083:奥義・乱舞
「時に巨滅の英雄殿。あんた名は何と言うんだ?」
「人に名をたずねる時は、自分から名乗るものだと思うのだがな?」
「あ~ら、これは失敬。俺はアニキッ! さすらいの用心棒さ!!」
右手の親指をサムズアップしたアニキは、堂々と胸を張りそう主張する。
流は奥のラーゼを見つめると、申し訳なさそうにこう続ける。
「いや、なんか……うちのアニキがほんと、スマン」
「そこ、謝らないで! アニキ泣いちゃう! しかも号泣だぞ!?」
「まぁお前が馬鹿だと言う事は分かった。俺は流、真っ当な商人だ」
「ほら! ほら、ほぉらぁ~。聞いたかラーゼ君? 英雄様もオレと同じようにギャグ言ってんじゃ~ん。オレだけが悪者? 否、断じて否だね!」
「マテイ! 俺は本当に商人なの! 隣から派遣されてゴミ掃除に来ただけの商人なの! お分かり?」
流はバーツに渡された依頼書を見せる。
「あ~ら本当だった!? いや、ホントごめんね?」
「俺も言い過ぎたよ、悪かったな」
「あんたら、なに和んでるんだよ……」
殺伐とした空間に、微妙な空気が漂い始め――たかのように見えたが、当の二人の目は笑っていなかった。
そして――どちらからともなく、突然の剣戟が積み重なる。
アニキは腰に佩いでいた剣を抜くと一筋の閃になり、大上段を経由して流の中心へと斬り込む。当然当たれば真っ二つになる勢いの一閃だ。
それを美琴で左側へ受け流しながら、アニキの体制が内側に丸まった事による隙を逃さず、流は蹴りを入れる。
しかしアニキは蹴りを食らった瞬間、自身も同じ方向へ回転して威力を受け流し、そのまま剣で斬り返す。
が、流もそれに応えるように、アニキと逆回り方向へグルリと回り、美琴で同じように斬り返す。
「ス、スゲェ……あのアニキと互角に斬り結んでいやがる……まるで踊っているみてぇだ……」
そのまま剣戟が息も出来ないほどの、銀色の閃光を引き連れて積み重なる。
やがて一部屋にとどまらず、双方ともに避けた攻撃が壁を壊し、その空いた穴へアニキが転がり込むと、それを追って流も飛び込む。
そこでまた激しい剣戟が始まると、また壁を壊して別の部屋へと進み、いよいよ建物の強度も怪しくなって来た頃、アニキが流と距離を取る様に飛び退く。
「あ~らまぁ……随分と手癖の悪い商人だこと」
「おいおい、人聞きの悪い事を言うもんじゃないぜ? ゴキブリの用心棒さんよ」
「…………」
「…………」
「「コイツでキメるッ!!」」
アニキは大上段に剣を構え、剣に魔力を流すと、剣に灼熱の業火が宿る。
それを打ち払うため、流も美琴を高速納刀し、抜刀術の構えを取る。
「灼熱の業火に朽ち果てろ……奥義! 業炎の咆哮!!」
「ならばそれを打ち払おう……奥義! 太刀魚・改!!」
アニキは建物の事など微塵も考えずに、業火を具現化した斬撃を流へ飛ばす。
それを見たラーゼは死を覚悟した。アニキの攻撃の意味を知っているから……そう、今いるこの場所は、「確実にマズイ」と分かるからこその反応。
だからその「絶対攻撃範囲」を知っているからこそ、この世の見納めのように目を見開き、姉を強く、強く、抱きしめる。このままなら自分達も確実に焼け死ぬのだ、と。
だがその目には悲壮はなく、覚悟と忠誠が宿っていた。
その本気のアニキの攻撃に、流は冷や汗一つかかず、美琴を優しく撫でるように柄を持つ。
迫る業炎の咆哮! その炎の顎が流へ着斬する刹那、美琴の怪しく光らせた刀身を、その鞘を滑らせて彗星の如く煌めく斬撃を放つ。
美琴の妖力を衣のように纏った太刀魚は、昇竜のように具現化し、業炎の顎を食い破る!
その勢いはとどまる事を知らず、食い破った業炎を呑み込みながら、ついにはアニキの剣までとどくと強烈に押し合う。
「ウヌオオオオオオオオオオオ!! ナ・メ・ル・ナアアアアアアッ!!」
アニキは裂帛の気合と共に、太刀魚を真下へ叩きつけ耐え切った――が。
「――お前がな?」
目の前に迫る流に気が付かず、一瞬防御が遅れた事で隙を生む。
「ジジイ流活人術! 不殺閃・改!!」
美琴の妖力をこれでもかと詰め込んだ不殺閃は、不殺とは言え奥義級一歩手前の威力をもった打撃業と昇華していた。
「あ~ら、アニキ一本とられなああああああゴッブアッツ!?」
「ア、アニキいいいいいいいいい!!」
そのまま建物の壁をぶち破り、アニキはギルドの裏道側の外へと投げ出される。
「くっ!! この借りは必ず返すからな、覚えておけよ巨滅の英雄!!!!」
「あ! ちょっと待て!! それフラグだからなあああ」
そう言うが早いか、ラーゼは姉を抱いたまま流が開けた大穴から外へ躍り出る。
慌ててその穴から下を覗くが、ラーゼが蒔いたのか白い煙幕が立ち込めており、飛び降りてもいいものかが判断が付かずに眺めるだけであった。
「クソッ! 鑑定眼では視えずってなんだよ。俺では追えないか……失敗した。不殺閃がまさかここまで威力があるとは、まぁ何となく分かってたけど!」
下は今だ煙幕が激しく、どうなっているかは不明だったが、気配が消えた事により最低ラーゼは逃げうせたと判断する。
「さてどうする……ネズミは逃がしてしまったしな。あ、そうだ!! もしかしたら出来るかもしれないぞ」
流は急いで一階へ戻ると、広場で寛いで居るラーマン達の中に嵐影を発見する。
「おーい嵐影! こっちへ来てくれ!」
「……マ?」
「そうだ、緊急だ! そっちの騒がしい建物の前で待っててくれ!」
「……マッマ」
嵐影は分かったと首を縦に振ると、周りのラーマンへと何か話し始めていた。
流はそのまま商業ギルドへと向かうと、メリサとバーツに会いに行く。
建物の入り口は堅く封鎖されていたが、除き窓がありそこから流は叫ぶ。
「バーツさん、それとメリサは居るか!? 隣は片付いた、至急確認をして欲しいことがあるから出てきてくれ!」
すると建物の中が慌ただしくなり、ガラガラと荷物をどかす音や引きずる音がし、程なく入口は開く。
「おお!! ナガレ無事だったか?」
「ナガレ様!! お怪我はありませんか??」
「ああ無事だ、それよりすみません。アレハンドを逃がしました」
「く……そうか。それよりお前が無事で何よりだ。メリサ、至急憲兵に連絡してゴミの跡片付けを依頼してくれ」
「はい、分かりました!」
メリサはそのまま駆け足で中へ戻ると、職員に指示を始める。
「実はバーツさん、まだ追える当てがあります」
「何だと!? それはどうするんだ?」
「答えはアイツです……」
不正会計局の方を見ると不思議な色のラーマンが居た。
「あれはラーマンなのか?」
「ええ、俺の相棒で嵐影と言います」
「あ、相棒!? (伝説通りではないか……)」
「え、今何と?」
「いやいや気にしないでくれ、それでラーマンをどうするんだ?」
「それにはバーツさんにアレハンドの持ち物を探して欲しいのですが、特に匂いがしみ込んだものがいい」
「なるほど、そう言う事か! ならヤツが座ってた椅子がいいだろう。オイ! お前達二人付いて来い」
そうバーツがギルドの中の職員へ叫ぶと、駆け足で二人がやって来る。
「会計局からアレハンドの椅子を持って来てくれ、間違えるなよ?」
「間違えませんよ、何時も偉そうにふんぞり返っていましたからね」
「ふむ、よし頼む」
「「はい」」
二人を見送りながら、不正会計局の入り口まで二人で歩く。
「……凄い音がしたが、この警備の詰め所が壊れた音か?」
「いえ、これはまぁ……多分中は酷い事になっているので、その詰め所は憲兵隊に任せたほうがいいかと。多分ですが、詰所の奴以外は全員生きていますので、後はお任せします」
「おお、それは凄いな! 了解した。で、その音の原因は?」
思わず言葉に詰まる流だったが、隠せるものでもないし正直に打ち明ける。
「う、それは……二階に大穴を開けてしまいました。予想以上の強敵が魔法剣? のような物で業火を放って来たので、それを斬り伏せ、その後の打撃業で……すみません」
「何!? 業火の剣士だと? まさか……その男の傍に二人の獣人は居たか?」
「ええ、居ましたよ。白猫みたいな姉弟が二人」
「やはり……」
「知らなかったのですか?」
「ああ、アレハンドはそう言うのを見せたがらない性格だったからな。ギルドを通さず個人で雇ったのだろう。それにしても……」
バーツはしばらく考え込むと、流の肩をに手を置く。
「多分、ナガレが戦ったそいつの名前は『シュバルツ』と言う。元・王国騎士団の団長の一人だった男だ。よくその相手に無傷で生還したな、流石だと言わせてもらおう」
「元とは言え、王国騎士団長がなぜ殺盗団の用心棒なんて?」
「用心棒と言ってたのか? フム。話せば長くなるので今は割愛するが、ヤツは嵌められたのだよ。それで仕方なく逃亡の身の上になった……と、言ったところか。(出来ればこちらで接触したいものだがな)」
「なるほどねぇ。悪い奴に見えなかったので殺しはしていませんが、大怪我はしたかもしれませんね」
「そうか……お、椅子が来たようだぞ」
職員二人が椅子を持ってバーツの前に置く。
「ふぅ、お待たせしました。これで間違いないはずです……でも中が凄い事になってますね。見た事ある奴ら全員気絶していますよ。それと二階は壊滅的でした」
「まあそれだけの手練れが居たって事だ。そうだろ、ナガレ?」
「まぁそんな感じですかね。さて嵐影、これなんだけど匂いで追えるか?」
すると嵐影は嫌そうに匂いを嗅ぐと、流へ問題無いと返事をする。
「……マ~」
「おお、そうなのか? なら手伝ってもらってくれ」
流がそう言うと、嵐影は広場に居るラーマンを呼び寄せる。順に匂いを嗅がせるが、全員嫌な顔をしていた。
「ナガレ、お前ラーマンと話せるのか?」
「ええ、話せますよ? 俺以外にも話せる人が居ると言う事を、先日屋台のオヤジから聞いたばかりで驚いていますよ」
「むぅ……(これもまた伝説通り……)」
「え、何か?」
「いや気にするな。それで追えそうか?」
嵐影は他のラーマンへと指示を出すと戻って来る。
「……マ」
「おお! それは良いな。ええ大丈夫みたいですよ、今他のラーマンが足取りを追っています」
「ラーマンって凄い生き物だったんだな……」
「俺も知らなかったよ、しかも話せるとはなぁ」
職員二人も驚いているが、流はそのままバーツへ今後の予定を話す。
「あ、そうだった! 重要な事を忘れていた。アレハンドはオルドラへ逃げると言っていましたね」
「なに!? それなら予測は付きやすい、憲兵と衛兵に連絡して道を封鎖してもらう事にしよう。おい、お前達はこの事を憲兵隊に伝えてきてくれ。メリサは通信の魔具で関係機関へ連絡を」
「「はい、了解しました!」」
職員はギルド専用馬を小屋から連れてきて騎乗する。
それに乗って手分けして両隊へと報告へ向かうのだった。
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