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逃亡先は、魔女のいない国でした -でも翠の瞳の聖騎士様に溺愛されてるから大丈夫です-  作者: 伊賀海栗
古きをたずねて

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第61話 魔女は後片付けに精を出す


「霊廟だったとはな」


 簡単な治療を終え、手に包帯を巻いたレナートがリベルと三代目の王の姿を模した彫像を見上げている。彼の後ろには蔓薔薇で拘束されたカエルラの騎士たちが、薔薇の垣根で出来た狭い道に詰め込まれていた。


「そ。だから王家の墓にこの王様の遺体は入ってないの。リベルは彼の眠りを守るために、棺の下に家を作ったんだって」


 テネリはこの場所についての説明をしながら、インヴィの入っている檻へと向かった。

 吹き飛ばされた拍子に落ちたインヴィの杖は、レナートが既にへし折っている。檻のそばに転がっていた杖を、テネリが一瞬で燃やし尽くした。


「どうするんだ」


「解毒薬作りたいから舐めてみようかと」


 気化した薬のせいか薬液に触れたのかわからないが、インヴィは体の一部が硬化し始めているようだった。テネリはしゃがんで檻の中へ腕を差し入れる。


「待て、インヴィでさえ硬化してるんだぞ」


「レナートは離れてて」


「俺だけ安全圏にいられるか」


 テネリは嘆息して小指についた液体を舐め取った。目を閉じ、眉を寄せて悩んでいる様子を見せたが、ひとつ頷くと左手に握っていた枯れ葉を口に含んだ。


「うー辛い」


「それは?」


「カエンバ。乾燥させるとものすごく辛くなる。でも殺菌効果が高いんだよね」


「殺菌?」


 テネリは立ち上がってリベルの家へ向かう。同様にレナートもテネリを守るようについて歩いた。


「生物に寄生して、寄主の死後にキノコみたいなのを生やして次の寄主に食べてもらうっていうサイクルの菌類があるの。死んだ寄主は石化するんだよね」


「その菌があの薬に?」


「そそ。カエンバって普通は消臭剤に使うから、リベルが綺麗好きで良かったよ。たくさんあるんだもん。普通の魔女は匂いとか菌とか気にしないし、こんなの置いてないんだけどね」


 タオルでくるんで寝かせたミアの横に、製剤用の道具を並べていく。カエンバを含めたいくつかのハーブを細かく砕いて煮詰めるのだ。


「俺に何か手伝えることは?」


「じゃ、手紙を書いてほしい。騎士を回収してもらうにも、鳥を飛ばしてルイに状況知らせないと。ランプで知らせるより確実でしょ」


 了承したレナートが筆を持ち、室内にはハーブを砕く音と筆記音とが軽快なリズムを奏で始めた。たまに外から呻き声が聞こえるが、テネリたちにはどうすることもできない。


 ルイが小隊を引き連れてリベルの家へやって来たのは、硬化用の薬を仕上げて騎士たちに飲ませ終えたあとだった。いつの間にか朝が訪れ、霊廟の中にも日光が差し込んでいる。


「本当に魔女を……」


 檻の中で身体が半分固まった状態のインヴィを見て、ルイが呟く。テネリはルイに薬液の入った小瓶を差し出した。


「硬化した騎士には1日3回、スプーンに1杯ずつ飲ませて。すぐ良くなると思うけど後遺症がないとは言い切れないし、それについて私には何もできない。こんなの初めてだからね」


「騎士たちの処分は任せる。命令に従っただけで、彼らは決して逸脱した行いはしていないはずだ……カエルラとしても、せいぜい墓所の破壊について問う程度だろうがな」


 テネリの後ろに控えるレナートがそう言って、転がる騎士たちを顎で指し示した。ルイの部下と思われる騎士たちがひとりひとり立たせて、馬車へと連れて行く。


「承知しました、お心遣いに感謝します。それで、インヴィはどのように?」


「リサスレニスに連れて行く。人命も政も経済も、いいようにやってくれたからな。こちらで全てを明らかにして裁かなければ、矛先がカエルラに向いてしまうだろう」


 テネリは我関せずといった様子で、檻となっていた薔薇をどんどん縮めていく。それによってインヴィの身体は、蔓薔薇を巻き付けたような様相となった。


「そうよ。本来ならインヴィを罰した上で、カエルラに対して報復するべき局面でしょうね」


「ミア! もう大丈夫なの?」


「ニャア。レナートのおかげで威力自体は大したことなかったのよ」


 焦げ付いた毛も赤くなった地肌も、決して大丈夫には見えない。けれども黒猫は軽快にテネリの肩に乗って主人の頬を舐めた。


 翠の目の力が弱まっていなければ、インヴィに魔法を発動させることもなかった。さらに言えば、インヴィをリサスレニスから逃がすことさえなかったかもしれない。テネリはアレッシオをぶん殴るリストの一番最初に入れることにした。


「おっしゃる通りです。曇天の魔女をリサスレニスへ引き渡すことで、会談の約束を取り付けたと議会には伝えておきましょう。また、急ぎ宣戦布告の撤回および停戦を前線に指示します」


「先ずはお互いに国内の落ち着きを取り戻してからだな」


「ありがと、よろしくね!」


 レナートと頷き合うルイにテネリが声を掛ける。ルイはテネリの前に跪き、剣を地へ突き立ててみせた。テネリは一瞬だけ眉を顰めたが、ルイと目が合うと小さく頷いた。


「ルイ・ロンベルトの心は終生薔薇の魔女とともに」


「薔薇の魔女テネリ・ローザはルイ・ロンベルトの願いを聞き入れ、庇護を与える」


 テネリがルイの剣の刃を指の腹で撫でる。ルイは差し出された指先に生まれた丸い血の玉を舐め取った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、良かった。ミアが無事で……。 >テネリがルイの剣の刃を指の腹で撫でる。ルイは差し出された指先に生まれた丸い血の玉を舐め取った。 こういう儀式に、エモさを感じる性分なのですが……。…
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