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逃亡先は、魔女のいない国でした -でも翠の瞳の聖騎士様に溺愛されてるから大丈夫です-  作者: 伊賀海栗
リサスレニスの協力者

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第63話 魔女は歴戦の勇に睨まれる


 空の旅にもすっかり慣れたレナートが眼下に揺れる軍旗を眺めながら口を開いた。


「国境だ」


「戦闘はしてないみたいね」


 ミアが進行方向を向いて尻尾を揺らす。

 テネリは国境に建つ砦の壁に使い魔として飛ばした鳩が留まっているのを見て、アレッシオが既に到着していることを確認した。


「アレッシオもいるね」


「では早速、今後について話をしようか」


 砦のてっぺんに空から降り立ったテネリたち一行を、誰もが声も出さずに迎えた。非難の声がない代わりに、歓迎の言葉もない。

 レナートが蔓薔薇でぐるぐる巻きにされたインヴィを抱えて歩き出し、テネリもその後に続く。向かうは砦の中の作戦本部だ。ミアは騎士たちの足元を駆け抜けて姿を消した。


「やあ、二人とも無事でよかった」


 本部にはアレッシオとソフィアの他、国内でも屈指の軍団長が数名机を囲んでいた。

 レナートがインヴィをその場に放り投げると、アレッシオの護衛として待機していた騎士が剣を構えて取り囲む。


「曇天の魔女です。詳細は事前にお知らせした通り、現在のところ脅威はありませんが喋ることもままなりません」


「石化してるんだっけ? 石化で思うように動けないうちは、魔法を用いて攻撃したり拘束を解いたりする可能性は低いって書いてあったね」


 うんうんと頷くアレッシオが手を上げると、騎士たちはインヴィを抱えてどこかへ行った。地下牢にでも連れて行くのだろうかと様子を窺っていたテネリに、アレッシオが声を掛ける。


「テネリ嬢、手紙にあった誓約の件だけどね。後でゆっくり話そう。先に今後のことを話し合わないと」


「承知いたしました」


 テネリは訝し気なレナートの視線に気づかないふりをして返事をすると、用意された席に座って話し合いが始まるのを待った。


 作戦本部には聖王派の人間しか集まっておらず、話し合いはスムーズに進んだ。

 残念ながら1日だけとはいえ戦闘行為が発生し、両国にいくらかの犠牲を生んだらしい。国家を混乱に陥れた曇天の魔女は当然大々的に処刑されるべきだし、魔女の奸計に踊らされたカエルラとは有利な条件で休戦協定を結ぶべきだとの結論に落ち着いた。


 何も言わずに迎えた騎士を始め、ここでも曇天の魔女についてばかりコメントを求められたことから、テネリはリサスレニスの誰もがテネリが魔女であると知ってしまったのだと理解した。


「……して、ブローネ伯爵令嬢を拘束する必要は?」


 話し合いも終盤に差し掛かった頃、腕にきつく包帯を巻いた男が鋭い視線をテネリに投げながら呟いた。テネリの横に座るレナートから殺気が放たれたが、テーブルを囲む歴戦の勇は動じない。


 いつものテネリなら、「人間の拘束など無意味だ」と馬鹿にしたことだろう。魔女のいないリサスレニスの人間は知らないようだが、他国では魔女を捕獲する際に重傷を負わせるものだ。拘束具がなくとも逃げられないように、そして治癒に魔力を集中させるように。


 だがリベルの想いやリサスレニスと魔女の関係、そしてレナートのことを思えば何も言葉にできなかった。


「ガスパル様は私のことも拘束なさいますか?」


 ソフィアの言葉にガスパルと呼ばれた包帯の男が狼狽えた。レナートは厳しく状況を見据え、アレッシオは楽しそうにニコニコと笑っている。


「なぜ聖女様を拘束する必要が」


「船が常に季節外れの強い東風を受けていたのは、私が風を起こしたからだというのは皆さんご存じですね」


 その話の行き着く先がどこか、誰もが察して口ごもる。ソフィアはそっとテネリの方を向いて、右手の親指を立てて見せた。


 あんな性格だったろうかと面白くなってテネリが吹き出すと、歴戦の勇たちが睨みつける。とんだとばっちりだ。


「その前に治癒でもしてもらったら? 包帯ぐるぐるだもん、大怪我したんじゃないの」


「聖女様のお手を煩わせるほどのことではない!」


「ま、時間が勿体ないし、取って返すようで悪いけど聖都へ戻る者は明日には出発しよう。細かいことは船の中でも話せるしね。ソフィアとテネリ嬢は隣室へ。僕の私室として使っているんだ。では解散」


 アレッシオが立ち上がり、それを合図に全員が席を立った。騎士が護衛を申し出るのを断って部屋の外で待機するよう言うアレッシオに、レナートが詰め寄る。


「俺をお忘れですか、殿下?」


「やだなぁ、忘れてないよ。レナートは自分の部屋に戻ってね、誰かに案内させるから」


「何故――っ」


「命令だよ」


 アレッシオが稀に発する王者の威厳に、レナートは唇を噛みながら控える。アレッシオはそれに目もくれず自室を目指し、テネリとソフィアもそれに倣った。


「アレッシオ、なんか王子っぽかったね」


「いや実は王子なんだよね、僕」


 室内は書き物机と小さな応接セット、そして質素なベッドがひとつあるだけの簡素な作りだ。アレッシオの案内でソファーにソフィアと並んで座り、王子手ずからお茶を淹れるのを眺めた。


「それで? 決められた手順に逆らって僕とソフィアの誓約を最優先でやってほしい、だっけ?」


「うん」


 テネリが説明する間、アレッシオはただテーブルに用意されたクッキーにゆっくり手を伸ばし、ぽりぽりと静かに食べていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] >テネリが説明する間、アレッシオはただテーブルに用意されたクッキーにゆっくり手を伸ばし、ぽりぽりと静かに食べていた。 食っとる場合かーッ!
[良い点] 物語最初に助けたソフィアが、今度はテネリを助けてくれるとは……。 強くなったなぁ……。 ( ;∀;) >「いや実は王子なんだよね、僕」 読者も忘れていました……。
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