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逃亡先は、魔女のいない国でした -でも翠の瞳の聖騎士様に溺愛されてるから大丈夫です-  作者: 伊賀海栗
古きをたずねて

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第58話 聖騎士様は隣国の事情を知る


 テネリに代わってレナートが扉を開くと、そこには目つきの鋭い壮年の男がいた。衣服こそ平民のそれだが、佇まいで手練れの剣使いとわかる。


 それよりも驚いたのは扉の外に石造りの床と柱が広がり、さらに向こう側には草むらと墓地が見えたことだ。

 先ほどは大きな教会の屋上に降りたって、階段を1フロアさえ降りきらない途中の踊り場からこの家へ入った。だから扉の向こうは当然、教会の屋根裏部屋のような場所だと思っていたのに。


「誰だ?」


「自分はルイ・ロンベルトと申しまして――」


「いいよ、入ってもらって」


 テネリがレナートの背中から顔を出して言う。ルイと名乗る人物は緊張した面持ちでテネリに一礼した。


「いいのか?」


「うん、呼び出し方知ってるなら多分大丈夫。いつまでもドア開けてるわけにもいかないしね」


 杖を振って明かりを全てつけたテネリが、入って来たルイに椅子を指し示した。レナートは剣のグリップに手を置いたままその背後に立つ。


「あー! 私のパン!」


「さっさと食べないほうが悪いのよ」


 いつの間にかミアも起きてきて、テネリが先ほど皿の上に取り落としたパンを頬張っていた。テネリは文句を言いながらヤカンを火にかける。


「それで、こんな夜中に何の用?」


「先ずは自己紹介を。自分はカエルラ古国の騎士団副総長を拝命しております」


 そう言ってルイが差し出したのはカエルラの紋章が入った徽章だ。騎士団に在籍していることは確かであろうと、その場にいる全員が頷いた。


「カエルラの組織において副総長は確か軍事総責任者の次席でしたね?」


「おっしゃる通りです」


 レナートの問いにルイが肯定し、徽章を懐へしまった。一瞬だけ俯いたが、すぐに意を決したような表情で顔を上げる。


「曇天の魔女は王や有力な貴族たちを堕落させて好き放題にした挙句、本日ついにリサスレニスへの宣戦布告を命じました。どんな策を講じようとリサスレニスに敵うはずがないのに」


「それはそうだね」


「リベル様はカエルラの未来を憂いていらっしゃいました。父が言うには、リベル様が帝国からカエルラを独立させ、常に見守っていてくださったと」


「カエルラは未来永劫、魔女を排しない。三代目の王様が言ったでしょ。リベルはそれに報いるためにこの国を守ってたの」


 ルイは突然人語を喋り出した猫に驚いて、椅子から転げ落ちそうになった。が、さすが歴戦の騎士と言うべきか、すぐに落ち着きを取り戻して座り直す。


「その言葉が曇天の魔女をのさばらせたのです。しばらくはリベル派とインヴィ派とで政治も割れましたが、ついにリベル様が凶刃に倒れ……」


「それがよくわかんないんだよね。リベルが人間に殺されるとは思えないんだけど」


「古いことですから詳細は自分も知りません。父が言うには、リベル様は『薔薇の魔女が死んだ』という誤った情報で嵌められたのだと」


 室内に陶器の割れる音が響いた。お茶の準備をしていたテネリが、カップを落としたのだ。


「独立したら、自分のことはぜんぶ自分で落とし前つけろって。お互いに死んでも関係ないって、言ってたのに」


「それは違います、恐らくですけど。定期的に鳥を飛ばして様子を見ていたと聞きましたから」


「そっか。それで敵の前で使い魔と視界共有しちゃったのかな、バカだなぁリベルは」


 ふふ、と笑うテネリの顔が真っ青であることは、この場にいる誰もがわかっていた。重い沈黙が続く。そのうちに、テネリは何事もなかったかのように杖を振って割れたカップを片付け、それぞれにお茶を淹れ始めた。


「んで、ルイさんの用事は?」


「父は、リベル様と三代目の王の意志を継ぐ前王に忠誠を誓っていました。自分も現王ではなく、前王および第二王子殿下に忠誠を誓うつもりでいます。つまり、王位を簒奪する企てがある、ということです」


「うわぁ。話が壮大だね!」


「そのためには、薔薇の魔女のお力添えが必ず必要になると父が」


 静かに話を聞いていたレナートも、テネリに茶を差し出されたところで警戒を解いて椅子に腰かけた。


「貴方の父上は今は?」


「先月亡くなりました。リベル様から預かった鍵を、薔薇の魔女と所縁のある人物に託すことができたと安心した様子で息を引き取りました」


「あなたのお父さんだったんだ! ありがとう。鍵ちゃんと受け取った!」


 レナートは前のめりになるテネリから、テーブルの端にある小箱へ視線を移した。あれはリベルの遺書であり、国宝まで同梱されていた。そんな重要なものを預けるのだから、ロンベルト父子がいかに信頼されていたかわかる。


「同じくリベル様から預かっていたランプに火が灯り、薔薇の魔女の帰還を知って馳せ参じた次第です。どうか、カエルラをお助けください!」


「ああ、そういうことだったんだね。ただ、助けろって言われてもなぁ」


 紅茶に息を吹きかけて冷ましながら、テネリが眉を下げた。レナートもまた、難しい表情で瞳を閉じる。

 今のテネリはブローネ伯爵令嬢であり、アルジェント侯爵の婚約者だ。他国の政治に口や手を出せるような立場にない。


 重苦しい空気の中、溜め息が4つ漏れた。



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