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522:華美なる光~王都は深夜に目覚める

「ふぇぇ……ひどい目にあったぁ」

「よ、よく生きていたな」

「大殿様ぁ目玉ついてますかぁ? 私、死んでいますよ~ただの歩く死体ですぅ」

「ぉ、ぉぅ。ZOMBIEみたいだな」

「ちょっと大殿様ぁ誰が腐った死体ですって? ひっどーい」


 流は思う。だって本当にZOMBIEばりに、不死身としか思えない殴られっぷりだったのだから。

 ロデオ風に吹き飛ばされた向日葵は、そのまま前方へと落ちる刹那、白ちゃんに顔面を蹴られる。さらにそのまま上へと吹き飛ばされ、落ちて来たところをさらに蹴られると言う、恐ろしいものだった。

 そんな向日葵は現在、白ちゃんの背中でグッタリとしている。エルヴィスは向日葵の顔をまじまじと見ると、左頬を引きつらせて独り言をつぶやく。


「なぜ絆創膏だけで平気なんだ……」

「ふぇ~? エルヴィスのくせに生意気ですよ。絆創膏はどんな傷も治す万能アイテムです!!」

「そ、そうですか。私の常識が音を立てて崩れていく……」


 エルヴィスは相棒のラーマンの背中に顔を突っ伏して、新しい常識を受け入れようとしているらしい。そんなエルヴィスを見た流は、焦りながら彼を正気に戻す。


「エルヴィス! まて、そんな常識はないから信じるな! 向日葵はただの歩く非常識ってだけだから、気にすることはないぞ!」

「一番の非常識なお前に言われても、説得力が皆無なんだが?」

「うッ!? そ、それはほら。俺はまともだが、向日葵みたいなのばかりだからだな。ウンウン」

「酷い……乙女を売り払うなんて……大殿様の鬼畜ぅ」

「はぁ~どっちもどっちだ。んでよ、あれが目的地って感じかよ?」


 白ちゃんが呆れながら遠くを額の赤いツノで指し示す。永楽ノ園も凄かったが、それ以上の明るさが夜空を穿つ。

 まるで光の壁が巨大な構造物群を守っているように、天まで光が伸びていた。


「なんだあれは……まるで東京、いやもっと凄い光の塊だ」

「とうきょ? それが何かは知らないが、あれが王都だ。人々の苦しみを贅に変え、日々無駄に垂れ流している魔具の光だ」


 絶句する流の隣にエルヴィスは並ぶ。徐々に見えてくる巨大な影の内部から、驚くほどの光の柱が立ち上がる。それらが一つとなり、巨大な光の塔が上空に浮かび、さらにその上に王城のホログラフのようなものが出来上がっていた。


「一体あれを一晩作るのに、魔核はどれだけ必要なんだ……」

「いい質問だ。王滅級の魔核が一つ」

「嘘だろう!? 無理だ、大体そんなに王滅級がいるはずがない」

「そう、いない。あくまでその程度が必要(・・・・・・・)と言うだけだ」

「つまり、それと同等の魔核を使っているという事か」


 エルヴィスはそれに答えず重々しくうなずくと、もっと重く口を開く。


「……ナガレ、よく聞いてくれ。これまでお前が見てきた、村や町の悲惨な状況はよく分かったと思う。だが王都(あそこ)だけは違う。全ての苦しみを外に追いやり、奪った他人の幸福で作られた狂った都。それが――王都だ」

「王都」


 流はそれ以上の言葉が続かなかった。近づけば近づくほどにその異様な様子がわかったのだから。

 あの経済規模で王都より遥かに上と言われている、この国の人々の希望の町〝トエトリー〟ですら、こんな異常な魔核の使い方はしていない。

 税と言う名のもとに、税の上に税を重ね、国民を虐げ虐殺し歪んだ王命の元で、我が世の春を謳歌(おうか)している奴らがいる。そう――。


「――バンディア王家か」

「そうだ。それはあの醜い一族である〝バンディア〟が、この国の全ての元凶だ」


 暗闇を疾走する三人。近づけば近づくほど、華美に圧倒された内部を想像するのも、流は苦痛に感じるのだった。

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