463:孫とたわむれよう
「頭を上げな。あんたが悪いワケじゃないだろう? それにナガレの先祖はそれを解決するために、一族が滅びそうになるまで戦った。それだけで十分じゃないかい?」
「そうじゃな。むしろ今はそれを利用したのかされたのか分からんが、馬鹿息子がその狂神の力を使い殺戮兵器を量産しているとはな。到底容認できるものではない」
「ここまで言ったが、まだ時間は残されているとは思う。俺は一度王都へ行き爺さんの身内にさらわれた娘を救出後、準備を整えてまた帰ってくる」
「すまんな……そんな事があったとは思わなんだ。ワシも命をかけて全面的に協力をしよう。よいか皆のもの、たとえ命を落とそうとも今日の話はここだけの秘密じゃ。よいな? とくにシーラ! おまえはワシの元を離れることを禁止する!!」
そんな流の様子を見ていたエルヴィスやシーラ。そしてセリアたちも覚悟を決める。
だが褐色の美少女、シーラは不満顔だ。そして覚悟を決めて口を開く。
「おじいちゃん! ボクは決めたんだゾ!!」
「だめじゃ!! お前はまた商人になりたいと言うんじゃろう? そのせいで何人が死んだと思っとる!! 冒険者とはいえ、おまえの行動が招いた今回の悲劇。決して忘れていいものでは無い!! ワシもおまえを甘やかしすぎた……今後はおま――」
シーラはリッジより大きな声をだし話を遮る。それは駄々をこねる子供ではなく、一人の覚悟を決めた娘の咆哮とも言えるもの。
「おじいちゃん聞いてほしいんだゾ!! ボクは二度と商人になりたいだなんて言わない、言える資格がない。だからボクを守って死んだ皆に誓ったんだゾ! ボクは……ボクは! 大魔法師になるんだゾ!!」
リッジは何を言っているのか一瞬理解が出来なかった。たしかに魔法学校では教師すら凌駕した知識と才能。それが仇になり慢心し、傲慢になり、結果がこれだ。
だからその意味が分かった瞬間、リッジの頭に烈火の如く怒りがこみ上げる。
「まだそんな子供の戯言を言うかッ!! いい加減におまえが招いた状況を理解しろ!! 何が大魔法師だ、馬鹿も大概にいたせ!! そんなものになれるものなら成ってみよ!!」
「なる……成ってみせると皆に誓ったんだゾ!! ボクは二度と間違わない、きっと大魔法師になって、彼らの家族に報いるんだゾ!!」
「そんなものはワシが彼らの家族に詫びをいれておくわ、子供の遊びはここまでじゃ。ナガレの話は聞いたな? 今はおまえの戯言になぞ付き合っている暇はない」
リッジはそう冷たくシーラに言いわたす。だがシーラはそれでも諦めることはせず、その絶対の覚悟をリッジへと示す。
「ナガレ様……お願いがあるんだゾ」
「俺も爺さんの意見に賛成なんだがな? とはいえなんだ、言ってみろよ」
「ボクにもアレをください。〝逢魔が刻の手裏剣〟を!!」
「……いいのか? もしおまえが俺を裏切ったら、死より辛い目にあうぞ? うっかり今日の事を他人に話しても同じ目に合う。それは知っているよな?」
「うん、分かっているんだゾ。だからこそ、本気だとおじいちゃんに知ってもらう!!」
「まてシーラ、一体なんの話じゃ!?」
「おじいちゃんは黙っていて!! ボクは本気なんだゾ、ボクは絶対に意思を曲げない。これはワガママじゃない、彼らへのボクの誓い。たとえおじいちゃんでも、それは覆すことは出来ないんだゾ!!」
困惑するリッジ。だが話からすると、ろくな事ではないのは分かる。だからそれをやめさせようと、シーラの肩をつかもうとした時だ。
目の前にイルミスが割って入り、リッジの右手を掴む。
「ッ、イルミス。今はぬしと楽しむ時間じゃないわい。後にせぬか」
「あらいやですわ。もうろくも大概にしなさいな。貴方、勘違いをしていますわ」
「……どういうことじゃ?」
「どうもこうもありませんわ。この娘、シーラには大魔法師の資格がありますわ」
「世迷い言を」
そう言うとリッジはイルミスの手を振りほどく――が。
「本当にもうろくなさったのね? それ、蜜熊の腕でしてよ?」
「なッ!? ぐぅ重いッ!? キサマ使いおったな! パラダイス・シフトを!!」
「はて、なんの事やらわかりませんわ」
イルミスはそう言うと、扇子を取り出し口元を隠しながら笑う。やっとの事で蜜熊の手を振りほどくと、リッジはイルミスを睨みつける。
「いいですことリッジ。貴方のお孫さん、シーラはやがてこの程度ができる存在なのですわ」
「なんじゃと!? そんな話は聞いておらん、どういう事じゃ?」
「まぁパラダイス・シフトは、わたくしのオリジナルスペルですから真似は出来ませんが、それの数ランク下の魔法は使えると言うこと。パグブート・カノン……これに聞き覚えは?」
「それがどうしたと言うんじゃ。使えるだけでも戦場をひっくり返す事ができる魔法の一つ……ッ!? ま、まさかシーラはそれを使えるのか?」
「ええ使えますわ。まだ荒削りとはいえ、攻撃して敵を殲滅するくらいはできるでしょう。しかも数発撃ってもいまだに元気ですわ」
リッジはその話を聞いて驚く。影からの報告ですら、シーラがそんな上級魔法の中でも難しいと言われる、パグブート・カノンを使えるなんて無かったのだから。
しかし魔法のスペシャリストである、イルミスがそう言うのだ。それは本当なのかと考え始めたとき、シーラの声が部屋に響くのだった。




