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529:複製

「なんだこれは!? 片側だけで乗用車が十台は並んで走れるぞ。しかもなんて美しいんだ……」


 流は見事に整備された光景に驚き、その道幅と街路樹や魔具の照明の見事さに震え、その場に立ち尽くす。


「何が十台だって? まぁ驚くのは無理もない、ここから王城まで一直線に続く道だからな。王都へ来た人間は必ずこの道を見てお前とおなじ感じになる」

「そりゃ驚くだろう、完全な黄金比で物が配置されている。さらに街路樹までも美しく刈り込まれている? いや……ちがう! 何だこれは」

「そう、その街路樹もおかしいだろう? お前なら向こう側も見えるはずだ。よく見てみろ、右と左の枝ぶりを」


 流は道の中央に生えている街路樹と、左側に生えているものを見る。だが違いが分からない、そう……わからないのだ。


「同じなの、か?」

「そうだ、全く同じだ。いいか、向こうの一番下から生えている枝と、この一番したの枝を見てみろ」

「あ、本当だ。枝も葉の付き方も同じようにみえる……ありえないだろうこんな事は」

「そう普通ならありえない。が、ここは王都だ。王の都は全てを犠牲にしても、〝王命〟は絶対だ。そして幹の中心より上を見てみろ……何が見える?」

「え? 何って――まさか!?」


 流は見た、街路樹に女性の顔が浮かび上がっているのを。


「おい、この木の材料は一人の人間なのか?」

「ああそうだ。この木は二本で一つ……いや、二本で一人と言うべきだろう。四代前の王が街路樹を見て、『余の道にブサイクな木などいらぬ。双方同じにせよ』と言ったそうだ。」


 その後のエルヴィスの話に、流は吐き気をおぼえる。時の王〝クヌートⅡ世〟は、街路樹が気に食わないとの理由から、人柱ならぬ人を材料とした樹木を作ることを命じる。

 それというのも、その当時発見された魂魄(こんぱく)の分離する技術が発見されたばかりで、それを利用し木の苗に植え付け魔法で育てるというものだ。

 当然魂を抜かれた人間の体は死ぬが、その心はそのまま木に定着。そして今もその意識があるという。


「だからな、当然こうなる」


 エルヴィスは近くの街路樹へと近づくと、街路樹へ向けて話しかける。


「やぁ、気分はどうだい?」

「……最悪よ。いい加減その質問を聞くのも最悪よ……あなたに分かる? 手が、足が、指も何もかもが動かせない地獄の苦しみが? ふふ……憎いわ。全てが憎い! あの王、クヌートも、あたしを馬鹿にするお前たちも、なにかも全てが憎くて憎くてしかたないッ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛殺せええええええええええええええええええ!!」


 突然、街路樹の顔がしずかに話し出すと、徐々に狂っていく。そして最後は発狂し、向こう側の樹木まで大声で叫び始めた。


「しまったな。この木は特に病んでいたか……ナガレ今すぐここを離れるぞ、樹木師が来るから逃げよう」

「あ、あぁ……わかったが、この(ひと)を助ける方法はないのか?」

「あることはある。が、向こうの木とこの木を同等の力で同じタイミングで切り倒さねばならない。それ意外に方法はない」

「そう、なのか」

「ああそうだ。それよりも早く行こう、樹木師はこの木の管理者であり、警備兵でもあるからな」


 流は「そうか」と一言いうと、嵐影へとまたがる。そして道の真ん中まで来ると、妖人(あやかしびと)となり急速に妖気と魔力を練り上げた。


「ナガレなにをしている? 早くここを離れるぞ!」

「黙ってろエルヴィス、今からこの木を開放する――ジジイ流・薙払術(ていふつじゅつ)! 巨木斬!!」


 流は嵐影の背に立つと、二つの力を合わせた同時にまっすぐ飛び上がる。それと同時に横に回転をくわえながら、巨木斬を二連同時に放つ。

 これまではそんな芸当は不可能だったが、二つの力とこれまでの経験。そして童子切との戦いで学んだ〝力の使い方の加減〟を知り、青白(せいはく)の丸ノコと化した斬撃を同時に左右へと放つ。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――あ?」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――あ?」


 本来は無骨な斬撃である巨木斬。その威力は斬ると言うより、折るといった方がしっくりくる斬撃の跡。

 だが流が放った巨木斬は、じつに薄く繊細であった。そのために斬られた事に気が付かない二本の街路樹は、気がついたら空を見上げている。その懐かしい光景に、二本の街路樹は正気を取り戻す。


「あああ……夜明けの空を見上げることが出来るなんて……」

「奇跡がおきたのね……ありがとう、ありがとう」

「これで私はやっと……」

「母さん待っていてね……すぐに逝くよ」

「「ありがとう開放してくれて……本当にありがとう……」」


 木の幹に浮かび上がる娘の顔は、実に穏やかに目を閉じる。その後全く動かなくなると、浮かび上がった顔が割れ、中から白い光が一つ浮かび上がる。

 それが左右から接近し、流の頭上で一つになると静かに消えていくのだった。

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