495:一縷の希望
「なんだい、こいつぁ?」
突如現れた女に童子切は片眉をあげながら訝しむ。だがそんな事を気にする余裕がない美琴は、体を張って流を止めようとする。
が、流は止まろうとせず、漆黒の妖力を込め悲恋を美琴へ向けて振り抜り抜く寸前、美琴はさらに流へ向けて両手を広げ立ちふさがる。
「流様! 自分が何をしようとしているのか分からないの!?」
そう言うと同時に、美琴は流の左頬を思いっきり平手で殴りつける。
「ぐッ……がッ……あ゛あ゛あ゛あ゛ヅッ!!」
当然、流にはそんなものじゃダメージは無い。ましてバケモノに成り下がった今は殴られたくらいではダメージがあるはずもないが、目の前の最愛の娘に殴られた事で多少は自我が戻ったかもしれない。
そう美琴が思ったのもつかの間、流は垂直に飛び上がり童子切へと漆黒の斬撃を放つ。
「流様ッ!!」
「どいていなよ娘っ子。なんだか知らないが、そんな威力の低下した斬撃なんざ怖くもないさね。例えバケモノであってもねぇ」
童子切はそう言うと、斜め上から迫る漆黒鮫と化した斬撃に挑む。左足を地面に擦り付けながら下げ腰を落とし、左腕を覆うように刀をかまえる。
漆黒の斬撃が迫ること、残り五メートル。童子切は淀んだ神気を刀に込め赤黒く発光させた。
さらに迫ること三メートル。刀自体が発光しているように赤黒く発光し、それが限界になった瞬間一気に刀を斜めに一閃!
特に業と言うものでもないが、その剣筋といい鋭さといい、大業と言われても納得してしまう斬撃。
それが高速で解き放たれ、漆黒鮫へと向かう。漆黒鮫は不気味な六つの黄色い目でその斬撃をニヤケながら大口を開けて噛み砕こうとする。が、そのまま真っ二つになり再生するまもなく爆散してしまう。
どうやら美琴が抜け出たせいで威力が半減したようだ。もし抜け出なかったら先程のように漆黒鮫が復活し、どれほどの死傷者が出たか分からない。
だから美琴は思う。自分が悲恋の中にいようとも、漆黒鮫の斬撃では童子切を始末できたとは思えず、結果的に〝流の心〟を救えたと。だが……。
(私が中にいれば傷くらい付けられたかも……いや、今はそれよりも流様を正気に戻さないとだめなんだよ!!)
見れば漆黒鮫の爆散した黒霧の中から流が現れ、童子切へと斬りかかっていく。それを嬉しげに口角を上げ、刀の刃を上に向けて挑発する童子切。
それが癪に障ったのか、流は獣じみた動きで童子切へと攻撃。右手だけで持った悲恋を大きく振りかぶって袈裟斬りにし、それを童子切は受け流す。
そのまま左足で童子切の側頭へと飛び蹴りを放ち、ギリギリで躱された刹那、悲恋を地面に突き刺しさらに回転。
並の日本刀なら確実に折れただろうが、そこは日本最強の妖刀の悲恋美琴である。主の思惑通り地面を削りながら軸になり、もう一撃回し蹴りを放つ。
「うおおおっと!? 妖刀までバケモノかよ。普通折れてるってねぇ。さて体術もいいが、やっぱり刀じゃないとねぇ」
そう言うと童子切は流に斬りつける。流もそれに応えその場で剣戟が始まり、その余波で近寄ってきた見物人が斬り飛ばされ、体の一部がはね飛ぶ。
「ウガアアアアアアア!!」
「はっはっは! これだ! こいつぁ素敵だ! もっとだ……もっと来いよ古廻流!!」
童子切の驚異的な剣筋に流は余裕でついていく。いや余裕と言うレベルじゃない。むしろ上回っていると言っていい剣戟が積み重なる。
「楽しいねぇ~実にいい。これぞ肉体を持った事に感謝だねぇ!」
「グウウウウウウウウウウウウッ!!」
さらに童子切を圧倒し始める流は、ついに童子切の剣速を上回る。童子切が流の首を狙った一閃を放ち、それを悲恋の刃を下にしたまま、地面から引き抜くように防ぐ。
だがそれでは終わらず、グルリと左足を右に回し入れ体を回転。そのままの勢いで裏拳を放つように悲恋で童子切の首筋を逆に斬りつけた。
「つッ、やるじゃないか。こいつぁ少し本気にならいとだねぇ」
童子切の顎下の無精髭が宙を舞う。傷こそつかなかったが、まさに紙一重で避けられただけに過ぎず、童子切も油断していたら斬られていただろう。
そんな何も恐れず躊躇しない、ただ敵の死だけを求める斬撃に童子切は背筋が喜ぶ。
「いけない……このままじゃ流様が壊れちゃう……」
ますます正気を失った目つきで童子切を睨む流を見て、美琴は顔が青ざめる。そう思って何か行動を起こそうと思った刹那、悲恋から高速で棒手裏剣が美琴へと飛んできた。
「これは…………ッ!? 分かった、やってみるんだよ」
悲恋から飛んできた棒手裏剣。そこには紙が結ばれており、それを開くと文字が書いてあった。
その送り主である向日葵からの提案に、美琴は一縷の希望を見出すのであった。
ついに本編が495話になりました……。
毎日即興で書いているので、乱太郎も続きが分かりませぬΣ(゜д゜lll)
明日はどうなるか、明日の乱太郎に期待です。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。(*´ω`*)




