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497:一刀両断

「たく、このままじゃ面倒だねぇッ!」

「グルガアアアアアアアアアアッ!!」


 口では面倒だと言いながら、相変わらず片手で流の攻撃を全ていなす童子切。だが次第に押され始め、魔具で彩られた水辺へ近くまで押し込まれてしまう。

 それを熱狂的に見ている観客たちは、さらに距離を詰めた。


「馬鹿どもが、近くに来たら……ほら言わんこっちゃないねぇ」


 流の意味の分からない力に魅了され、恐怖と畏怖に押しつぶされて発狂する女が流へと突っ込んでくる。

 それが全く見えないのか、流は童子切へと左手の爪を振るい斬撃に似たものを飛ばす。童子切は爪は(かわ)したが、その先から斬撃が飛ぶとは思わず油断。

 そこにちょうどよく女が飛び込み、流の背中に抱きついた事で流の動きが止まるかと思いきや、そのまま女を引きずり童子切へと悲恋で斬りかかる。


 背後は水面。踏ん張りもきかず童子切は後方へと大きく飛び、両足に淀んだ神気を込めて水面に飛沫(しぶき)を上げ滑りながら立つ。

 その距離、約十メートルほど。流も飛び上がろうとするが、女が抱きついている事で動きが阻害されている事に気が付き、片手で女を勢いよく振りほどき飛ばす。

 遠くに転がる女は、また流へ抱きつこうと起き上がる。が、それを邪魔に思った流は悲恋を女へ向け、右手に持ったまま大きく振りかぶり斬り殺そうとした。


(――ここしかないッ!!)


 美琴はためらうこと無く女と流の間に割って入る。それが見えないのか、女だけを見て流は唸り声を上げ、刀を振り下ろす!


「グガアアアアアアアアアッ!!」

「いい加減にしなさあああああああい!! 流様なんか大嫌いだあああああああああああ!!」


 驚いた事に美琴はキレのいい動きで流へ向かう。普段の少し抜けた感じの動きを感じさせず、まさに武芸を極めたものと言っていいような足取りで突っ込む。

 大ぶりの流の悲恋を睨み、その軌道が美琴を両断するコースに入った刹那、美琴は一瞬光ったかと思うと拳を固く握り、流を〝右ストレート〟で左頬にクリーンヒット!


「ぐッ……美…………」

「よかった! 正気にもど――」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 美琴が卵妙姫に対する怒りで固くした拳を、思いきり叩きつけ殴った事で流は正気を取り戻したと思った瞬間、それは起こる…………。

 見ていたエルヴィスはその冗談のような光景を目撃し、あまりの現実感が無い状況を理解できない。


「……ナガレ……ミコトさ……ん?」


 エルヴィスは時が恐ろしく遅く感じた。その二つに別れた体の奥から、狂気の目でこちらを見ていた男、流と目線があった事で現実だと認識する。が、今起きた状況がやはり信じられない。なぜならそれはありえないことだからだ。そのありえないこと――。


 ――流は美琴を悲恋で頭から両断してしまった。


「ミコトさん……うそ……だろ?」


 そう言うとエルヴィスは走り出す。駒那美の静止を振り切り、流の元へと一直線で走り出す。

 近づけば近づくほど、恐怖と畏怖に押しつぶされそうになるが、氷狐王のコインと流に対する慣れ。それになによりも、流に対する激しい怒りにより恐怖と畏怖に打ち勝つ。


「ナガレ!! お前は何をしたのか分かっているのかあああああああああ!!」

「ぐぅッ!?」


 エルヴィスは渾身の左拳を流の右頬へと叩き込む! 肉と肉が鈍い音を放ち、重く湿った音が周囲に響く。

 その直後、エルヴィスは殴った事で生じた、左手の激痛など忘れ殴った男の顔をみる。


 その男――古廻流は泣いていた。殴った右頬はダメージなどなく、むしろ何も異常はない。

 だが美琴に殴られた左側の顔が泣いていた。とめどなく涙があふれ、自分が何をしてしまったのかが分かったのだろう。


「美琴……? 俺は一体なに……を……?」


 急速にしぼむ混合された汚れた力。その直後ガクリと膝を付き、自分のしたことが理解できた。目の前には無残に二つに別れた、最愛の娘の死体が転がっているのだから。


「ナガレ……」

「エルヴィス? 俺は……美琴を……殺したの……か……」

「…………ああ」


 エルヴィスに言われた一言。それで状況がやっと理解できた。確かに意識は吹き飛びかかっていた。朦朧(もうろう)とするその意識の片隅で、鏡の外の出来事は何となく理解はできていた。

 だがなぜ美琴に殴られていたのかは理解できない。ただ目の前の敵(・・・・・)が憎くて仕方なかったのだ。


 だから鈍くなる自身の心の動きより敵への感情が勝り、自分の心が万華鏡の小さな破片に分断されても静観していた。

 しかし強烈なインパクトを右頬に感じ、その直後に左頬にも少し弱いが似た衝撃を感じた事で目が覚める。

 そして最初に目撃した衝撃の事実に流は呆然とするのであった。

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