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すでに伏せってしまったのかと、胃の底がきゅっと締め付けられる気分だった。
――でも、違う。
焦って、先ほどまでアルディさんがいたはずの檻の中を必死に探してみても、どこにもいない。
言い方は悪くなってしまうが、ルナトさんのように小柄なうさぎならまだしも、虎であるアルディさんの体格では隠れるような場所はないはずなのに。
「……お嬢様、残念ですが、鍵がないのであれば外に出ましょう。誰かを探したほうがまだ良い選択肢かと」
檻にすがるわたしを立たせようと、サギスさんがわたしの肩を叩く。
「ここを開けられないのなら、外へ助けを呼びに行く方が可能性はあります。急いで」
わたしは檻を名残惜しく見ながらも、サギスさんの言葉に従う。アルディさんの無事を確認したいけれど、今、わたしには何もできない。
サギスさんの言っていることが正しいと分かってはいるのだ。
でも、もしかしたら、助けを呼びに行っている間に、という不安が、どうしてもぬぐえない。
小動物であれば、十分持てばいい方。
動物と同じ姿をしている彼らにとって、命を奪う薬品がただよう場所で、無事でいてくれるかどうか。
王子の隣を通るとき、一瞬だけ迷う。出口へ向かう脚は止めなかったが。
「……王子のほうは、そのままでいいんでしょうか」
王位継承権を失う、とはいえ、それが公式に告知されるまではまぎれもない王子なので、床に寝かせたまま、というのはどうなんだろう。
それに、そうでなくとも、この人は皆を殺そうとしたのだ。一見眠っているように見えて、寝たふり、という可能性も全くないわけじゃない。薬を持って来たのは王子自身なのだし。
もし、わたしたちが出て行った後で起き上がって、檻を開けてとどめを刺すようなことをしたら……。
状況が状況だからか、どうしても悪い方にしか想像力が働かない。
「自分はお嬢様の護衛ですので。お嬢様が最優先です。そして、自分たちが無事に外へ出て、助けを呼びに行くのが、この状況の最善かと」
そう、同じ内容をわたしに繰り返し言い聞かせるサギスさんが獣化棟の扉を開ける。彼の動きに迷いはない。わたしを守る、という仕事のみを遂行しようとしているからだろう。一番大切なことが決まっているから、他のことが気になっても、一番大切なことに支障が出るならば手を引ける。
わたしの、一番大事なことは――やっぱり、アルディさんだ。
皆が死んでもいい、なんて、欠片も思っていないけれど――でも。
わたしは靴を脱ぐ。一応、素足ではないけれど、薄いストッキングなんてほぼ裸足みたいなものだ。
とはいえ、足の裏を怪我したところで顔のように目だつわけでもない。わたしがちょっと歩くのが大変になるだけ。
走りにくい靴なら、脱いでしまえばいいのだ。
「走って、助けを呼びに行きましょう」
わたしの言葉に、サギスさんは、ほんの少しためらう様子を見せたけれど、ただ、「靴をお持ちします」とだけ、言った。




