんが抗議するように、うなった。ぐい、と制服を強く引っ張る。
制服破れないだろうか、と思っていると、ヴォッドさんがアルディさんを見て、「あっ」と声を上げた。
「すみません、制服は自分が持ちます! パン……いや、した――え、ええっと……そう、オルテシア様は貴族令嬢ですから! うちで働いていたものですから、部下に命令するようなことをしてしまって……申し訳ないです」
すごく目線が泳いでいる謝罪をされた。取ってつくろったような言い訳にしか聞こえない。
とはいえ、別にわたしがどうしても運びたいわけじゃないし、アルディさんの代わりにこの人が持って行ってくれるなら、重い制服を引きずるようなこともないだろうし。
わたしが持っていた制服をヴォッドさんに渡すと、アルディさんはパッと制服から口を放す。ヴォッドさんは残りの制服を、ひょいひょいと軽々拾っていく。
「がう」
たし、と、アルディさんが前脚でヴォッドさんの脚を触った。視線が一瞬、ビュッフェの料理が並べられたテーブルに向かう。……少しは落ち着きを取り戻したのかな。
「ああ、そうですね」
そのやりとりでアルディさんの言いたいことが分かったらしい。この人も獣人だからか、すぐに意図をくめるのかもしれないが、こんな一瞬で分かり合えるのはちょっと悔しい気持ちがある。
わたしだって慣れればそのうちすぐわかるようになるだろうか、という。
「この騒ぎでは昼食を取るのは難しいでしょう。副団長なしで大会を続けるのか、中止にしてしまうのかまだ分からないですし、団員と同じものでよろしければ用意できます」
わたしはその提案をありがたく受け入れることにした。第二騎士団の食堂の料理は慣れているし。
「では、すみませんが第二騎士団の方へ――」
ヴォッドさんの言葉に、わたしは彼の後へとついていく。
ちなみに、サギスさんは、嫌そうな顔を見せたが、職務を優先するらしい。彼もまた、ついてきてくれたのだった。




