068:中二病は眠らない
鉾鈴を使い、流は異超門を開ける。
「では行って来る。五老には今回世話になったな。まあ見ててくれ、楽しませてやるさ」
『フフフ、我にその大層な口を利いた事を後悔せぬようにな』
『然り然り』
『生意気言ってるんじゃないわよ! さっさと行って、のた打ち回るがいいわ』
『み、みんな。優しく見守ろうよ。頑張ってね?』
『俺の為に死闘を演じるがよい』
「お前達……調子にのるのも大概になさい。五老の椅子は他の物も狙っているのですからね?」
『『『『『…………』』』』』
〆が重力が百倍になったかのような威圧を向けると、五老は大人しくなる。
「おい〆、あまりいぢめてやるな。何だかんだ言っても五老のお陰で俺は生きて居られるようなものだからな」
「こ、古廻様! しかしあまりの無礼な振る舞いに……」
「その気持ちだけで嬉しいよ。さて行くか――」
その時、もふもふの因幡が勢いよく店内へ駆けて来る。
「ま、間に合ったのです! お客人、これを持って行って欲しいのです!」
因幡が手に持っている試験管は合計五本。そのどれも紫色の綺麗な液体に満たされていた。
「お? うさちゃん、それは何だい?」
「これは傷や体力が徐々に回復するお薬なのです、効果は試していないので少し心配なのですが、ボクの経験上大丈夫なはずなのです」
「そっか~。それはありがとうな、本当に助かるよ」
流は因幡からウサギの顔が描かれた試験管を受け取り、大事にそれをしまうと、そのまま因幡を抱っこしてお腹を撫でる。
「う~ん気持ちいい。上質なアンゴラの毛皮を彷彿とさせる手触りだ、癒される!」
「ひゃああ!? な、何をするのです!? はずかしいから離して欲しいのです……」
「おっと、悪い悪い。もふもふを見ると、もふるのはモフナーの性ゆえ許せよ?」
「そんなキメ顔で、変態さんをアピールされても困るのです」
「はっはっは、そう褒めるもんじゃないよ」
「褒めてないのです……」
通常の変態の枠を限界突破している流には、寧ろ変態は誉め言葉である。
「さて、今度こそ行って来る。因幡、大事に使わせてもらうよ、じゃあまたな」
「うん! お客人、行ってらっしゃいなのです!」
「では因幡、夢見姫。店番は任せましたよ」
因幡は「はいなのです!」と元気に答え、夢見姫は両手を自然で真っ直ぐに前に組んだまま〝すっと〟と頭を下げる。
「よし、開錠!」
流が異超門を開き、その中へ消えていくのを見守る因幡は寂しくなる。
「ボクも一緒に冒険したいなぁ……そしたらお客人を癒してあげられるのに……」
因幡はそう独り言ちると、寂しげに店の奥へと消えていった。
◇◇◇
流達二人が異超門超えて幽霊屋敷へ来ると、壱と参が揃って待っていた。
「フム。お待ちしておりました古廻様」
「壱:古廻はん、そのお顔は……覚悟が決まったんでんな」
「待たせたな、お陰でスッキリとしたよ。それにしても相変わらず胡散臭い関西弁だな、壱よ」
「壱:そらないで~、僕の流暢な関西弁は日本一! いや、異世界一ですよって!」
「異世界一の胡散臭さは認めるぞ?」
「冗談は存在だけにしておきなさい、斬り割きますよ?」
「壱:いきなりの全否定!? 酷い、ぱわはらや!?」
ショックを受けているような壱を放っておき、そのまま話を続ける。
「参、状況は?」
「その後動きは無いと思われます」
参は懐から何かの札を出すと、それを軽く上に放る。
すると全員の目線の高さにオルドラ大使館と、周辺のマップが表示された地図が浮かび上がった。
「おお凄いな! で、この赤い点が敵さんて訳か?」
「フム。その赤く光るのが敵の配置です。リアルタイムでモニターをしていますので、万が一の時は我が手勢が駆け付けますのでご安心を」
参がスッっと頭を下げ説明を終える。
「そりゃあイージーモードで何よりだ。で、結界魔法はどうする?」
「そちらは……兄上、お願いします」
「壱:ふっふっふ。流石は弟よ、兄の華麗な出番って訳やな!」
「さっさと話しなさい、燃やしますよ?」
「壱:さらっと恐ろしい事いうなや!? で、今回は静かに行動せよって事でしたんで、僕がサポートさせてもらいまっせ。具体的には僕が結界を中和させて侵入をお助けします。
「ん? それは攻撃に入らないのか?」
「壱:はいな。先程少しためしてみたんやけど、この程度ならば攻撃とは判断されないようですねん」
「ふ~む……世界、いや全ての『理』と言うのは掴み所が無い不思議な存在? だな」
「壱:全くでんな~。おかげで僕らもエライ苦労しとります」
しばし流は『理』について思いを寄せるが、今はこんな事を考えている時では無いとハッとする。
「っと、悪い。じゃあ壱頼む」
「壱:まかしとくんなはれ! それで配置を見てもらえば分かったと思いまっけど、オルドラ大使館正面は、左右の建物に敵が仰山隠れとります。そして西側が比較的薄い守りになってますねん。そっちから侵入し――」
壱の発言の途中で、流は右手を開いて制止する。
「こそこそするのは性に合わん。正面……そう、正面から斬り込む!!」
「壱:キャ~! カッコイイ!! 流石は古廻はんでっせ!!」
「フム! その堂々とした宣言にこの参、感じ入りましたぞ!!」
なぜか無駄にキメ顔で右手を突き出したまま、ポージングをしている流に二人は惜しみない拍手を送る。
そんな三人をジト目で見つめる一人と一振り……
「……あの、今度は何の真似ですか?」
「「「〇ャンプの主人公に俺はなる! のロール」」」
「そ、そうですか……はぁ~」
『…………』
〆はガクリと肩を落とし、美琴はカクリと揺れた。
「壱:では古廻はん、正面から堂々と行きまっせ! 僕は直接力を行使出来まへんけど、警戒くらいは出来ると思います!」
「よし、あまり役に立たないが期待してる!」
「壱:ドイヒー!?」
壱は抗議するように不死鳥の羽をパタパタと羽ばたかせクルクルと旋回しながら、オルドラ大使館のマップの前へと進み、正面へ向けての通りから右側の建物の前をクチバシでつつく。
「壱:まず向かって右の住宅に弓兵を確認しましたんで、そこから行きましょか~」
「了解だ、んじゃ行って来る。後は頼んだぞ二人とも」
「行ってらっしゃいませ古廻様、ご武運を」
「ふむ、お屋敷はお任せください。ご武運を」
「壱:……僕にはなんか無いんかい?」
「「邪魔だけはせぬように」」
「壱:なんでやねん!?」
そんなやり取りを見て、流は緊張していた体と心が解れるのを感じながら部屋を後にする。
部屋を出て行く流を見ながら、〆と参は壱へそっと呟く。
「兄上……流様の事を頼みましたよ」
「フム、我らの分までお願いします」
「壱:分かっとる、あんじょうするよって任せとかんかい。最悪『理』を超える覚悟はあるさかいな」
「出過ぎた事を言いました兄上」
「妹と同じ思いです」
壱は「そうかぁ」と言うと流の後を追う、それを追う様に二人も部屋を出た。
流は一階へ到着し正面ホールへと到着する。
そこには見慣れない顔の男女五人が、左側に整列していた。
全員黒装束でまるで忍びそのものだったが、西洋顔なので海外の間違ったNINJYA像を見ている気分になる。
「古廻様、先程申しました盗賊の使える生き残りです」
「お? あぁ~、あの地獄送りにならなかった運の良い奴らか。良かったなお前達、魂も凍てつく怖いおねえさんだったろ?」
「もう! 古廻様酷いです! 私はそんなに怖くない……ですよ、ね?」
〆は不安そうに耳をぺたりと倒しつつ、うっすらと涙を目端に湛えながら流を見る。
その姿は実に儚げで、酷い主人に嬲られている哀れな娘に見えた。
哀れな娘……。そう流には見えたが、流以外には別に見える。
(((あ、あのシメ様が怯えている少女のように!? コマワリ様とは、どれほど恐ろしいお方なのだ?!)))
「壱:おい弟よ、何やら小芝居が始まったようやで」
「フム。魂が凍り付く程度ならまだましと言うもの……最悪滅びますからな、魂そのものが」
(((シメ様にあのような態度!? あのお二方? もただ者じゃない! 俺達は一体誰と契約してしまったんだ……)))
「兄上方。何か、言いましたか?」
「「イエベツニ」」
〆は実に良い笑顔で兄二人を凝視する、魂が氷る視線で。
さらにクルリと振り向くと、流に自愛溢れる視線で整列している者達を紹介する。
「古廻様、この者達の代表であるキルトと申す者です。キルト、ご挨拶を」
キルトは一歩前に出て、一礼をしてから挨拶をする。
「ハッ! お初にお目にかかります御館様。この度の仕事、そして今後命尽きるまで全霊を持って尽くす所存にございます」
キルトはそう言うと右膝を折り、左膝を立て、右手を床に拳を握ったまま付け、左手は背中に回した形の最敬礼をする。
その部下達も同じように最敬礼で流に忠誠を誓う。
「おおう!? なんだか物々しいな」
「うふふ。此度はこの者共が露払いと道案内を致します」
「そうか! それは頼もしいな。大使館へは俺だけが突入すれば、多分居るであろう、ギルドの監視者も納得するだろう。それと元賊って言うのもアレだな……よし、今日からお前達は『夜朔』だ。月の無い夜は背中に気を付けろと言うだろう?」
「「「ハッ!」」」
「フム。実にアレで当て字なネーミングに感服ですな」
「壱:更に最後の意味ありげな言葉! そこが古廻はんのイケてるところやな!」
「だろ? 自分でもそう思う!!」
「「「ハハハハハ」」」
「もう、何を言っているのですか……」
『…………』
ジト目の視線を背中に受けつつ、流は入口へと歩きだす。
「ではでは、行きますか!」
すると入口の扉が音も無く解放される。
入口の先にあるガーデンアプローチの両脇には、ずらりとメイドや執事達が並んでいた。
「「「行ってらっしゃいませ、御館様」」」
「おぅ……何時見ても慣れないな。行って来る、後は頼んだ」
代表してセバスが答える。
「お心安んじてお任せを」
「任せた」
そう流は言うと、振り返らず正門を出て行った。
その後を夜朔が音も無く付き従う。
「ご無事で流様……。お早いお帰りをお待ちしています」
夜朔を引き連れて闇へと消えて行く流の後ろ姿に、〆は独り言ちるのであった。
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