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467:平和的に森へ

「うむ、お主ならそう言うと思っておったわ。そこでだ、俺が鉱石を取りに行くルートがある。おれも色々あって関所は通りたくないのでな、そこならいけるはずじゃ」

「たすかるよ。それでどこを行けばいい?」

「まずは北門より出て関所をめざせ。少し行けば小さな森にでるから、その中に入らず右へと迂回するのじゃ。その先に岩山へとつづく道があるから、そこを抜ければ関所の上に出れる」

「ずいぶんとザルな関所だな。そんな場所があるなら、対策されているんじゃないのか?」

「まぁ普通はそうじゃろう。が、あの場所は歩行するにも困難な場所じゃが……」


 ガラン師はラーマンを見る。それに流もつられて視線を向けると、嵐影が流に話しかける。


「……マ」

「ん? そうなのか」

「そうじゃ、そのラーマンの言うとおりじゃわ。俺もあの崖で野生のラーマンが飛び跳ねているのを見たことがある。じゃからこの話をしたワケだが……行けるか?」


 嵐影は他のラーマンへと確認すると、どうやらいけるらしい。そもそもこのラーマンたちは野生のラーマンらしく、町に住む個体より強靭ということだった。


「それは助かるな! 頼むぜお前達!!」

「「「……マ」」」

「ならば結構! 俺が作った鞍と鐙が役に立つことを願っておる」

「うむ、これで抜けれるはずじゃ。エルヴィス、道は困難だが生きて戻れよ?」

「ありがとうございますお祖父様。では行ってまいります」

「気をつけて行っといで! あんた達が帰ってくるのをまっているからね」

「ありがとうみんな。じゃあ行ってくる!! みんなラーマンへ騎乗しろ!!」


 流の指示で全員がラーマンへ乗ると、リッジが懐から一つの魔具を出す。それは直径三センチほどの白い玉だった。


「これは町から出るのに使ってくれ。門番の検門無しに一気に抜けられる。使い方は門の近くに来たら、前方に投げればええ」

「わかった、ありがとう。それじゃあまたな!!」


 そういうと流たちはラーマンに乗り去っていく。その後ろ姿を三人はじっと見つめ、リッジが口を開く。


「戦になるのぉ……」

「やはりそう思うかい? アタシもそう思うよ。あの王都のクズどものこと、魔具の殺戮兵器が完全運用が可能となれば狙うは一つだろうさ」


 リッジは一つ頷くと、独り言のようにつぶやく。


「やはり狙うのはトエトリーだろう」

「俺もそう思う。リッジよ、ここはトエトリー子爵と結んだほうがいいんじゃないか?」

「……うむ。中立を決め込むのは終いじゃな。ここからは覚悟を決めねばなるまい、この町が滅びようが、民だけは救わねばならぬでな」


 後にこの判断がこの町の全てを救うことになる。三人はそう思いたかったし、そうせねばならないと心に固く刻む。

 海千山千を生きてきた三人だからこそ分かる。それは理想と現実は違うもの……。

 そんな彼らでも、この決断がただしいのかを知るすべはなかった。



 ◇◇◇



 夕暮れの町をラーマンが疾走する。その普段のラーマンらしくない機敏な走りに、町ゆく人は足を止め見入る。

 しばらく進むと北門が視界にはいり、流は全員に指示を出す。


「北門が見えてきた! リッジの爺さんよりもらった魔具を使うから、全員密集してそのまま進むぞ!!」


 それに「了解!!」と応える一同。それを振り返らず頷いた流は嵐影の(あぶみ)に立ちあがると、右手にもった魔具を思い切り閉じかけの門へとぶん投げた。

 魔具の効果なのか、流が放った速度よりも早く、グングンと勢いを増して門へとぶち当たる。

 次の瞬間、けたたましいアラームが鳴り響き、門が強制解放し始めたのを門番の一人が驚き叫ぶ。


「な、なんだ!? 門が強制解放を始めたぞ!!」

「馬鹿野郎!! 門の前から今すぐどけろ!! リッジ様の使者が通られる、住民も全て緊急退避しろおおおおお!!」


 衛兵たちが慌ただしく道を作り、道行く人々も転げるように左右に割れた。

 そこを通るラーマンに乗った男女六名。門番長が詰め所から勢いよく出てくると、先頭を走る流へと敬礼をする。


「お役目ご苦労であります!!」

「ありがとう! 迷惑をかける!!」

「いえ! 道中お気をつけて! 全員敬礼!!」


 門番長がそう言うと、全員が敬礼をして流たちを見送る。その様子をみた町の子供達も同じように敬礼をし、流たちに手をふるのだった。


「門番長。これが訓練ではないと言うことは?」

「ああ、何か一大事だろう。しかも王都方面へ緊急だ……これは何かあるかもな」


 そう言いながら衛兵たちは六名を見送る。その姿はラーマンにまたがっているが、実に勇壮(ゆうそう)であり一騎当千といえる雰囲気があった。



 ◇◇◇



 そらが茜にそまり、山の影はすでに日が落ちて暗くなってきている。北側とはいえやはり山肌に影が落ち始めており、強行突破に不安があるとセリアは思う。


「ねぇナガレ。このまま暗くなってしまったら強行突破なんてできるの?」

「それは問題ない。ラーマンってのは夜でも、まるで昼間のように見えるらしいぞ」

「え!? そうなんだ。どうりで夜の町中でも歩けるわけねぇ」

「……マ」

「あら、違うわよランエイ。私はラーマン好きですもの。偏見があるのはルーセントのほうよ?」

「んんん……んッ!? セ、セリアお前も嵐影と話せるのか?」

「え? あ、本当だ。言葉が分かるわ! いつの間に話せるようになったのかしら……」


 セリアと流は首をかしげる。不思議なこともあるものだと考えているうちに、最初の目的地である森が見えてきたのだった。 

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