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逃亡先は、魔女のいない国でした -でも翠の瞳の聖騎士様に溺愛されてるから大丈夫です-  作者: 伊賀海栗
ライバル出現

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第32話 魔女は作戦会議に出席する


 王太子宮にあるアレッシオの執務室には、いつものメンバーが勢揃いしている。アレッシオとソフィア、レナートとテネリだ。


「とりあえず現状の確認からだね。まずドゥラクナで使われた魔法薬だけど、カエルラから仕入れられていた。カフェ・ファータ関係者および魔法薬の納入業者は捕縛し、店は営業停止」


「従業員も賄いのせいで、常連客と同じ依存症状があったのですよね?」


「テネリの作った解毒剤をその従業員に投薬し始めて約半月、効果は上々です。ドゥラクナでは依存症状のある一部の常連客が暴徒化していて、伯爵より応援要請がありました。俺の部下を向かわせたのでそろそろ鎮圧できたころでしょう」


「ちゃんと仕事してたんだ……」


 余計な口を挟んでしまったらしく、テネリはレナートが口に突っ込んだアマレッティを食べることに専念することにした。


「私がドゥラクナへ赴いて、皆さんを癒して差し上げるのはいかがでしょうか」


「いえ。聖女様には滞りなく婚姻の儀を進めていただくのが、リサスレニスにより良い結果をもたらすでしょう」


 兄妹同然に育ったとは思えないほど畏まったレナートの物言いで、さすがのテネリも今が重要な話し合いの場なのだと理解できた。

 だからといって、テネリにリサスレニスの政治はわからない。大人しくお菓子を頬張っていようかと次のアマレッティに手を伸ばしたとき、話題はベリーニ伯爵へと移っていった。


「例の薬の動きを追ってみたんだが、どうもベリーニに繋がっているようだよ」


「日和見な方々や、これまで中立の立場を崩さなかった方々からも貴族派へ傾く方が散見されるようになりましたね。その薬と何か関係があるのでしょうか」


 例えばカエルラ古国の政治は貴族院と庶民院とが議会を設けて運営し、首長は政治に関わらない。リサスレニスも聖王の一存で全てが決まるわけではなく、貴族派と聖王派のパワーバランスは重要だ。

 中庸を自陣に取り込めたら国を動かすのも楽になるだろう、ということくらいはテネリにもわかる。


「その薬って何」


「テネリ嬢は食べただろ」


 墓穴を掘ったかもしれない。テネリは返事をせずにまたひとつアマレッティを口に放り込んだ。ポリポリと口から音がする。焼き菓子を味わいながら、あの夜に薬の材料を特定しようと舌で転がしたのを思い出した。


「……そういえばあの薬さぁ、えげつない構成だったんだよね。人を興奮させるキバナシウオの卵と、依存症状を引き起こす呼幸草が入ってんの」


「えげつないとは?」


「キバナシウオは常用したら体を悪くするんだよ。血液が固まらなくなる病気。別に呼幸草なんて入れなくても、みんな勝手に常用するのにね」


 テネリの言葉にレナートとアレッシオが顔を見合わせる。ソフィアは不安そうに両手を胸の前で握った。


「テネリ、こちらの薬の解毒剤も頼めるだろうか」


「んー。まず第一に血液の病気のほうの薬は作れるけど、一緒にキバナシウオを摂取してたら全く効果ないから注意。次に依存症状の緩和だけど、軽度とはいえキバナシウオにも依存性があるのに、呼幸草まで入ってるから完全に離脱させるのは時間がかかる。それから――」


 全員の視線がテネリに集まった。テネリは右手の指を1本1本立ち上げながら、説明を続ける。


「曇天の魔女は私より魔法薬の精製が上手いし、知識もある。成分を変えて似たような薬を作るのはもちろん……、解毒剤があるってバレたらそれを逆手にとって、一層症状が重くなる作用を追加しちゃうかもしれないんだ。だから薬は作るけど、それ以上に曇天の魔女をさっさと捕まえるべきだね」


 ソフィアが息を飲んだ。アレッシオは難しい顔で腕を組み、レナートは調査資料に目を落とした。


「テネリ嬢はその曇天の魔女とやらに、会えばそれとわかるのかい?」


 アレッシオの質問にレナートが顔を上げる。

 テネリはゆっくりと首を横に振った。


「彼女は素顔を晒さないの。噂好きな翡翠の魔女が言うには、中年になるまで成長が止まらなかったらしいんだよね。だからいつも姿を変えてるんだって」


「成長が止まらない?」


「人間だってあるでしょ? とーっても大きな人とか、とーっても小さな人。それと一緒で突然変異、みたいなやつ。普通はいちばん力が強い年齢で止まるんだけどね」


 誰もが黙りこくって、まるで時が止まったかのように静かになった。テネリがアマレッティを食べるポリポリという音だけが響く。


 どれだけ時間が経っただろうか。皿の上の丸い菓子が数える程度になった頃、アレッシオがついに口を開いた。


「つまり曇天の魔女は姿を変えてベリーニ伯爵のすぐ近くにいる」


「カエルラとの国境守備に俺が行かされたときも、発案はベリーニ伯爵でしたね」


「あっ! そういえば彼のお屋敷には毎夜ひとが集まってると聞いたことがあります」


 ぐるっと6つの瞳がテネリを見た。

 これ以上ないほどわかりやすく嫌な予感がする。テネリはそっと席を立とうとしたが、腕をレナートに掴まれてしまった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] わっ! わっ! 誰が曇天の魔女なのか、推理していくの楽しい♪
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