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獣人、といっても、なにも、人間の耳がなくて動物の耳になっていて、しっぽがついているだけ、というわけではない。見た目は人間に近いが、獣化するという性質を持っている、全く別の生き物。
人間と獣人の間に子供はできるものの、獣人と人間の特徴が混ざった例――たとえば、耳は人間でもしっぽがついている、とか、しっぽだけがない、とか、見た目は人間なのに獣化する、とか、そういう体質の子供が生まれたことは一度としてない。人間が生まれるか、獣人が生まれるかは運でしかないが、その特徴はハッキリと分かれているのだ。
それなのに、薬一つでどうにかなるの……?
「可能か不可能かで言えば、可能だ。事実、人間になった獣人はいる。……ブロデンド子爵領の、領経営孤児院が潰れただろう。あそこの子供の半数が、元は獣人だったはずだ」
「――!」
孤児院が潰れて、何人かが第二騎士団に入った、と、カインくんが言っていた。そのときは、領が直接経営している孤児院が潰れるなんて、大丈夫なのか、と思ったけれど、そんなことがあったなんて。
孤児院の半数が人間になった、ということは、孤児院の子供が実験台になっていた、ということだ。……なるほど、だから、王子はブロデンド子爵家の令嬢と婚約することになったのか。
領地直営である孤児院がそんなことになっているなら、子爵家の人間も、その薬の開発に関わっていたのだろう。だからこそ、その家のものと結婚させ、自らの手で駄目にした領地を立て直せ、ということか。
もしそれができなかったのなら、その後は――……。
――……ああ、そうか。
孤児院出身のたった一人の獣人の子が、獣化してあれだけ警戒心のかたまりになって暴れていたのは、もしかしたらそれが原因だったのだろうか。
周りにいた子らが、実験にまわされて、人間へと姿に変えられたのなら、次は自分かもしれない、と恐怖するのは当然のことである。
「リアン王子は、王子なりに、本気で王位を目指していたのですね」
獣人を人間にする薬。
そんなものができていたのなら、獣人の差別時代を知る、この国の重鎮たちを一気に味方へとつけることができる。
国王は獣人差別に反対していて、それを撤廃しようとしているが、その動きが出たのは今代の王になってから。
政治の中枢にいる重鎮たちは、獣人をよく思っていない。中には国王と同意見の者もいるが、過半数は獣人嫌い。未だに獣化した獣人たちがあんな檻に入れられていることがいい証拠である。
彼なりの考えがあったことは認めるが――かといって、同情できるかどうか、彼の行いを許容できるかどうかはまた別の話。というか、絶対に無理。
わたしに地味姫というあだ名つけて散々馬鹿にしてきたことは、謝罪の一つもなしに許せるものではない。謝られたところですんなり許せる気もしない。
それなのに、アルディさんたちを、本気で殺そうとしたことを、絶対に認めるわけにはいかない。いままで自分を支えてくれた第二騎士団の者たちを、命の危険にさらし、ましてや引退させることになるなんて。
上に立つものとして、絶対にやってはいけないことだ。




