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475:童子切は月夜を見つめる

「あちきがお酒を持ってくる間に逢引とは……妬けてしまいますえ」


 蓮の絵が描かれている襖をあけ、黒と赤を重ね着した着物で着飾った花魁が入ってくる。

 見れば馴染みの顔であり、童子切を慕う女。その表情は例えるなら春。そう、やわらかく淡い色。その優しい色と香りを感じる、ふわりとした二十代後半ほどの美人の女だ。


 それを見た童子切は、バツの悪そうに右手でこめかみを二度かくと、白い徳利を持ってきた女、「駒那美(こまなみ)」へ言い訳をする。


「あぁ~あいつはお前よりも見た目はいい女だが、中身がゲスの極みだ。だからまぁ……妬くんじゃねぇよ」

「まぁ酷い。あちきより、あちらさんがいい女と言うんですね。本当に酷いお人……ふふ」

「いや、そういうワケじゃねぇんだがよ。まぁなんだ、こっちに来いよ」

「ええよろこんで」


 駒那美は童子切の隣にふわりと座り、もう片手に持っていた三味線を奏でる。その音色はどこか物悲しく、しっとりとした雨が降っているよう。

 それを聞きながら童子切は手酌で、新しい盃へと酒をそそぐ。その澄んだ日本酒は魔具の間接照明の光を反射させ、妖艶にゆれる。


「酒はこうでなくちゃいけねぇ……あんな濁ったのなんざゴメンだね」

「ここまで元世界(あちら)の文化を再現するのに、実に数百年かかりましたえ」

「そう、だな……。酒、女、博打、メシや楽器もそうだ。俺はあの世界を捨てて異世界(ここ)に来たってのに、やってることはあの世界の模倣ばかり。捨てたつもりが、実は俺が捨てられたのかもねぇ」

「あらうれしい。捨てられた世界でもなお、あんさんと一緒にいれるなんて幸せですえ」


 童子切は盃を半分あけ、厚い雲に隠れている月を見つめる。やがて三味線の音がやむ頃に酒を飲み干し、深い溜息ひとつ。

 駒那美がしずかに盃に酒を満たすと、それをだまって見つめる童子切。その酒鏡に黒雲から徐々に光がもれだし、盃に命を吹き込む。


「月が出たねぇ……」

「ええ、この世界の月も日ノ本も一緒。堕ちた心を優しく照らしますわえ」

「違いねぇな。それで駒那美、見てきたんだろう? 新しい古廻の男を」

「あら、ばれちゃいましたえ?」

「それこそ妬けるねぇ~で、どうだったい。その男は?」

「まぁいい呑みっぷりですえ」


 苦笑い気味に盃をあけた童子切に、あたらしい酒鏡をながし込む。ゆらゆらと映る満月を見ながら、駒那美はアルマークで見たことを話す。


「えぇ、いい男でしたえ。それはもう、あんさんの願いを叶えてくれるほどに」

「そうかいそうかい。そいつぁ楽しみだねぇ」

「考え……直す気にはなりませんえ?」

「ダメだねぇ。真っ赤な日本刀(そいつ)に誓ったのさ、古廻は滅するとな」

「わっちは、あんさんさえいれば何もいらない。だから今回だけは怖い……あの男だけは今なら殺せますえ。だから――」


 それを童子切はかぶせて言い止める。


「――それを決めるのは俺さね。やっこさんの宿命(・・)が勝つか、俺の駄々(・・)が勝つか。それともまだその時ではないのか……さぁて楽しみだ、ここにたまたまいた事をクソ神に感謝。せめてもの感謝の気持ちを祭りにて返そう。今度の祭りの踊り手は俺を何処まで狂わせられるかねぇ」


 そう童子切はいうと白く大きな徳利(とっくり)をわし掴みにし、一気に中身をあおり呑む。

 月を睨むその瞳は、心底まだ見ぬ敵との邂逅を望んでいるのだった。



 ◇◇◇



 その頃、流たちは闇世の中を疾走していた。目の前の大きな岩影から月が顔をのぞかせたことで、遠くに村があることを知る。

 エルヴィスはそれを見てほっと胸を撫で下ろし、流へと話す。


「ナガレ見えてきたぞ。あの村が公式には最後の村だ」

「公式? どういうことだいそりゃ?」

「あぁそうだったな、国が認めたって意味でだよ。この村を出て少し行くとすぐに王都となる。だがその前に一つ無法地帯があってな」

「無法地帯? マフィアでもいるのか?」

「異世用語か? マフィアがどういうものかは知らないが、遊郭(ゆうかく)と呼ばれるものがある」


 そのイントネーションに流は違和感を感じる。つまり今エルヴィスが言ったことは――。


「――日本語か。遊郭、今エルヴィスはそういったな?」

「そうだが知っているのか?」

「ああ。今おまえが話した言葉の遊郭と言うのが、完全に俺の国の言葉そのものだ」

「つまり……ッ!? まさか敵がいると言うことか?」

「それは分からん。なにせこの世界に残った俺の先祖もいるらしいからな。もしかしたらその末裔が営んでいるのかもしれない」


 エルヴィスは「そうか」と一言もらすと、目の前の村について話す。


「そちらはまずおいておこう。今は目の前の村についてだが、ここで最後の軽い休憩をしたのち王都へと向かおう。さすがに嵐影はまだしも、私のラーマンがバテ気味だ」

「そうだな……とは言え、大丈夫なのか今度の村は? さすがにさっきみたいな場所での休憩は嫌だぞ?」

「ああ、今度の村はいたって普通の村だよ。ただ……」


 言いよどむエルヴィス。それをみた流は「またか」と内心気が重くなるのであった。

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