466:ワン太郎はシーラを乗せて
外へ出ると、ワン太郎はぐで~っと寝そべっており、とても警戒しているとは思えなかった。
呆れるように流は近づくと、ワン太郎の頭にデコピンをする。
「こら、ちゃんと見ていたのか?」
「あいたぁ~。もぅあるじは酷いワン。だれも怪しいのは来なかったワンよ?」
「こまったワンコだよ。それともう一つ仕事だ。シーラと冒険者たちをトエトリーまで送ってくれ。その後、王都まで来てくれよ」
「え~!? あるじぃ……ワレがいないと寂しくないの?」
「それは寂しいさ。お前のモフモフは気持ちがいいしな」
「あるじぃ……」
そう言うとワン太郎は悲しそうに顔を伏せてしまう。仕方がないやつだと、流は秘蔵の〝ちゃ~りゅ・黄金の味〟を出すと、ワン太郎へと差し出す。
「ほれ、そんな顔をするなよ。これあげるからさ?」
「わぁ~!? 黄金の味だワン!! これ食べてみたかったんだワンよ~」
「おいおい、飛びつくなよ。ちゃんとあげるから」
ワン太郎は流の胸に飛びつくと、短い前足でしがみつく。しかたのないヤツだと流は左手で抱き、頭を撫でるのだった。
「う~むぅ……あれがあの氷の大狐だとは信じられんのぅ」
「俺の工房で飼いたいと思ったが、あれでは無理かぁ。残念じゃのぅ」
リッジとガランは、微笑ましくじゃれているワン太郎を見てほっこりとする。
やがてシーラも準備が出来たのか、中から出てくると全員に別れを告げる。
「シーラよ、無理ならすぐに戻ってきていいんじゃぞ?」
「さっきまで甘えは許さんと言っていたろうに。ったく……シーラ。寂しくなったらドワ爺を思い出すんじゃぞ? いつでも応援しとるからな」
「ありがとうおじいちゃんたち」
三人は抱き合うと、その後ろからエルヴィスとイルミスがやってくる。
「シーラ。向こうについたら今度はやり通すんだぞ」
「直接教えられないのが残念ですわ。はぁ……師匠はどこでどうしているのやら。もしいたら教えてもらえますのに」
「兄上、今度は大丈夫だゾ! ボクは二度と道を間違えないゾ。それにイルミスさん、親身になってくれてありがとうだゾ! 今度会う時まで、今覚えている魔法を極めておくんだゾ!」
「じゃあな。〆という狐娘によろしくな。あとカエルの折り紙と、ヒゲの執事にもよろしくな」
「ナガレ様……あなたには感謝してもしきれないんだゾ。かならずこの恩は返すんだゾ」
「まぁ怪我しないようにな? じゃあワン太郎、あとは頼むよ」
「分かったワン! すぐに追いつくワンよ~」
シーラはワン太郎を抱っこすると歩き出す。途中一度だけ振り返り、満面の笑みを浮かべ大きく手をふる。
見ればワン太郎も短い手をふっており、流も手をふりかえす。やがて路地を曲がり、二人が見えなくなるまで見送るのだった。
「さて俺たちも行くよ。そういえば嵐影はどこだ?」
流がそう言うと、Lと一緒に嵐影がちょうど店の裏手から現れる。その後ろには別のラーマンを複数連れてきていた。
「ぬぉ!? 嵐影の友達か?」
「……マァ」
「え? 軍馬の代わりに乗れって言うの? って、鞍と鐙まであるのか!? これってまさか?」
「そうじゃ~俺がコヤツに言われて急遽こしらえた。まったくコレと同じものを作れとか言われてな。この数を短時間で仕上げるのには苦労したわい」
見れば五頭のラーマンには鞍と鐙が取り付けられており、手綱までつけられていた。
それを自慢げに見るガラン師は、流にも仕事の成果を伝える。
「ナガレよ。お前のラーマンの鞍と鐙というのか? それの改良をしておいた。道中確かめてくれ」
「おお! それは助かるよ。しかしよく嵐影の言葉が分かったな」
「それが不思議とな、ランエイの言葉だけは分かるんじゃよ。他のラーマンの言葉は全く分からんがな」
「しかもじゃぞナガレ。ワシが用意した軍馬など役に立たんと言ったらしい。しかしなぁ、ラーマンで本当によか……あぁ……」
リッジはラーマンを見て訝しげに思うが、流の様子を見るとそれは杞憂だと感じる。なぜなら流はラーマンたちと会話をし、その光景をリッジは知っていた。
そう、おとぎ話に出てくる「刀を持った者」が、ラーマンと会話をしているシーンを思い出したのだから。
「アタシはこの光景を知っている。おとぎ話のアレだよ」
「そうじゃな……俺もそれを思い出していた」
「うむ。これを見たらあの話は、本当なんじゃないかと思い始めておる……」
流はラーマンたちと話し、何やら契約をしたようだ。その内容は「好きなだけ食事を食べさせる」というものだった。
どうやらそれもうまくまとまり、三人の前に流はやってくる。
「じゃあ行ってくる。関所の情報を教えてくれないか?」
「うむ、あそこは本来はワシの直轄。じゃが影の報告では、それを飛ばして国が閉鎖したと見て間違いないじゃろう。問題はその形状じゃな」
「形状? 何か特殊な形をしているのかい?」
「いや見た目は普通の関所じゃな。ただ地形が特殊なんじゃよ、岩壁に囲まれた谷にそれがある。当然こちらからの通行を阻害する作りになっておってな、向こう側には兵が駐屯しておる。じゃからそこを潜り抜けるか迂回していくしかない」
流は考える。迂回となればかなり時間を取られてしまうだろう。そしてそれは間違いなかった。
「ナガレそれはだめだ。迂回となれば稼いだ日数が無駄になる」
「そうだと思ったぜエルヴィス。なら答えは出ている――突破する!!」
流がそう宣言すると、誰しもが当然とばかりに頷く。そしてガラン師がニヤリと笑いながら話すのだった。




