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470:旧道

 異世界産のお嬢様がたに度肝を抜かれた流は、ジト目の妙に人間臭い顔つきの魔物の視線を背にうけ、極上の肉を味わう。


「……おいしい」

『もぅ、泣きながら食べないでくださいよ。それでこの後どうするの?』

「一応はあるにはあるが、そういう美琴は何かあるのか?」

『一応って正面突破でしょ?』


 美琴の言葉に「うっ」とのどを鳴らし、肉をつまらせそうになる。

 そんな流をヤレヤレと言いながら、美琴は一つの提案をする。


『ここから少し離れているし暗いからよく分からないけど、関所の壁は結構厚いと思うんだよ。だからそこを足場に向こう側へと渡って、上の広い道へ出ればいいと思うんだよ』

「向こう側に道があるのか?」


 どうやら美琴はこの暗闇でも、ある程度は見通せるらしい。話を聞くとこちらがわの崖よりも、反対方向の崖の上に道があり、そのまま奥へと続いているとのこと。

 その話を聞いていたエルヴィスが思い出したように口を開く。


「あ! そう言えばその道は間違いなくある。今は使われていない旧道で、関所を超えた先から崖を崩して通れなくしてある。だが関所の奥へ続く道は元のままのはずだ」

「でかした美琴。じゃあそこから向こうへと渡って行くとしよう。どの道足場になりそうな崖も、この後は無いとラーマンたちが言っているしな」

「決まりですわ。それが一番相手(・・)に被害が一番少なくて、しかも楽にいけそうですわ」

「はっはっは。まぁこの面子なら、あの程度の関所を落とすのはワケ無いじゃろうがな」


 ルーセントはそう言うと出発の準備を始める。どうやらまずは自分のラーマンの元へと行き、何かをあげるようだ。そんな様子を見ながら各人は出発の準備をする。

 やがてそれも終わり、全員がラーマンへとまたがると静かに動き出す。


 日も完全に落ち、あたりは暗闇だ。しかしラーマンたちは一切の戸惑いもなく、その足を軽快にすすめる。

 やがて関所の篝火(かがりび)煌々(こうこう)と見え始め、警戒をしているのがよく分かった。 

 流は一旦止まると、その様子を見て状況を把握する。


「やはり警戒されているな」

「それはそうよ。今頃は森の死体も見つかっているかもしれないでしょうしね」

「だな。……セリアだったらどうする?」


 流はルーセントを見て意見を求めようとしたが、ルーセントはセリアの方を見て頷く。それを見た流は、彼女の意見を聞いて決めることにした。どうやら彼はセリアの言葉がどうなるか見ているようだ。


「そう、ね……。まずは壁の上にも衛兵がいるでしょうから、一番機動力があるあなたが一人で斬り込み障害を排除。その後に私達が全力で駆け抜けるというのはどうかしら?」

「よしそれでいこう。みんなもいいな?」


 それに無言で頷く一同。そして流が先頭になり岩場を駆け抜ける。

 やがて関所の壁がハッキリと見えるころには、その全容が明らかになる。美琴の予想通り人が二人歩けるほどの広さがあり、その上には歩哨(ほしょう)が六人暇そうに立っていた。


「ふぁ~……暇だなぁ」

「斥候が戻らないからって大げさだろう。一体何を警戒してるのやら」

「本当になぁ。どうせサボってるだけだろうさ。いつものことだ」

「ちがいないな。ただどうして都から直で指示がくるんだ? リッジ様からなら分かるが」

「ほら、アイツだよ」


 歩哨の一人がアゴで関所内の一角をさす。黒いローブに身を包んだ男が、微動だにせず門を睨んでいる。

 その表情は感情が抜け落ちたようであり、どうにも人間と思えないような無機質さを感じた。


「なんだアイツ……気持ちが悪いな」

「あぁ。なんでも王宮付きの魔法師らしいぞ」

「王宮ねぇ。俺は嫌いだねぇ」

「お前そんな事言っているがばれたら殺されるぞ?」

「大丈夫だ、お前たちも嫌いだろう?」


 歩哨たちは苦笑いをしながらうなずくと、口々に「違いない」と漏らす。そこに七人目の声が歩哨たちの背後から聞こえ――。


「オタクらもかい? それは気が合うねぇ」

「「「ッ!?」」」


 振り返るまもなく歩哨たちは目の前が暗くなると、そのまま静かに倒れだす。そのあまりの手際の良さに、嵐影も驚き流へ静かに話す。


「……マ」

「殺しちゃいないさ、どうやらお仲間のようだしな。さて、あいつらは……来たな」


 流が歩哨を処理したことで、セリアを先頭に一気に侵入に成功したようだ。ラーマンのしなやかな体と、柔らかい手により音もなく壁の上を走る。やがて全員が渡り切る頃、ゾッとする視線を感じてその場所を流は見た。

 その視線を送る相手……どう見ても人じゃない。いや、元・人間と言ったところか。


『大殿、あれは死人(しびと)ですなぁ』

「お前もそう思うか三左衛門。まぁバレちまったのは仕方ない、お前たちは壁を超えて旧道へと入っていてくれ。俺が後始末をつけてから向かう」

「わかったわナガレ。無茶はしないでね?」

「あいよ~、さて……おいでなすったな」


 黒いローブを着た男は階段を使うことなく、一気に五メートルの壁に飛び上がると、石壁の上に着地する。ローブの男との距離は十メートルほどだったが、あの運動性ならば無しも同じだろうと流は思うのだった。

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