494:銀髪のバケモノ
漆黒の斬撃はまさに鮫と思うような形。斬撃の下部分が異様に突出しており、その先端は牙すら見える。黒曜石を割った時に見れる、歪な鏃をさらに研ぎ澄ました凶暴な牙がズラリと口内に蠢き生える。
それだけならまだしも、この斬撃が異常だと思うのは〝黄色い目〟が付いていることだ。しかも片側三つ、左右合わせて六つの目がエモノを探しせわしなく動く。その二つは確実に童子切をロックしており、エモノを見つけた歓喜で目尻が歪む。
だが赤き花びらの化身とも言える斬撃は、漆黒の斬撃に三方向から突っ込んでいく。
一つは右側面。一つは左下側。残る一つは頭上から叩き斬るコースで迎え撃つ。
はじめに右側面の斬撃が漆黒鮫のエラに着斬。ほぼ同時に左下からもエラを狙い、生き物のような斬撃の急所だろう場所を斬りつけ、最後に脳天に一撃とばかりに赤い斬撃が落ちる。
「こいつぁやったかねぇ……」
赤い斬撃が三つ漆黒鮫に着斬し、黒霧が爆発するように発生。童子切は漆黒鮫が消滅したと思い、水柱の中にいる流へと注意を向けようとした瞬間、まだ終わっていないと確認してしまう。
それは左右に頭が増え左右の斬撃を噛み砕き、さらに頭上の斬撃により斬り裂かれた頭部が真っ二つに別れたまま健在。
どうやら頭部を斬り割いた時に、内部から吹き出したもので黒く染まったらしいと分かり、童子切はため息をつく。
「やれやれだねぇ……いくらなんでも紅時雨を防ぎきるのは驚きだぜ? いったい何なんだいこいつぁ」
それに応える漆黒鮫は、六つの目を童子切へと向け口元を歪ませ噛み砕こうと襲いかかる。
面倒そうに黒曜石のような蠢く牙を見ながら、童子切は刀を鞘に納刀。そのまま一口酒をあおり、漆黒鮫との距離が迫るのを待つ。
残り二メートルになり、童子切はよどんだ赤黒い神気を刀へと込め即抜刀。
「とりあえず漆黒鮫は邪魔だ――神刀流・無響羅刹!!」
赤い鞘から高速で抜刀した日本刀を無軌道に乱舞。左右に生えたおぞましい黒い首をはね飛ばし、そのまま突っ込んでくる本体を斬る、が――。
「これじゃあきりがないねぇ。だがまぁ、こうすりゃいいんだろう?」
斬ったはずの漆黒鮫は、斬られたそばから復活し童子切へと噛みつこうと必死だ。
それを睨みつけ、高速納刀の直後にさらに抜刀。その直後に広がる色が消え去った世界に、銀色の閃光だけが浮かび上がり色づく。
そのまま銀色の閃光が縦・横・斜めの格子状に集約すると、漆黒鮫を細切れにした後に体を爆散!
さすがの生きた斬撃もそれには敵わず姿を消し去る。余波で黒く陰る視界……その中央がさらに爆発し、中から獣じみた爪が童子切の心臓を貫こうと現れる。
一瞬驚く童子切だったが、冷静に体を捻り避けた事でその正体を見る。それは理性を失った哀れな敵であり、古廻の男のなれの果てだった。
「なんだいそりゃぁ? 人間の心を捨てちまって、正真正銘のバケモノに成り下がったのかい? はぁ………………興醒めだ」
「ぐうううううううううッ!!」
「そうかい……なら今すぐ楽にしてやろうじゃないか」
銀髪のバケモノ、流は真っ赤になった目を見開き童子切へと左手で掴みかかる。それを斬り飛ばそうと、童子切は刀を下から振り上げるが。
「ッ、どうやら見た目だけじゃなく全てがバケモノって事かい」
流の左腕を斬り飛ばしたと思った瞬間、その間に悲恋が割り込み逆に剣を弾き返してしまう。
さらに打おろした悲恋を反動に、掴みかかろうとしていた左うでを曲げて肘打ちで童子切の顔面を狙う。
その反射速度がとても人間とは思えない。それは妖人だとしても、童子切の知っているソレとは明らかに違い格上であった。
さらに驚くことに剣筋も鋭くなっており、これまで甘いと思っていた剣筋が確実に命を刈り取りにくる。しかも貪欲にソレだけを狙っており、周囲の被害などお構いなしだ。
童子切が避けた事が気に食わないのか、さらに追撃する流は悲恋を背部分から咥えると、両手の爪で喉元に向けて重なるように振り抜く。
信じられないことに爪から斬撃が発生し、一つは童子切が弾くが残りの一つは背後のギャラリーへと襲いかかる。
「ギャアアアアアッ!!」
一人の盗賊かと思えるような姿の男が爪の斬撃を受け、血飛沫をあげながら倒れる。その姿を横目に見ながら、童子切はニヤリと口角をあげて喜ぶ。
「はっはっは! そうかい、やっと俺と同じ場所に立てるようになったかい。だがまだまだこれだからッ!!」
そう童子切が笑う。それを不快に思った流は、妖力と別の力数種類を混ぜ込み黒い斬撃を放つ体勢に入る。
「まともに戦えないと思って興醒めしたが、これはこれでいいものさねぇ。さぁ来い! 何度でも破ろうじゃないか!!」
悲恋へ漆黒の力が集約し放たれる刹那、澄んだよく通る娘の声が悲恋から聞こえると、その主が流の前に現れて両手を広げ立ちふさがる。
「流様しっかりして!! 自分を忘れちゃだめだよ! 今何をしようとしているのか見えないの!?」
流の先にいる群衆。その中に永楽の園に売られたばかりの若い娘たちがいたのだった。




