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506:女々しい盾

 そのいらついた顔は鬼のようでもあり、冷酷な無表情にも見える。その相反する表情を一つにまとめ上げ、見下げた男だと流をなぶる。


「一度ならずニ度も女を盾に延命たぁねぇ…………恥を知れ!!」


 急速に高まる淀んだ赤黒い神気。それを刀の刃紋へと込めると、まるで生きているかのように刃紋が蠢き出す。

 その様子、鬼が刃紋に浮かびあがりもがき苦しむ。その鬼がますます存在感を増した次の瞬間、童子切は流へと斬りかかる。

 まずは斬るというより、〝突き刺す〟。その動きは流の刺突術をさらに鋭敏にしたものであり、流の微妙な動きにも寸分たがわず急所を狙い穿(うが)つ。


「クッ、そこまで合わせてくるかよッ!?」

「たりめぇだ。もうお前の底は見せてもらった、あとはくたばるんだねぇ」


 容赦のない刺突攻撃。その一撃は確実に流の心臓・のど・眉間のどれかを狙い、変則的だが的確に襲う。

 必死に流も悲恋で払い、受けながし、そして――。


「うらあああああああああああああああああッ!!!!」


 裂帛の気合と共に、流は童子切が心臓に放った突きを悲恋の先端で相殺。瞬間、火花と〝ギゥィィィン〟と言う、たわんだ金属同士の苦しげな音が響き二人は弾かれた。

 だがそこで止まる二人ではない。同じタイミングで走り出した二人は、双方袈裟斬りに力任せに斬りかかる。

 またしても苦しげな金属同士の音が響き、火花が水面へと落下。一瞬明るくなった場面にエルヴィスが目を奪われた頃には、二人の姿はそこにはなく水面を激しく移動。


 戦いながら気がつけば浮島の中央。能楽堂の前に二人は来ると、そのまま舞台へと飛び乗り剣戟を重ねる。

 能楽堂は横に三十メートルはある立派なものだ。大屋根を支える複数の柱で形成されており、一本の大きさは大人が一人でも背後に手が届かないほどの物。

 その柱を童子切が斬り裂き、斜めにずれた向こう側から流がかがみながら、さらに下の部分を斬り童子切の足を斬る。

 

 が、童子切はそれを飛び上がって躱し、天井の大きな(はり)を蹴り流へと襲いかかる。

 それに応えることはせず、流はさらに隣の柱を蹴って童子切の真横から(なぎ)ぎの業を放つ。


「ジジイ流・薙払術(ていふつじゅつ)! 巨木斬【改】!!」


 妖気と魔力を練り合わせた巨木斬は、これまでとは違い〝小さかった〟が、その威力は未知数。

 どう見ても斬撃が太っており、鋭利さのかけらもない。が、その斬撃は童子切の真横へと確実に迫り必中のコース。


「これはこれで面白いが……飽きたよ、流石にねぇ」


 童子切は迫る太い斬撃を一閃。二つに別れた斬撃は童子切の両脇の柱に当たると、真ん中から信じられない角度でへし折られ、二本が勢いよく童子切へと倒れてくる。


「やるねぇ……だがッ!」


 並の使い手ならそのまま挟まれて死ぬだろう。が、童子切は左足を滑らせ半円を描きつつ柱を細切れに裁断。

 砕け散る大柱の向こうから、銀髪が魔具の怪しげな紫を反射させた男が現れる。そのまま悲恋を斜めに構え、そのまま空中で妖力と魔力で(・・・・・・)高速回転を始める。


「ジジイ流・断斬術(だんざんじゅつ)! 羆破斬(ひぐまはざん)!!」


 一撃の威力は最大級。元はカウンター業であったが、妖力と魔力で空中であっても業を放つ。

 しかもただの羆破斬ではない、魔力が乗った威力も規模も未知数のものだ。それに高速で遠心力をくわえた事により、ますます威力を底上げし――。


「面倒だねぇッ!!」


 童子切は青白く光る死神の丸のノコのようになった斬撃を見て、さらに神気を刀へと込める。すると刃紋の鬼がさらに姿を表し、片腕だったものが両腕までそれが現れた。

 そのまま回転ノコギリのような斬撃に斬りかかると、地の底から響く大声でそれを斬り飛ばす。


「ヌグオオオオオオオオオオ!!」


 だが流石の童子切とはいえど、完全には斬り飛ばす事かなわず、円盤投げに似た体勢で斜め背後へと羆破斬をいなしあげる。

 斜めになった童子切の隙きを逃さず、流はさらに追撃。不安定な右太もも・腰・大徳利(・・・)へ向けて業を放つのだった。

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