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逃亡先は、魔女のいない国でした -でも翠の瞳の聖騎士様に溺愛されてるから大丈夫です-  作者: 伊賀海栗
古きをたずねて

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第54話 聖騎士様は森を彷徨う


 ドンという大きな音で、周囲の木々に潜んでいた鳥たちが一斉に飛び立った。レナートは二度目の爆音で完全に目を覚まし、音の出どころを探すように顔を上げる。


「あれは……俺がいた屋敷か」


 テネリの薬を飲んだ結果、しばらくして体の異常が改善し体力さえ戻ったようだった。剣やナイフやその場にあったあらゆるものを駆使して、足枷と扉の鍵を外し逃亡することに成功していた。


 焦っていたこともあって左の足首や手の平からは少なくない出血があり、屋敷のそばの森へ身を隠したところで力尽きた。まるで重度の風邪でもひいたかのように、酷い倦怠感と寒気に襲われたのだ。


 レナートがいなくなったことに気づいたインヴィの仕業か、それとも別の誰かの恨みを買っていたのか、とにかく屋敷があった辺りから絶えず煙が立ち上っている。

 日が沈み暗くなってきた空を、燃えているらしい屋敷が明々と照らしていた。


 屋敷が崩れる音がしている間はまだ安全だと考え、レナートはさらに木々の深い方へ向かった。

 大きな木の根元に腰を下ろし、肩で息をする。川でも流れていないかと耳を澄ませると、レナートの真上で大きな鳥が一声鳴いた。


「はは、驚かせるなよ……」


 期待したせせらぎの音も近くにはなく、早朝であれば露の一滴や二滴あったろうにと苦笑した。


 どっちみちこれ以上の抵抗は難しいだろう。レナートは一か八か地元の住民を頼ってみることに決め、木に寄りかかりながらゆっくりと立ち上がる。どこまで魔女の息がかかっているのかわからないため、躊躇していたのだ。


「方角ひとつ決めるのも運だな」


「でもその方角は正解よ」


 酷く疲れた身体を庇って歩くレナートの視界は低く狭い。その小さな視界の中に、森には似つかわしくない華奢で贅をつくした靴が映り込んだ。

 そろそろと顔を上げると、薄汚れてヨレヨレのドレスと薔薇のように真っ赤な髪が順番に見える。


「テネリ……」


 夢でも見ているのだろうか、と疑いながら手を伸ばす。が、すぐにその手を引っ込めた。

 インヴィは姿を変えるのを得意としている。ここにいるテネリは本物のテネリなのだろうか、という疑惑がレナートの頭を駆け巡った。


「絶体絶命に効果あったでしょ」


「ああ。ああ、そうだな。絶大な効果だった」


 もう一度手を伸ばし、テネリを抱き寄せる。深く息を吸い込むと、肺が薔薇の香りで満たされた。

 レナートの背中に細い腕がまわり、小さな体のどこにそんな力がと驚くほどぎゅっと抱き締め返される。腕の中で小さな魔女が震えているのがわかった。


「酷い熱」


「胸がつぶれそうだ」


「え、なに、病気? あの薬にそんな効果ないはずだけど」


「そうだな、ある意味では病気と言える」


 身体を離し、不安そうに見上げるテネリの唇を指で撫でたところで()()の指導が入る。


「お取込み中のところ悪いんだけど、さっさと移動しましょ。派手にやらかしたからいつ曇天が戻って来るかわからないわ」


「そだね、レナートもちゃんと処置しないと死んじゃう」


 頷いたテネリが杖を振ると、どこからかカーペットが飛んで来た。


「魔女は箒で飛ぶと思ってたよ」


「ひとりならそれが楽なんだけど、私はミアに禁止されてる」


「あら、こないだ乗ったとき言わなかった? びっくりするほど箒の扱いが下手なのよ、この魔女」


 レナートがカーペットに寝転がると、テネリとミアも乗り込んでふわふわと浮かび上がった。途中途中で右に左に傾くせいでカーペットにしがみつく必要があったが、なんとか軌道に乗ったようだ。


「ね、カーペットでこれなのよ。箒なんかじゃ頭から地面に突っ込んで行くんだから」


「もう静かにしてよ! リベルの家でいいよね」


「他に行くとこなんてないでしょ、ほらほら早く」


 テネリとミアの他愛ない会話を聞くうちに、レナートはまた夢の中へ誘われた。ここ数日の中では最も安堵に満ちた、気持ちのいい入眠だ。


 次にレナートが目覚めた時、二人と一匹は荘厳な建物の屋上にいた。テネリに身体を揺さぶられ、開いた目に飛び込んで来たのは満開の星空だ。


「ここは?」


「カエリーの中心にある聖リベリー教会。リベルの家だよ」


「教会が?」


「これ、カエルラの三代目の王様が建てたでしょ。リベルは王様が若い時の恋人だったんだって」


 勝手知ったる我が家とでも言うように、テネリは迷いなく扉を開けて教会の中へと入って行く。レナートも足を引きずりながらついて行った。


「こっち」


 階段の踊り場で壁に向かってテネリが手をかざすと、薄紫色にぼんやりと光って表面が波打った。

 ミアは当然のように壁に向かって歩き出し、そして吸い込まれる。テネリも半身を壁の向こうに埋めながら、レナートに手を差し出した。


「行こう」


「あ、ああ」


 テネリの手をとると、ぐっと握り返される。引っ張られるままに壁を通り過ぎると、その中には広々とした普通の家があった。


「ほんと真面目だね、リベルは」


 整然とした部屋を指しているのだろうか、確かに全ての物があるべき場所に仕舞ってある印象だ。

 テネリは杖を振って室内のランプに明かりを点した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かったぁああっ!! 2人が再会できたぁああっ!!
[一言] 男と女、密室、深夜。何も起きないはずがなく……( ˘ω˘ )
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