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初めてアルディさんと出会った日や、先日外へと助けを呼びに行く際にアルディさんが使ったあの檻の抜け穴は、ずっと昔からあるのだと、ヴォッドさんが教えてくれた。わたしも医務室に運ばれて、足の手当をしてもらったのだが、気になって聞いてしまったのだ。
ずっと昔――獣人差別が露骨だった時代。騎士団、といえば、王族の護衛をする者の呼び方で、第一も第二もなかった頃。その頃、獣人は奴隷のように売買されていて、今は獣化した際いる場所になっているあの檻に住まわされていたのだという。獣化した際だけでなく、人に似た姿を持ったままでも。
そして、使い捨てのように、戦闘力として使われていた獣人たちが、逃げ出そうとして、作ったあの穴がその穴らしい。
王が変わって、獣人の待遇の改善をはかるようになってからは、一度、あの穴は塞がれてしまったようだが。獣人を檻から解放した際に、流石に見つかった、という話が残っているようだ。
でも、その後、再び、別の獣人が獣化した際に壊れたらしい。なんでも、一部分だけの修理だっただけに、思ったよりも脆かったそうだ。
しかし、ここから抜け出したのがバレて、また前のような扱いに戻っては困る、と、全員一致で穴のことは誰にも言わないことに決めた、らしい。
ここまでの話を、獣化して初めてあの檻に入ると、この話を知っている先輩から、教えられるそうだ。
あの穴を使っていいのは、ちょっと息抜きに外へ出るときか、同じ獣人を呼びに行くときだけ。極力、穴のことを知らない人間にはバレないように、バレたときは、鍵の閉め忘れだと誤魔化すように。
というルールと一緒に。
「オルテシア様は、我々の仲間の命を救い、助けてくれた恩人です。こっそり教えましたが、他の貴族には内緒にしてくださいね」
と、小声で言われたときには、なんだか自分が本当に第二騎士団の仲間だと認められたような気になって、嬉しかった。
アルディさんがブラシをくわえて抜け出した日は、久々に人間の団員がブラッシングをしてくれる、という話になっていたのに、なかなかこないものだから、誰かが呼びに行こう、ということになり、アルディさんが選ばれたそうだ。あの日、檻の中には、穴の話を教えてくれた彼もいたらしい。
まあ、途中で迷ってわたしに出会い、彼一人が手厚くブラッシングしてもらったのは、かなり仲間内で文句を言われたそうだが。そんなタイミングで、わたしのブラッシングの話をするなって、アルディさんもなかなかいい性格をしている。
あの日、アルディさんと出会って、こんなにもわたしの人生が変わったなんて、何か少し、運命めいたものを感じてしまう。運命の人、というと、ちょっと夢見すぎな感じもするけれど、前世を思い出す、なんて不思議な出来事に比べたら、偶然を運命に見立てることくらい、普通だとは思う。




