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逃亡先は、魔女のいない国でした -でも翠の瞳の聖騎士様に溺愛されてるから大丈夫です-  作者: 伊賀海栗
心強い仲間

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第40話 魔女は新たな情報と仲間を手に入れる


 顔面蒼白のライアンにレナートがさらに低い声で追い打ちをかけた。


「魔女を魔女と知ってリサスレニスへ逃がし、また連れ出そうとするのは重罪だ」


「いや、テネリが魔女だってことじゃなくて」


 どうにかレナートの言葉を否定しようとするライアンだが、説得するような材料は持ち合わせていない。テネリはそれをぼんやり眺めながら、確かに口は軽かったなと苦笑した。


「国教騎士団が……ああ、国教騎士団ってこっちで言う聖騎士団ね。あいつらが撤退したってホント? あいつら、見つかるまで凄い探すじゃん」


 話題が変えられると思ったのか、ライアンはテネリの質問に被せるように大きく数度頷いた。


「なんか国が戦争の準備してるって噂だよ。それで教会も国に国教騎士団を貸し出すんだとか。カエルラみたいな弱い国が帝国とかリサスレニスに勝てるわけないのに、強力な麻痺薬があるから大丈夫とかなんとか」


「麻痺? なんで麻痺?」


「戦争に致死性の薬物を使うのは、大陸全土で結ばれた協定に反するからだろう」


 瞳を閉じたレナートが人差し指でテーブルをコツコツと叩く。考えに集中したいときにたまにこの姿をとるのを、テネリも何度か見たことがある。

 どんな問題にぶつかって、どんな解答を導き出すかは知らない。けれども優等生のレナートが何かを深く考えて出した答えなら、きっと悪いようにはならないだろうといつも思っていた。


「だから帰ろう、テネリ」


「無理だって言ってるでしょ」


「お前が無理なんて言うの初めて見たよ。なんだって暴力で解決するくせに、弱みでも握られてんのか?」


 テネリは返事をするより前に肩に回された腕に気を取られてしまった。レナートがテネリを抱き寄せたのだ。ライアンからは「えっ」という素っ頓狂な声が漏れ聞こえた。


「婚約者だと何度も言ったろう。君こそ、テネリとはどんな関係なのかな」


「ハーブ育てるの手伝ってもらってたんだよ。ていうか畑仕事ほとんど任せてたね」


「ボブじいさんの薬、タダで貰ってたからな」


 ライアンは幼いうちに両親を流行り病で亡くし、隣家のボブじいさんが親代わりになって育てていたのだとテネリが説明する。


「ちっちゃい頃はすごい可愛かったのにね。魔法もっと見せてーとか言ってさ」


「うるせぇな。ていうか貴族の兄さん、こいつが魔女だって知ってるんじゃん。脅かしやがって」


 レナートは不敵に笑って頷くと、ワインを少し口に含んで唇を湿らせた。テネリは肩に回されたレナートの腕を剥がして、ブルスケッタに手を伸ばす。


「俺がテネリの正体を知っていたからといって、君がリサスレニスに魔女という脅威を送り込んだことは変わらない」


「なに、オレのこと捕まえんの?」


「君は口が軽い。侯爵夫人が魔女だと言いふらされるのは困るんだ」


「あー」


「あーじゃねぇよ、助けろ。なんか言え」


 レナートはそこで一度話を切り、ライアンにパニーノの乗った皿を勧めた。さらにテネリが抱えていたブルスケッタの皿も取り上げ、ライアンのほうへ押しやる。


「まともに物を食べてないだろう。食いながら聞いてくれ」


「……いただきます」


「君の話が確かなら、近いうちにリサスレニスとカエルラとで戦が起こる。リサスレニスを弱体化させ、カエルラを支援する魔女がいるんだ。国内の政治も騎士団の活用も偏ってきたし、このドゥラクナという大都市から多くの金がカエルラに流れた」


 テネリがチリリと鈴を鳴らすと、すぐに給仕がやって来る。デザート用にクリームパイを頼むと、ライアンがぎょっとした目でテネリを見た。


「お前、貴族に胃袋掴まれたのか……」


「村で暮らしてた頃は食に興味がなかっただけ。今は違うの」


 誰かと一緒にとる食事が美味しいものだと教えてくれたのは、レナートだ。今でも彼が忙しくて食事が別になると、途端にいつもの料理が味気なくなってしまう。


「それでも普通ならカエルラに負けることはないだろう。問題は魔女が用意している麻痺薬だ。剣の刃や矢じりに塗られるのか、散布されるのか、スパイが食事に混ぜるのかわからないが……相当の被害があることを前提に動くべきだろう」


「あらかじめ解毒薬作っとくよ」


「もちろんそれはお願いしたい。が、戦況を覆すほどの麻痺薬が準備されているとして、こちらはそれに対抗し得るだけの材料があるか? 市場にあるハーブの多くは恐らくカエルラが抱えているだろう」


 テネリがレナートを仰ぎ見ると、彼はニコニコと笑っている。これは腹黒いほうのレナートであり、彼の中ではすでに答えが出ているのだろう。

 材料はそんなに問題ではない。希少なノニッタとサカサマノミは、カエルのラナラーナに育ててもらっているからだ。但し、増やすにはもう少し人手が必要だが。

 テネリはゆっくりとライアンのほうへ視線を移す。


「あー」


「あーじゃねぇよ、なんだよ」


「ブローネ家の庭師はとても腕がいいんですのよ、侯爵閣下」


「は? なに、え?」


 レナートは腹黒い笑みを引っ込めて、「そうだろうな」と優しく目を細めながらテネリの頭を撫でた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかライアンは憎めませんねw
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